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イモニ・ウォーズ2119

 西暦2119年、蔵王頂上付近。松が茂り、空気は澄み、荒々しくも力強い山肌が続く。風光明媚な名山である。

 それが、炎上している。

 二つの陣営―独立ヨネザワ陸軍と東北連邦ミヤギ州軍による戦いのためだ。
 笹の葉めいた形状のロケット弾が撃ちこまれ、散乱した破片に幾人かのヨネザワ兵が打倒される。
「思い知れオダヅモッ……」
 勝ち誇る砲手の頭が不意に爆ぜた。
 慌てる敵を鼻で嗤い、松林の中のスナイパーは『雪中軟白』対物ライフルをリロード。再びスコープを覗き、彼は林ごと爆炎に包まれた。

 発端は最早わからない。有史以来争い続ける味噌派閥と醤油派閥の戦いは、国家解体と小国林立、そして再統合を経てもなお続いていた。

 ミヤギ方の指揮所。
 指揮官は眼帯形HMDに映し出されたデータから戦況を分析する。傷だらけの額に皺がより、その顔は更に厳しい印象になる。
「攻めあぐねておるか」
 全体では五分、右翼は押し戻され気味。山岳地帯ゆえ機甲部隊が遅れているためだ。
 打撃力がいる。物理的、心理的にも強烈なものが。
「……あれを投入しろ」
 今が使い時だ。

 同時刻。ヨネザワ方左翼では主力戦車『黒牛A5型』部隊による突破が試みられていた。援護のないミヤギ方はなすすべもなく蹴散らされてゆく。
「いげいげ!ミヤギもんは混乱(もまえ)してっぞ!」
「了解車長!……あいづぁ何だ!」
 次の瞬間、先頭の一両が地面ごと宙を舞い、後続車両を巻き込んで落下。もろともに大破した。
「なした!?」
 戸惑う戦車隊の前、土煙を割って人影というには余りに大きな影が現れる。

 その駆動音は、地響きは、ヨネザワ方に馴染み深いものだった。
 鋼鉄の足が歩みを進めるたび、融けたバターの香りがたちこめる。それらは決してミヤギ方のほうからしてよいものではない。
 額には輝く三日月。ヨネザワの守護者、人型重機『クボタ・IM-N ナベタロウMk.30』の変わり果てた姿であった。

【つづく】

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