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誕生日なので新たな沼にダイブしてみた。

初めてGINZA SIXのFUEGUIA 1833に行った。
私はまんまとここで「沼」を見た。
深くて広くて、そしてなんて落ち着く沼なんだろうか。
その時に選んだ香りとともに10日余りを過ごしてきたが、自分の選択に間違いはなかったと自信をもって言えることがすごく嬉しい。
これまで買い物って買った瞬間が最高潮ということが多かったが、じわじわと最高が高まっていく感覚は、とっても新鮮で快感だと知った。
こんな買い物を積み重ねていきたいと思った。

あきやさん含め、自問自答ガールズのフエギアnoteは本当に素敵なので……

そりゃあ私だって行きたくなる。
行きたいなら行けばいい。
これは自問自答ファッションによって得た知見。
手帳を見ながらタイミングを考えていたら、ちょうど誕生日に行けそうだと見通しが立った。
これはムーンプランナーによって得た自分を動かすスケジューリングである。
学びが実際に行動になるって大いなる喜びだ。

ためらわずに入店できたのは、皆さんのnoteを読んでいたからだと思う。
「こんにちは」って挨拶もできた。
一瞬、どなたが店員さんで、どなたがお客様なのかわからなかったが、挨拶のおかげですぐに店員さんが挨拶を返して下さった。お客様に声を掛けてしまう人にならなくて済んだ。
対応してくださったお兄さんがもうほんとうに素敵な方だった。
こんなの間違いなくファンになる。お話していてとっても楽しいのはもちろん、姿勢とか声とか距離感とかそういったところも全部。
金の細いリングやブレスレット。お店の制服だろう長めの羽織。
人間のビジュアルイメージがほとんど記憶に残らない私には珍しく、ふんわりとした印象を覚えている。
ハーブっぽい感じとか、ユーカリとかレモングラスのアロマが好きです~とお伝えし、いざ出航である。

気に入ったものはどんどん写真に撮らせてもらった。今私のスマホには8枚の写真がある。
購入したもの以外でちゃんと覚えているものは少ない。
写真自体にメモ残せるんだからその都度何かコメント書けばよかったと反省。これは今後の試着にも生かしたいこと。

最初に試したのは、ハーブ・アロマの直球といえそうな、Muskara NeroliやMuskara Pelargoniumあたり。
ネロリ!ゼラニウム!というわかりやすいところ。
かのムスカラがベースになっていたというのは後から教えて頂いた。
草だ!と思わず言ってしまったのはPampa Húmeda
決して嫌いな香りではないが、かつて真夏の苦行(恒例行事)であったところの炎天下の草むしりを思い出してしまうので、常に纏うのはちょっと違うかな。
ウォーミングアップのようにいくつかのフラスコを試し、そして最初に立ち止まったのは〈Endeavour〉だった。

「エンデバー号」と聞いて、私はスペースシャトルのほうを思い浮かべていて、「なるほど宇宙」と思っていた。毛利衛さんとか。
いやいや、その元ネタのキャプテンクックのほうでした。勘違い。
これがまた、爽やかな柑橘の奥に確かに寺院が感じられてとっても好みだった。
そう、私が求めているのは「寺院」だった。
奥にあるお寺があまりに好みだったのでうっかり即決しそうになったのだが、お兄さんはEndeavourがお好きなら……と私の先走りを上手にいなして下さった。

じつはこのあたり立て続けに写真を撮っているものの、残念ながら印象がちゃんと残っていないゾーン。
ただし、「好き……」をめちゃくちゃ高めたゾーンでもある。

真夏の思い出は、記憶だけにとどまらず、形をも伴う。曲線を描く砂丘に佇む人の曲線。真夏の住人を映し出す海の情景。空気には純粋な琥珀を思わせる香りが、大西洋での海水浴を思い出させてくれる。

Dunas de un Cuerpo

Los Humos Sagrados(聖なる煙)は異教の聖なる森に賛辞を捧げるフレグランス。森は魂を浄化し、高め、神と出会わせる。調香の主役はパロサント、セージと沈香(アガーウッド)。古代信仰の典礼が醸し出す心情に思いを馳せて。

