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映画感想戦『ドライブ・マイ・カー』

⚠️ネタバレ含みます⚠️

私は父の影響で村上春樹に手を出したクチなんですが、映像化されて話題になっていたのでいずれ見たいな〜とは思っていました。アカデミー賞受賞とも聞きましたし、期待は割と大きめ。

見ました。

何も分からん。

本当に驚くくらい何にも分からなかったです。
私の脳が足らん所為もあるでしょうけれど、分かりやすく明示されたメッセージ性というものが無かった気がします。
でもそこに不満があるわけでなく、シンプルに「あ、面白い」と思いました。具体的にどこが琴線に触れたのか文字に起こすのが難しいですが、書きながら考えます。

冒頭、主人公・家福とその妻・音。
初っ端から事後なわけですが村上春樹だわ…という偏見に基づく感想が湧きました。
彼の作品にセックスがようけ出るのは読んでいる方にはお分かりになると思いますが、個人的にはセックスの単語や描写は記号的で、心情を言葉にする前のワンクッションではないかと考えています。自分の気持ちを素直に吐露するに丁度良い、というか情事後はその側面がより顕著になると思うので。重視しているのはエロティックではなく、心地良い二人きりの状況を表すためのシンボルマークかなと思います。ただ原作の短編にはこのシーンは出てこないので、監督の村上リスペクトかな。この手のハルキファン特有の概念を共有している節が割と好きです。

閑話休題。

俳優の体つきに美しさを感じながら、音が話を始めます。その内容がめちゃくちゃ好みなので私はこの冒頭だけ3回くらい見直しました。
どうやったらそんな気持ち悪い話思いつくんだろうと不思議な気持ちになります。監督兼脚本は濱口竜介さん。他の作品を存じ上げないのでそのうち履修しようと思います。
【ヤマガという同級生に恋する少女。彼女は授業を抜け出してヤマガの家に侵入する。侵入するだけでなく戦利品を持ち帰り、代わりに自分のいた痕跡を残していく。印の交換によって二人は段々と交わっていく。…】
ァ怖ーーーーっと思いながら、淡々と話す二人の語り口と奇妙な物語のギャップに惹かれます。深夜の挑戦的なドラマ見たいです。どこか放映して。
この物語は本筋では無いけれど、夫婦の精神的な繋がりを強くするための一種の儀式じみていて、二人にとって重要な時間の共有であると思います。少なくとも家福にとってはそうだと思います。
だからこそ後々出会う高槻という男(音の不倫相手)がこの物語を知っていて、なおかつ家福の知らない物語の続きを知っていたと分かった時、大きなショックを受ける。

夫婦とか結婚って、共依存的に成立しているのかなと思うことがあります。家族や友人との関係性とは何が違うのかなと。
全くの他人同士が惹かれ合い、人生を共に歩むことを誓うのは、相互的な依存心があるから?浮気や不倫を厭うのは、独占欲や嫉妬心が湧くのは、相手の中に自分の価値を見出しているから?もし片方でも喪失してしまえば、両方が立ち行かなくなるという危機感が常にあります。結婚する責任に由来するものなのか測りかねますが。
だからこそ家福は音の不倫を問いたださなかったのかなと思います。満たされた結婚生活を壊す可能性を自らが生みたくなかった。どのような理由があっても音には音の、家福には家福の、価値観とモラリティがある。
「空き巣はして良いけれど、オナニーはしてはならない」
個々のルールは複数存在していて、そのどれほどを受け入れるか、拒絶するのか、これもまた個人の裁量による。受け入れたことで円満な結婚生活を送れたかもしれない。けれど家福は音の不倫を受け入れがたく思いながらも見て見ぬふりをして、表面上“ないもの”として扱うことで円満な結婚生活を得ました。人間臭くてとっても良いですね。めちゃくちゃ好きです。

「奥さんの全てを本当として捉えることは難しいですか?奥さんに何の謎もないじゃないですか。ただ単にそういう人だった、と捉えることは難しいですか?貴方を愛したことも、ほかの男性を求めたことも、何のウソも矛盾もないように、私には思えるんんです」

劇中でみさきの言うこのセリフ。
諦念のようにも、真理のようにも聞こえるんですよね。
多面的で矛盾だらけであっても、総括してそういう人間であると受け入れることは大変難しいことではあります。しかし往々にして社会に属する人々は、この技術が求められる。会社や他の交友関係でも理解し難い価値観を持つ人は絶対に現れる訳ですから。


マァこんな感じでだらだら思ったことを書き連ねても、やっぱり明確な「これだ!」と思うような言葉は出てこなかったのですけど。
なんというか、映画を見たというより長編小説を読み終えたような感覚です。
物語は淡々と進み、ある種無情にも思える。台詞や言い回しも本に準えたように、文字を抑揚なく読んでいるように思えました。感情が見えずらいと言うか、唯一力入ってんなと思ったのは高槻くらいですね。
そうやって静かに進んでいくからこそ、人間臭い面が浮き彫りになって、けれど嫌悪感を抱かずスッと見れる映画でした。とても好き。

とりあえずチェーホフを読んでもう一度見たいと思います。きっと真に理解することはできませんが。

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