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【備忘録】指導者が押さえておきたいトレーニングメソッド〜攻撃方向のある集団スポーツにおいて〜

トレーニングは、選手に体験させる「成功」と「失敗」のバランスが大事

オシムさんがジェフ千葉で監督されていた頃、グラウンドに来た選手の雰囲気を見て、その場で瞬間的にトレーニングメニューを考え、スタッフに準備を指示していた、と聞いたことがあります。

オシムさんのように「即興的な引き出し」ではなかったとしても、
「指導方法の引き出しの多さ」を日頃から準備しておくことが、様々な背景や特徴、能力、性格の選手たちが集まるチームを率いる指導者には必要だと思います。

どんなトレーニングでも大事なことは、練習方法に正解・不正解があるのではなく、
・指導者が何を獲得させ、どのように選手を成長させていきたいのか
・選手が「何を」感じ、「何を」考えて実行しているか
・練習において「成功体験」と「失敗体験」のバランスが取れているか

課題が単純すぎると成功が多すぎて、「集中しなくてもできる。」「飽きる。」
課題が複雑すぎると失敗が多すぎて、「どうせやってもできない。」「諦める。」

指導者仲間から質問があり、
僕も時々忘れるので、トレーニングメソッドをまとめます。

①トレーニングメソッドとは

まず、トレーニングメソッドは大きく分けて2つの要素から構築されます。

①オーガナイズ
これは即ち、「実際に選手がプレーするトレーニングメニュー」です。
細分化:選手のレベルや背景、ルール設定、コートの広さ、天候、人数、時間、攻撃方向の有無、用具の有無 などなど
②コーチング
これは即ち、「指導者のアプローチ、関わり方」です。
細分化:伝えたい内容、声かけの方法、伝えるタイミング、コーチの人数と役割分担 などなど

これらを考慮した上で、僕の知っている範囲(指導経験の範囲でもある)で、現代のトレーニングメソッドは以下の3つに分けられています。
※この他にも様々なトレーニングメソッドや考え方が存在、または開発されているとは思いますが、今回は全ての指導者が知っておくべき、基本的な3つの方法に絞ります。

a.伝統的なトレーニング方法の例
・アナリティック・トレーニング 「機械的なトレーニング方法」
 説明→実行→修正→リピート→オートマティズム(単純動作の反復回数確保)

・メソッドの特徴として
①オーガナイズ:ドリルによる単純な動作の反復
②コーチング:直接的ティーチング・直接的コーチング

・メソッドの考え方
「試合でパスが繋がらない」
→「対面パスで正確に強いパスを蹴れるように練習しよう」
「ヘディングが勝てない」
→「手で投げたボールを狙ったところヘディングできるように練習しよう」

・どのような場合にこのトレーニングメソッドが有効か
 初心者など技術レベルが低い選手に対して(自分とボールの関係)
 ウォームアップやクールダウン
 リハビリテーションの一環として
 試合や全体練習で発見されたミスの修正やTRテーマの強調したい
b.近代的なトレーニング方法の例
・グローバル・トレーニング 「全体的で、導いていくトレーニング方法」
 総合的に練習→分析→総合的に練習→分析→総合的に練習・・・

・メソッドの特徴として
①オーガナイズ:総合的な(4要素:戦術、体力、技術、精神)練習
②コーチング:注意点を特定して導いていく、総合的なティーチング、コーチング

・メソッドの考え方
「相手がいる中で練習しないと試合とかけ離れすぎる」
→「(敵味方に分かれた)ロンドやポゼッション練習で、状況に応じて判断しよう。ゴールはないしキーパーもいないけど、4要素が入ってる。練習で起こる現象を指導者は完璧にコントロールできないけど、サッカーはそういうものだから」
「技術、戦術、体力、精神といった要素は切り離せず、相互作用している」
→「走り込むだけの練習でサッカーは上手くならないから、絶対にボールを使って練習しよう」

