うまい話には気を付けよう
BBAサバイバル 14
色々なことがあって、また職を失った。
今回は約1か月、長くはないが、最短ではない。
今までで、一番短かったのは3日。期間としては1週間だが、正味2日と言うのもあったな。しかし、ウジウジした時間が異様に長かったので、実際の時間以上に長ーい日々に感じられた。
初っ端から、波乱の展開だった。2つの会社、ほぼ同時に応募し、面接を受け、内定をもらった。二股かけたわけだが、今まで10股、20股かけても、結局何も決まらず、と言う不成功体験が染みついているから、そこそこに良い条件の両社からOKをもらったことに狂喜乱舞し、どちらも手放すに忍び難かった。最後まで逡巡した結果のM社だった。
うまい話には裏がある。
長年、一人で業務を担当してきた方(75歳)が体調不良で退職するので、その引継ぎをと言うことだった。採用されたのは2人。M社からの出向扱いで、畑の中のアパートの一室での勤務。マンションと書いてあるが、どうなんでしょう。日当たりは抜群だし、電話番(一日一本あるないか)程度の仕事でお給料がもらえるなら、最高だ。研修中は2人一緒だが、後は変わり番こになるという。昼寝していようが、スクワットしていようが、自由なのだ。
が、初日の昼前には、大勢が決していた。
御大は翌々日から入院とのことで、次々仕事の説明を受ける。PCデータや、書類ファイル、引き出しの中身や印鑑、ポットのお湯替えまで。
相棒、になるはずだったA子さんの手腕は見事だった。御大がファイルに手を伸ばそうとすると、すかさず「こちらですね」と手渡し、手の不自由な温帯に代わって、マウスを操作し、ポットは「いつも扱いなれていますから」とかなんとか。御大は、孫と同じ年頃の彼女を目を細めて見ている。
一方、みみずは「こちらのデータのこの金額と、さっきのファイルの金額とは連動していないんですか」とか、バカな質問をするばかり。世間知らずも甚だしい、と振り返って後悔したが、もう遅かった。御大の冷たい眼差しは、日を追うごとに厳しくなった。
A子さんが質問すれば、「よく気が付いたわね」
みみずが質問をすると、「あなたは何でそんなこと聞くの?」
御大の検査入院の時のお留守番も最悪だった。ある日の休憩時、「私、お茶汲みっていう習慣、なじめないんです。ご要望があったらお出しするっていうことにしませんか」と言っていたA子さん。大賛成。しかし、その直後、たまたま訪れた客に、間髪入れずにお茶を出したではないか。座ったまま呆然としているみみずは、気の利かない間抜けにしか見えない。
コンビニも徒歩圏内にはないし、寒い時期の冷や飯は気が重い。A子さんがおねだりしたら、監督役の上司が電子レンジ購入を許可してくれた。ところが、スイッチを入れても作動せず。取説を確認したり、配線を見直したり。「ブレーカーは?」「私、見てきますね、どこにあるんだろう」「玄関脇の部屋か、洗面所あたりかな」
「大丈夫でした。」でも動かない。レンジの裏側や、扉の中、何かスイッチでもありはしないかと調べるが、埒が明かない。
「念のため、もう一度ブレーカー見てみるけど、どこにありました?」
返事はない。聞こえない振りも、何度もかまされると免疫力が付く。洗面所で当たり。端から3番目が落ちてる。レバーの上には、「電子レンジ」とプレート付きだ。めでたく、温かいご飯が食べられたが、わだかまりが残る。
「ごめんなさい」か、「ありがとうございました」、またはその両方を使うべきシチュエーションと思うが、素知らぬ顔だ。手ごわい。
そんなこんなの毎日が続き、結果、ほぼ1か月での業務終了となった。
やれやれ。