Los Humos Sagrados

タンゴの作詞家オメロ・マンシは自国の素晴らしさを余すところなく表現したいという信念を貫いた。

Paisaje

アンデス地方の先住民が聖なるものとして崇めた生のコカは、南米の神秘主義の中心的シンボル。この香りはパロサントの木の灰から抽出した純粋なコード。

Ceniza de Coca

いまnoteを書くにあたって改めて香りのコンセプトを調べ直したけど、どれも素敵で困っちゃう。
Los Humos Sagradosは仏壇に線香立てるのが生活の一部で、お香もすきなんです、という話から試したんだったかな。
Ceniza de Cocaはかなり好みで、魔女の秘薬っぽい雰囲気がすっごくよかった。私のコンセプトが魔女だったらこれに決めていたかも。
あ、ちなみにAgua Magnolianaも試しました。えへへ(いまにして思うとこれって聖地巡礼なのでは)

そして例によって、あらゆるものが素敵すぎて決められない現象に陥った。絞り込むことすらできない(笑)
でもこれって振り返れば結局決め手に欠いていたともいえる。どれも本当に素敵なのに。
そこから本格的にお兄さんとの対話が始まった。
よく覚えているのは、香りの使い分けの話。
季節ごとなのか、朝なのか昼なのか夜なのか、仕事なのかプライベートなのか。
暑い時期と寒い時期というくらいのくくりかな、と大雑把に答えると、「それなら今回は寒い時期に合う香りを選びましょう」と導いてくださる。確かに、いまに合うものを、という絞り込みは明確な基準になる。
赤ワインの香りは確かに冬だった。が、いかんせんセクシーすぎる。
店内をまもなくで一周というところで出会ったのが〈Biblioteca de Babel〉である。バベルの図書館。名前がもうたまらない。
何年か前に都美に来て見に行ったブリューゲルの「バベルの塔」を思い出した。言語が別たれる前の叡智の図書館なのか、それとも別たれた後の人の嘆きを集めた図書館なのか。
ワンピースに登場するオハラの図書館も思い出す(巨木!)。

試した瞬間に「あ、これだ」と思った。
わかりやすく顔に出ていたんだろうか。お兄さんがすぐに「肌に乗せてみましょうか」と言ってくださり、ウッキウキで手首を差し出す私。
肌に乗せるのはこれが初めて。ようやくここで!
自分の肌に馴染まなかったらあんまりだなぁと思いながら、フラスコ経由じゃない、ふわんと自分にぐっと近づいてくれた香りを深く吸い込んだ。
やっぱり好きだ。

しばらく時間が経つとすこし印象が変わります、ということでそこから雑談タイム。
お兄さんがどんなふうに香水を保存しているか。どのくらい持っているのか。
私の職業の話。「なんで平日の昼間にお買い物に?」という話から、私のちょっと特殊な職場環境について。(それにしても私はいろんな場所で職業を開示しがち)(一風変わったその職業の人だと思われるのが好きなんだろうな)
多様性の話。次世代を担う子どもたちに少しでも生きやすい環境をつくりたいですよね、なんて話。趣味の話、歴史の話、好きなものについて。本当に聞き上手で、かといって私ばかりが喋り続けていたという居心地の悪さが残るわけでもなく、とっても楽しくて買い物に来ていることを忘れそうになるくらいだった。
そしてとっても嬉しいことを言って下さった。

「お話をしているとやっぱり〈Biblioteca de Babel〉だなって思います」

思わず、「私もそう思います」と答えてしまってお互いに笑った。
だいぶ話し込んでいたので、肌に乗せた香りも馴染み始めていた。この変化なら大丈夫。よかった。
本当は、この日には買うつもりではなかった。
試して、持ち帰って、考えるつもりだった。
でも私はこの香りと生きたいと思った。この香りが似合う人になりたいと思った。このお兄さんから買いたいと思った。
そして、この日は私の誕生日だった。
生き様に寄りそってくれそうな、導いてくれそうな香りを購入するのに、出直す必要はあるだろうか。
むしろ誕生日に買うという体験ごと未来に連れていきたいじゃないか。
覚悟は決まった。