・どのような場合にこのトレーニングメソッドが有効か
 自分と味方、相手、ボール、スペースといった要素に慣れさせたい
 選手が「認知→判断→実行」のプロセスを連続的にできるようになってほしい
 練習のマンネリ化(ドリル練習などで選手が同じ状況に飽きた)への刺激
 ボールを持っていないときの意識を変えたい(常にボールへ関わる意識)
c.現代的なトレーニング方法
・インテグラル・トレーニング 「選手のDoを確保し、リアリティを大事にするトレーニング方法」
 目標の設定(習得、反復、想定、特定)→課題設定→課題解決(決断の模索)→課題の複雑化・・・

・メソッドの特徴として
①オーガナイズ:練習の設定によるシチュエーションの再現
        「プラクティス、タスク、ゲーム」
②コーチング:ガイドコーチング、アクティブラーニング

※インテグラルトレーニング詳細は以下

②インテグラルトレーニングとは

「現代的なトレーニング方法」と言われるインテグラルトレーニングとは、「実際の試合と同じように、選手が常に考え、状況を理解することが求められるように課題を設定したトレーニング」をすることで、双方向に攻撃するチームスポーツの試合で選手個々に求められるプレーの本質を理解させようとするトレーニングであると言えます。選手は様々な要素が絡み合う試合で、同時に様々なことが求められます。これらの要素を分けないで練習することが、試合で発揮できる力を伸ばすトレーニングとなるという考え方です。

※「試合において選手に求められる能力」とは、以下の細分化された要素が絡み合っていると考えられ、分けることはできないとされています。
①予測力・認知力
②戦術理解度・戦術的経験
③技術面(ボールあり・なし)
④身体面(資質、スピード、パワー、柔軟性など)
⑤心理面(緊張感、姿勢、意志の強さ、創造性)
⑥環境適応力(天候、味方、相手、ピッチ、ボール、審判、観客)

③インテグラルトレーニングの種類

a.「プラクティス」
①オーガナイズ:アナリティックトレーニングの考え方をベースにしながらも、前・中・後というフェーズを作るトレーニングです。特に「中」がこの練習の目的であり、獲得させたい動作や試合の状況となります。でも、「中」という状況が、いきなり発生しませんよ、連続する状況の中で発生しますよ、だから、「連結学習」の中で状況を理解して課題を解決しましょう。となります。

②コーチング:トレーニングのメインは「中」なので、「前」「後」に関してはフリーズやフィードバックで負荷をかけません。前後に注意が向くと選手もコーチも「ピント」がずれます。また、身体面の負荷(反復、インターバル)も重視するので、フリーズコーチングなどの方法で練習を止めるようなアプローチでTR強度を落とすのではなく、インターバルの間の回復時間でフィードバックを行います。

・練習メニューの例
「前」コーナーキックでシュートまで(DFはシャドウでシュートで終わらせる)
「中」シュートが終わった瞬間にDFだった選手たちがカウンターへ転じる
「後」カウンターに対し、さらにクロスカウンターでフィニッシュへ


b.「タスク」

①オーガナイズ:グローバルトレーニングの考え方をベースにしながら、より焦点を絞って明確にしたものを反復しましょう。というトレーニングです。ですので、明確に目的設定、場面設定、位置の設定が求められます。(どのエリアの、どういうシチュエーションの、グローバルトレーニングなのか的な)
実際の試合よりも少人数で行うことで、プレーの参加頻度と経験値(課題の解決、学習から裏付け)を確保します。また、プレーの連続性を確保したいので、攻守の入れ替わりが絶えず起きる構造にし、その中で認知→決断→実行のプロセスが含まれています。特に、以下の双方向に攻撃するチームスポーツにおける原則からトレーニングの目的をはっきりと設定し、強調します。
・ボールの保持vsボールを奪う
・ボールの前進vs前進させない
・ゴールを奪うvsゴールを守る

②コーチング:攻守の入れ替わりが発生し、攻撃、トランジション、守備といったそれぞれの局面や様々な要素をトレーニングできますが、トレーニングの目的と解決すべき課題をはっきりと強調し、高い集中力を発揮することを求めます。

