見出し画像

ネッシージャンガの亡霊

 1月12日、にじさんじのAPEX大会が行われた。この配信はAPEXとFFⅦのコラボを宣伝する為のいわゆる案件配信であり、箱の面々が様々にチームを組み、通常ルールや借り物リレーなどで遊ぶエンジョイ大会と呼ばれる部類のものだった。チーム一覧を見れば、馴染みのある組合せから、はじめましての人たちまで居て、どのチームもそれぞれの楽しみ方があったように思う。

 私はその中でも「ネッシージャンガ」を応援していた。メンバーはローレン・イロアス、レイン・パターソン、石神のぞみの3人だ。前者ふたりは同期という間柄もあり既に打ち解けた状態、リスナーにもなじみ深かったが、石神とローレンに関しては初コラボだった。それだけではなく石神は配信でFPSをプレイすることはなく、この企画のために始めることになった正真正銘の初心者だった。

 ここまでの文章でお察しのとおり、そもそも私は石神のファンだ。そしてFPSは見ることもプレイすることもほとんどなく、APEXも箱内で流行っていた2年前くらいの知識で止まっている。それに朧げな記憶の中でのAPEXの大会や大会練習の配信というのは、苛立つような指示がコメント欄に流れ、普段の配信よりも空気がピリッとしていた。そうではないものもあったかもしれないが、私の中でそういうイメージが定着するほどだったのは間違いない。
 いくらカジュアル大会と銘打っているからといっても何が起きるか配信を見るまでは分からない。彼女が傷つくようなことが無ければ良いなと思っていた。そして、緊張しいで真面目な彼女のことだ、見ているリスナーよりよっぽど不安に思っているに違いない。デビューして1年の間にそれが伝わっていたからか、最初から最後までコメント欄でのリスナーの応援は終始穏やかで温かかった。

 そして顔合わせの翌日、チームでカスタムに参加する前にひとりで練習する石神のなんと健気なことか。白状しますがこの一文が書きたくて、知ってほしくてこの記事を書きました。
 野良にVCで叱られる(マイルドな表現)まで、武器を仕舞って走ることを知らなかった彼女は、指定されたレジェンドの使い方を覚えたり、射撃訓練場で様々な武器を持って試してみたり、リスナーに教えを乞うたりと、短い時間で自分が出来ることを懸命にやっていた。その成長は素人目にも明らかで、チームメイトやそのリスナーが褒めてくれたときには勝手に誇らしく思った。

 蓋を開ければチームの雰囲気はずっと良かった、というかこの異質な組み合わせがまた見たいと思うほどには見ていて楽しかった。ローレンの指示の出し方は終始優しく積極的に褒めていてくれたし、ぱたちも石神と共に教わる側として振舞ったり、時にはカバーをしてくれたりしていた。
 何より会話が弾んでいて、聞いてて飽きなかったし、チーム名の由来となった「気まずくなったらジャンガ(某芸人さんのショートコント間のブリッジ)をする」というのが何だかうまく作用している場面も何度か見られ、初対面ならではの探り探りな関係性はそれこそコントじみているようにも見えた。
 ふたりも、ふたりのファンもこのチームを楽しんで、出来たら「石神って可愛いじゃん」と思ってくれていたらオタクは嬉しい。

 常々思っているが、案件や公式配信などで運営のキャスティングによって見られる「なんだこれ??」という組み合わせはにじさんじという巨大な箱の面白さのひとつだ。予想もしなかった魅力が引き出されて驚くこともある。このチームで私は石神の配信を見ていたが、ぱたちの元気さや愛嬌は勿論、ローレンの場を明るくしつつ、ポイントを絞って教えてくれる人の好さを存分に感じる機会にもなった。仲の良い男性ライバーと気の置けない会話をしている姿も良いが、そればかりでは見られなかった姿だろう。

 私の危惧していたコメント欄が荒れるということについても、配信を見ること自体が浸透し、ゲームを見たい層、タレントを見たい層、というようにリスナーがばらけていった結果なのかもしれないと思った。というか私が抱く界隈の印象が2年前で止まっているだけなのかもしれない。なんにせよ杞憂に終わって本当に良かった。
 あの頃からずっとにじさんじは繰り返し「カジュアル大会」という言葉を用いてきた。それは気軽に参加を促すだけでなく、タレントたちを悪意のあるコメントや望まない厳しい指示から遠ざける為でもある。完全にではないだろうがそれが目に見える形で効果を発揮していることが感じられる機会にもなった。

 大会が終わって数日経つが、何かの間違いで良いからまた3人が集まってゲームをしてみてくれないかな、なんて思う。だけど同時に、今回の記憶が薄れたころにまた気まずそうな声色で話すローレンと石神、それを笑うぱたちが見たい気もする。どちらであってもオタクは喜んでしまうので、好きにしてくれたら良い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?