VR研究は幅広い、というおはなし その1、よーへん配信コンセプト編

今回はきちんと考えた論考ではなくエッセイ風味です。
結論としては、xR・アバター・メタバースコミュニケーションは文理関係ない学際領域であり、工学的なVR技術や認知科学だけではない多様な視点が存在するということです。

VR研究者とメタパースユーザの剥離は、研究者がメタバースに興味関心がないから?

春先からVR研究・メタバースに関してこんな視点を目にすることが増えました(便宜上、ここではメタバースにVRソーシャルを含むものとします)。
「VR研究者さんの中でVRソーシャルに興味を持っていない方々がいる。そのことがVR研究者とユーザの間に剥離を生み出しているのではないか」。

この視点に対する是非はひとまず置いといて…この視点が出てきた要因であるイベントについて、当事者である私からきちんと説明したいと思いました。広がり方が私の個人的な想像より早く様々な視点が出ることは喜ばしい反面、イベント趣旨が誤解されたまま伝わるかもしれないのは悲しいと考えたからです。

この記事は上記の剥離の視点を否定するものではありません。ひとつの見方として私個人としても心に留めておくべきことです。ただイベントは私ともうお一人による問題意識のもと考えられたコンセプトに沿って実施されたもので(運営として甘い面がありましたが、それは深く関係ないのでここでは触れません)、単に重鎮の先生方をお呼びしたかっただけではないということは明確にさせてください(たぶんそれだけではあれだけの方々に出て頂けなかったでしょう)。

xR・メタバースはVR技術の歴史の上にある総合格闘技であり、学際領域

そのイベントはいつもの私の配信と同じく、xRやアバターに関係する知識や独自の視点をお持ちの研究者さん・専門家さん・ユーザさんをお招きして、集合知で「これからどうしよう?」を考えるものでした。
アバターは2年前の私が考えるだけでもこれだけの要素があるので、VR技術や関係する認知科学だけでは全体を捉えることが困難です。

直接xR「技術」と関係なくとも、例えばジェンダー論やテクノロジーで理想のアイデンティティを作る「シンデレラテクノロジー」の研究者さんなど、xR・アバター・メタバースコミュニケーションの要素となり得る研究をされている方々にご出演して頂いています。その際に「私の配信では」主に「ご自身の研究分野からxRやアバターをどう捉えたかお話してください」と言っています。VRやアバターに直接関係のない分野のゲストさんも多数います。

▲ジェンダー論の研究者さんと一緒にアバターを考えた回

これはxRが複数の研究要素を持つ学際領域・総合格闘技だということ、私がアーティストゆえに自分の制作と多様な研究領域を結びつけやすいという特性ががっちゃんこしたからこそ起こった状況でした。
例えば過去にはSFとアートを結びつけた作品を作ったこともありましたし、バイオテクノロジーとアートのプロジェクトに間接的に関わったこともあります。私の最も古いお付き合いのお師匠さまは、宇宙開発とアートを結びつけた作品を多く作っておられました。
私が例外なのではなく、アーティストや作家という存在は異種のものを結びつけて新たな視点を獲得することに長けた存在なのです。おそらく研究者もそうでしょう。だからゲストさんがご自分の研究領域からxRやアバターを考えたように、私もその方の研究領域の視点を参考に、アバターをVR技術や認知科学とは異なる視点から考えたいと思ってお話を聞いています。単なる好奇心と、アーティストとして作品を作りたいがために。

▲初音ミクの心臓をバイオテクノロジーで作ったアーティスト、福原志保さん


繰り返しになりますが、xR・アバター・メタバースコミュニケーションはとても分かりやすい学際領域であり、最低でも「工学的なVR技術・認知科学・コミュニケーションに関わる社会心理学的な要素・身体論・表象文化論・建築」の要素が必要です。でもこれらの分野の結びつきによって構成されていることは、VRソーシャルが流行り始める2017,2018年の時点ではあまり知られていませんでした。

分かっている、情報としては知っているけれど、「自分が」やるべきことではない


なので、その前からVRの研究をされている方々にこれらを網羅しろというのはなかなか難しいのが現状だと思います。例えば今回議論を呼んだ要因のイベントには、VRの人間工学的な側面をずっと研究されていた方や、VRを使って自分の身体感覚を狂わせる研究をされている方などがご出演されていました。研究者の方々はその道をずっと極めておられる方で、パッと出てきた新しい考え方に自分の研究や思考の大部分を割いたりシフトするのは難しいかったと思います。ましてや文理両方の要素を持つ学際領域の極みである、VRソーシャルコミュニケーションの要素があるのですから、ご自分の専門がありつつ新しいことを始めるのは時間と労力がかかります。
情報としては知っていて参考になると分かっていても、「自分の」やるべきことではない。そう考えておられる方もいました。

ただ私は自分にない視点を知りたかった

ではなぜその方々をお呼びしたのか。詳細は長くなったので次回として…結論としては、お呼びした方々のやっておられることも、xR・アバター・メタバースコミュニケーションを構成する一部だと分かっていたからです。私はその方々の視点からxRやメタバース、アバターなどについて知りたかった。私が持ち得ない視点からのxRやメタバースを知りたかった。これだけです。
配信をやっている理由も同様。私は自分に持ち得ない視点や価値観を知りたい、自分では見ることのできない世界を垣間見たい。ただそれだけ。

そして主催を担当したもうお一方には、私とは異なる問題意識がありました。それがイベントを開催するきっかけとなったのです。

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