・練習メニューの例
「シュートピラミッド」(「目的としてゴールを奪う」にフォーカス)
フットサルではよく行われるトレーニングですが、ハーフコートでゴール2つ、それぞれにGKがいます。2チームに分かれ、ボールが切れたり、シュートが入ったら徐々にコート内でプレーする人数が増えていくトレーニングです。例:フィールドプレーヤーの人数が1vs0→1vs1→2vs1→2vs2→3on2→3on3→4on3→4on4


c.「ゲーム」

①オーガナイズ:練習として試合を行う中で、条件やゲーム構造の組み替えによって、起こしたい状況を強制的に人工的に作り出します。ゲーム(ゲームに近い状況)をトレーニングすることで、ゲームの中で課題を解決する力、ゲーム展開を理解する力を刺激します。条件付きゲーム、適応ゲーム、模擬ゲームという3つにさらに分類されます。

②コーチング:ゲームの「前」に、明確な目標設定を確認し、目標達成するために、必要な最適な方法へ仕向けます。ゲーム「中」は、集中力を維持するために、実際の試合と同様シンクロでコーチング、プレーの評価をし続けます。ゲームの「後」は指導者だけでなく、選手にも自分たちのプレーを評価させながら、事実と狙いを整理します。(実際にやってみて、この「後」のフィードバックが最も大事かなと思います。なぜなら、この振り返りが積み重なっていってこそ、質の高い経験値としてトレーニングが選手に残っていくからです。練習のための練習ではなくなります。

・練習メニューの例
大きく以下の①〜③に分けられますが、混ざり合っている部分もあります。簡単に例を挙げてみます。
①条件付きゲーム
 ルールに条件→タッチ数の制限
 プレーに制限→シュートを打っていい選手、エリアを決める
 動機付けを利用→トゥーキック、ヘディングやワンタッチシュートを2点にする

②適応ゲーム
 ゴールの数→1つにして攻撃側はゴール、守備側はクリア
 ピッチの広さ→ハーフコートにする、ペナルティエリアの幅にする
 ルールを開発→攻撃側は常にゴールキックから始め、自陣でCBからSBにパスをしてから解放される。守備側はSBがボールを受けるまではボールを奪ってはいけない。
 
③模擬ゲーム
 時間の想定→キックオフのカオスになりがちな時間帯、終了間際、延長戦
 相手の想定→次の試合の対戦相手の戦い方、相手選手の特徴
 状況の想定→次の試合の審判が軽い接触でもファールをとる、天候の想定など 

④まとめ

このように指導の考え方を遡ってみると、「指導者が間違ったプレーを正す」アプローチから、「選手がプレー中に(正しい)プレーを模索し、課題を解決する」アプローチに変化してきているといえます。
※もちろん、チームや選手、時期などを考慮すると、どちらも必要です。

そのためには、指導者はいきあたりばったりのトレーニングメニューではなく、選手やチームのレベルや背景、目標設定といった様々な要素を考慮しながら、ゲームモデル、プレーモデル、トレーニングモデルの3本柱を構築し、「選手が自チームにおける正しいプレー(3本柱に基づくもの)を模索しながら、課題を解決していく。そしてその中で適度な成功体験と失敗体験が混在する」ようにアプローチすることが必要となります。

どのトレーニングにも得意なこと、苦手なことがあります。また、「このトレーニングはグローバル?インテグラル?」とトレーニングメソッドの分類について迷う必要はないと思います。

それよりも最も大事なことは、様々なアプローチ方法を理解し、引き出しとして持っておくことで、目の前の選手、チームの現状と向き合って「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながら、より良い未来に向けて共に成長していくことだと思っています。


最後に、
僕は本来、高校の英語教員なので、英語の授業におけるトレーニングメソッドを常々考えていますが、なかなかうまくいきません。。。

「英単語を覚えさせる」「訳読させる」アナリティックな方法、「ICTの活用を通した」4技能へのアプローチによるグローバル的な方法、、、では、インテグラルな英語教育とは具体的には何なのか。笑
サッカー、フットサルのトレーニングメソッドと共に追求していきたいと思います。

何かご意見やアドバイスがありましたら、教えてください。


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