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あしたの朝はあなたと

小鳥のさえずりが聞こえてくる。

どんどんと白んでくる空を布団の中で感じながらも、私はどうしても起き上がることができないでいる。

子どもの進学を機に、私の生活は一変した。
昨日までの普通が普通ではなくなった。
明け方から作っていた毎日のお弁当も、
同じメニューにならないように気をつけていた朝食作りもなくなった。
汗まみれになって洗濯カゴに放り込まれる部活の洗濯物も、
夕方になると聞こえる「今日の夕飯は何?」って声も、今はない。

少し空っぽになってしまった私の心を埋めてくれるものは、もう何も無いような気がしていた。

朝、起きる理由がみつからない。
長すぎる1日。
何をして過ごせばいいのだろう…。

そんな私を何も言わずそっとしておいてくれたひと。
仕事が忙しいのか、
単純に私のことなど気にしていないのかは分からない。
もともと朝食はしっかりと食べないから、
フルーツや野菜ジュースを軽く取り会社へと出勤していく。

いつも見送っていた。
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
そんな言葉を交わすのが怖くなった。
それからの時間が長すぎて。

沈んだ気持ちでベットから起き上がり、
また始まる今日に軽くため息をつく。
ぼんやりとキッチンに視線を送る。
トレーの上に置かれたマグカップには、
いつでも飲めるようコーヒーがセットしてある。
その隣にはヨーグルトとスプーン。

スプーンに描かれた
にっこり笑った顔のイラストを見ていたら、
なぜか涙があふれてきた。

私は一体何をしていたんだろう。
何を見てきたんだろう。

あしたの朝は、私がコーヒーを入れよう。
惹きたての豆の香りで目覚めるように。
テーブルには、少しのフルーツとヨーグルトを用意して。

お互いもう体調に気を使わなくちゃいけない歳なんだよね。
イタワルって心にも必要なことばだった。

あしたの朝から始めよう。
「行ってらっしゃい。気を付けてね。」


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