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おじいさんの定位置

「そこ、いつも私が座っている石でねえ」

自宅から車で約10分の海。珍しく自転車で来ていた私に、見知らぬおじいさんはそう声をかけた。

早朝5時。日の出前。

おじいさんは海岸沿いの決まった道を散歩し、決まった石に座るのが日課。定位置の石に私が座っているので、思わず声をかけたらしい。

「あ!すみません!」
思わず立ち上がる。

「いやいや、誰のものでもないし、ゆっくりしていきなさい」
とおじいさん。

車がほとんど走らない夜と朝の狭間、がむしゃらに自転車を漕いだ。頭の中で、恋人の「他に好きな人ができた」をかき消しながら。漕いで漕いで漕いで、自宅近くの海に戻ってきたところだった。

宮崎県宮崎市は太平洋に面している。いつもそばには海がある。
私は辛いことや嫌なことがあると、気散じに海へ来る。海は他の誰も知らない、私のいろいろを知っている。

5時半。空をオレンジが覆い、海が輝きだす。ここは特等席だ。

おじいさん、ありがとう。

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