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月曜日の不在者

月曜の朝は憂鬱。

もそもそと起き上がり、ぼそぼそとご飯を食べる。そしていそいそと仕事に出かけていく。

頭がまだ働かないうちに駅に到着して階段を登ってホームに行く。乗るのはいつも3両目。床に大きく『3』と書かれた印の、やや後ろに私は立って電車を待つ。

周りを見回すと大体いつも同じ人がいる。

少し神経質そうなメガネのサラリーマン。何に使うのかわからない程大きなキャリーバッグを持っている背の低めなおじさん。ネイルも洋服も完璧にきまっているのに何故かへの字口の若いOL。そして、いつもイヤホンで音漏れしながら音楽を聴いている大学生らしき男子。

皆、口には出さないけれど憂鬱な空気を纏いながら電車を待っている。

2、3分くらい待っていると、線路遠方から【ファァァーーーン】とホーム上の人を蹴散らすような警笛を鳴らして電車が入ってくる。

『電車も不機嫌だな。』

憂鬱な私達を乗せる事にうんざりしてるのだろうか。月曜の電車は心なしかやる気がなく見えた。

                       *

そんな月曜の憂鬱もしばらく訪れていない。昨今の流行り病に対策するべく、うちの会社はほぼリモートワークとなったからだ。

『あの人たちは元気にしてるだろうか。』

ただ毎週月曜日に、同じ車両で電車を待つというメンバーだっただけなのに、何となく恋しいというか切ない気持ちになってしまう。

あの人たちはもしかしたら、まだ月曜日にあの駅のホーム3両目で電車を待っているのかもしれない。その時に、わたしの不在に気づくのだろうか。

                         *

あの病が変えてしまったものは、枚挙にいとまがない。そしてその一部に『月曜日の憂鬱なルーチン』も含まれる。

あんなに嫌でしょうがなかったあの憂鬱が、今は恋しくてしょうがない。あのメンバーで不機嫌な電車を待つことは、もうたぶん一生ないだろう。当たり前の日常がこんなに簡単に塗り替えられて、もう二度と戻ることができなくなるなんて思わなかった。

                        *

そして、また先々で色々なものが塗り替えられてしまうのだろう。だってまだ終わりは全然見えない。先細るトンネルを覗くような不安は日に日に増していく。

思えば、あの憂鬱な月曜日は、本当は平和な日常だったのだ。未曾有の恐怖に怯えるでもなく、ただただ仕事が憂鬱なだけの平和な日常。

あの場にいたメンバーは今どうしているかは全くわからない。けれど、せめて『仕事で憂鬱な気分』位の、平和な日常のままであって欲しいと不在者のわたしはそう願ってしまうのだった。

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