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おったまげた初体験

「初体験」,なんだか甘い甘い思い出が詰まっている言葉だ。1人でニヤニヤ、クスリ、ウフフ、そんなオノマトペも聞こえてくる。


先日、耳にはイヤホン、口にはマスク、この寒空の下、防寒姿で自転車に跨り、前に伸びる直線道路をまぁまぁのスピードでかっ飛ばしていた。

遠くの方に1人の女性がきょろきょろしながら何かを探している。前を見ていないその女性に注意を向け、彼女の横を通り過ぎようとしたその瞬間、女性が私に声をかけてきた。

「〇〇ビルってどこですか?●●というお店はどこですか?」

どちらの場所も私には分からず、答えることができなかった。でもその場でもう一人の私が顔と口を出してきた。

「いやいや、私イヤホンしてるやん?自転車でかっ飛ばしてるやん?道を尋ねるのに、わざわざそんな人をとめるか?道先案内人に指名してもらえるには、ほど遠い状況に居る人でないのかい?他にも人いるやん?なぜ、わざわざとめる?」(心の中の声)

この女性、凄い・・・・。ある意味、私は感心した。
もし、私が彼女だったら?
わざわざ、そんな人に聞きゃしない。もっと時間の流れが緩やかな人を狙って声をかける。


彼女と別れてからも、もう一人の私が脳内で言葉をつぶやき続けた。

「へぇー。あなた、イヤホン付けて自転車かっ飛ばしてる人間をとめたんや?自転車は急には止まれないぞ?違うだろ?前、後ろ、右、左、3次元の空間には誰かいるだろ?なぜに、わざわざ地上に足をつけていない、ペダルに足を乗っけてる人間をとめた?」

頭の中は彼女の不可解な行動の理由を探る思考が渦巻いていた。理由が全く分からず、暫くの時間、「私とわたし」の会話は続いた。

いや、別にいいねんよ。分からなければ聞いてくれてもいいねんよ?
多分に、切羽詰まってたんやろ?時間がなかったから、急いで目的地へ行きたかったんやろ?だから、周りの状況なんて全く見てなかったんやろ?いいよ、いいよ、そりゃ、しゃーない。

関西弁でしゃべり続けながら、人生初体験に没頭していた。
道を尋ねられることは沢山経験してきた。でも、こんな尋ねられ方は初体験、だから、誰だか分からないあなたの心が知りたいんよ。

あなたに、わたし、はい、降参!おったまげ~。



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