見出し画像

星鮮士の刃(Prototype ver.)

※このエントリーは逆噴射小説大賞2019に応募した同名作品のカット部分を「何となくもったいねえ気がするなあ」と思い、別記事として投稿したものです。

蟹座55番星e。俺達は全長13m級の「カルキノスダイオウオオカニ」と対峙していた。強靱な甲殻と戦闘艦艇の外板すら破壊する鋏を持つが、継ぎ目はこのサイズの生物にしては脆弱。勝てる相手だ。

独特のタイミングで鋏を鳴らす特徴的な威嚇に構わず、振動ブレードを起動しつつ走る。真っ直ぐ突っ込む俺を迎撃せんと大蟹は爪を振りかぶるが、狙撃がそれを弾き飛ばす。俺はその隙に開いた右第一腕部へ飛びかかる。
思い切り刀を振り下ろすと、丸太のような腕が根本から脱落した。
大蟹は残った鋏を一層強く打ち鳴らすとともに、口の周りに泡を溢れさせる。あれを使う気だな。だが。
再びの狙撃。その衝撃でタイミングのずれた強酸ジェットを俺が躱したのと同時に、岩陰から影が飛び出す。白刃が閃き爪が宙を舞った。

「ズビジェク、良くやった!あとは任せろ!」

ギチギチと苦悶の声らしきものが上がる。両爪は喪われ、酸の再発射まではあと五秒ある。決め時だ。強く踏み込み、褌部の継ぎ目に渾身の突きを見舞う。
次の瞬間、大蟹の巨体は糸が切れたように崩折れた。

「収穫はコンテナに収めたな?帰還するぞ!」

作業を手早く済ますと、俺達は移送ポータルを起動し数十光年の距離を瞬時に飛んだ。

―――

「へい、カルキノスガニの握りお待ち!」

今日も俺の職場、「天の川鮨 アルファケンタウリβ第一軌道エレベータステーション店」は様々な星の人々で大賑わいだ。

地球人が星の海へ漕ぎ出してはや五百年、FTL時代へ突入し、銀河連邦に加盟して三百余年。時空すら超えたネットワークは、食文化にもかつてない飛躍をもたらした。
そしてそれは双方向性のものだった。一部地域のカルチャーであったはずの寿司は、今や銀河全体で親しまれるファストフードの座に就いたのだ。

ところで皆さん知っての通り、寿司というものは生の肉を短冊状にスライスし、一口大のライスと合わせ掌中で箱型に形成するのが基本形となる料理。
そう、生の肉。
ポストFTL時代の寿司屋たちはここに目をつけた。

「ポータルを駆使し、獲って直ぐ調理すれば最高に新鮮なネタが提供できるのでは?」と。

宇宙は様々な生命に溢れており、食適とされる動植物の中には入手にリスクを伴うものも数多い。それを迅速に、かつ確実に手に入れる。現在、寿司職人とは即ち最精鋭の宇宙戦士にして生物学者であると言っても過言ではないだろう。

さて、そろそろ次の仕入れに行かねばならない時間だな。その前にこちらのシリウス・ガンマ星人の方の注文だけ聞いておこうか。後で足りないものがあっては困る。

「なんにしやしょう?いろいろありますよ」

「うーん……」

「今の時期ならカルキノスガニやホタテなんかがお勧めですよ」

「じゃあそれと……あ、恒星喰らいマグロの中トロってあります?」

ううむ、これは難問になりそうだ。

(つづく)


始めはスペオペ世界の……スシ屋!事情をネタ(寿司とかかってます!どうですか!?!?)にしたコメディのつもりだったワケなのですが、
「さてどんな状況がギャグになるかな?イカタコ型星人との軋轢……いや、ヤバい生き物を握ってほしいという無茶振りはどうだ?」と思いついたのが運のつき。
いつの間にかバトル展開に発展、さらに書いているうち1200字を超過したため「最もインパクトのある部分は?」という観点および
「てやんでぇ、てめぇの文章はいちいち説明くせぇんだよ!」というスペース江戸っ子からの抗議を受け、種明かしのところまでの修正カットアップと相成りました。
そういうことです。

逆噴射小説大賞投稿版はこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?