あとは100mlか30mlか……はほとんど迷わなかった。
躊躇わずに使いたいので、100ml一択。
シリアルナンバーが選べると言われてとっさに思い浮かばなくて、候補の中からわりと切りのいい数字を選んでしまったことだけはちょっと心残りかもしれない。
でもいいんだ。これからこの数字を意味のあるものに変えることだって私にはできるから。
もう胸がいっぱいだった。

お会計が混み合っていたので、しばらく他のものも試してみることに。
自分が購入するものではないと思うと気楽に次々試せて面白かったな。
そういえば、すっごくたくさん試したけど、気分が悪くなることも、鼻がおかしくなることもなくてほんと不思議だった。
そろそろお会計かしら?というところで見覚えのある文字列を発見し、これは試さねば、となった。
それが〈Jacarandá〉
tacicaの2枚目のアルバム「jacaranda」がほんっとうに好きで、2017年の"jacaranda"再現ツアー「TIMELINE for “jacaranda”」の「Galapagos」で号泣した。

次に思い出したのがフジファブリックの「モノノケハカランダ」。

仙台のライブハウスで聴いたイントロのギターはいまでも思い出せる。
「FAB FOX」というアルバムは帰省する時に聞き返しては、亡き志村君に思いを馳せるのだが、その1曲目がモノノケハカランダ。
必要以上にセンチメンタルになっているかもしれないけど、モノノケハカランダからはじまって茜色の夕日で終わるアルバムを、富士急行線の電車に乗りながら聞いて、泣かないのは無理。

つまりこれは持っていたいと思わせるネーミングだったのだ。
なんとお兄さんも「それは絶対お好きだと思います!」と太鼓判。
はい、好き。間違いない。

ジャカランダの花が曇った窓の外にハラハラと落ち、19世紀のギターをかき鳴らす音が静けさを破る。

Jacarandá

19世紀のギターと21世紀のギターが私の中で錯綜する。それもまた素敵な体験だ。
〈Biblioteca de Babel〉と香りの傾向が似ていないわけではないので、すぐに購入ということにはならないかもしれないけど、きっといつか連れて生きたい香りだった。青春とロックとノスタルジー。

最後にさらに素敵だったのは、誕生日だということは対話の中で触れていたのだが、ラッピングにさりげなくリボンをつけて下さったこと。
もうこんなの絶対好きになる。
あまりに胸がいっぱいで、別の買い物でこの記憶を上書きしたくなかったので、そのままGINZA SIXをあとにして、カフェーパウリスタに駆け込んだ。
どこに行こうかいくつか候補を考えたけれど、〈Biblioteca de Babel〉には真新しいピカピカのカフェじゃなくて、日本の喫茶店文化の先駆たるパウリスタのほうがきっと似合うと思ったのだ。
今の建物は芥川や獅子文六が通った店舗とは違うのはわかっているけど、きっとバベルの図書館は時間を超越して存在しているので、彼らの本もこの珈琲の香りと一緒にしまわれているに違いない。
古いカフェとか図書館とか、物語とか。
これって私がコンセプトにしたいものを全部含みこんでいる。
私は、ただ単にセルフ誕プレとして初めてフエギア香水を買ったんじゃなく、そんな意味を遥かに超えて、コンセプトの土台をここに築いたんじゃないだろうか。
なんてこと!
進化、深化のお時間ですね。

そして帰宅後に初めて目を通した〈Biblioteca de Babel〉のコンセプト。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの杉製書棚へ書物が整然と並んでいる。重厚な革の装丁、羊皮紙とインクの匂い。風化した本に宿る幾重にも重なる言葉、思考、時間と物質が息を吹き返す。

Biblioteca de Babel

ボルヘス!なんと!!
幼少期の私に幻想文学好きかつ辞書的物語収集を確定させたあのボルヘス!!!
ここにきて伏線回収!!!!
なので、「手を飾るワークリターンズ」には『幻獣辞典』が入っているのです。すごいね、フエギア。

ちなみに、季節が違えば香りの感じ方も変わるらしいので、軽率な気持ちで定期的に訪問したいですね★

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