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上飯田線くんを救いたい

名古屋市営地下鉄上飯田線。ご存じ、全長わずか0.8kmの日本一短い地下鉄路線です。地下鉄名城線と接続する平安通~かつての名鉄小牧線の終点上飯田を結んでいます。今回はそんな上飯田線をどうにかしてもっと便利にできないかを考えていきます。

現状

上飯田線、そして名鉄小牧線からの名古屋都心部へのアクセスはどうもよろしくない。平安通で名城線に接続していますので、栄・上前津(大須)・金山へは1回乗り換えるだけで行けますが、肝心の名駅へは大曽根でJR中央線に乗り換えるか、久屋大通で桜通線に乗り換えるか、栄で東山線に乗り換える必要があり、2回乗り換えが必要になります。
そのため、せっかく地下鉄に接続するルートを開拓したにもかかわらず、名駅へは犬山に出て犬山線経由で行く方が乗換回数は少なく済みます。もちろん味鋺や味美など、名古屋からほど近い場所ならば2回乗り換えでも犬山まで出ることに比べれば短く済みますが、当然離れれば犬山に近くなり、平安通から遠くなります。主要駅である小牧が平安通までの所要時間と犬山までの所要時間が均衡する場所になります。そして犬山から名駅までが約30分なのに対し、平安通から名駅までだと乗り換え時間にもよりますが20分~25分程度。そのため、小牧以北の場合は犬山経由の方が速くなるんですよね。
名駅に限らず、平安通経由の場合、名城・名港線の各駅以外は否応なく2回乗り換えになります。なので大学や学校の多い鶴舞線や桜通線沿線についても同様に名城線で乗換駅までいったん出るという必要があります。加えて、東部方面の場合は本山や八事方面に向かうことになりますが、右回りは10分間隔での運転に対し、上飯田線・小牧線は15分間隔と見事にかみ合っていません。

このように、現在の上飯田線は「名鉄小牧線をとりあえず平安通までくっつけました」状態で止まっているんですよね。事実、地下鉄区間のみの利用は当然ながらごく少数で、ほとんどは小牧線からの直通利用です。ではそんな上飯田線、延伸計画がないのかと言われたらそんなことはありません。もちろん平安通以南の計画もあります。まずはそれを見てみましょう。

延伸計画

偉大なるファンサイト、まるはち交通センター様が詳しくまとめてくださっていますので簡単に要点だけ見ていきますと、
・平安通から南下したのち国道19号直下を進むルート
・都心側の終点は丸田町交差点直下
・新栄町や高岳で既存路線との接続が想定される
となっています。

さてこの計画ですが、まぁとても現実的な案だとは思います。平安通からそのまま南へ降りてくるとなればこういったルートになってくるとは思いますしね。新栄町で東山線に接続できるのもよい点だとは思います。

妄想

ただ、個人的にはもっと別ルートを考えてもいいのではないかな、と思います。上飯田線で最も惜しい点が、隣の大曽根駅に乗り入れていないということなんですよね。大曽根に乗り入れていれば、JR中央線に直接乗り換えが可能ですし、あまり利用者は多くないとは思いますが瀬戸方面などとの接続もよくなります。そこでです。今からでも大曽根経由のルートができないか考えました。それがこのツイート。

平安通から右へ進路を変え、名城線大曽根駅の南側、JR中央線のホーム下あたりに大曽根駅を設け、そのまま東へ向かって環状線直下を進んで今池につながるルートです。ツイートの方がフリーハンドだったので、ちょっと真面目に書いたやつも貼ります。

Google Mapに加筆

駅の場所は適当です。イオンモール直下の矢田南から今池まではおよそ2.3km程。本来であれば千種公園北西あたりに1駅のみの設置が妥当な距離なんですが、矢田南からの距離が短くても古出来町には駅があった方がいいと思うんですよね。基幹バスとの結節点にもなりますし。なので古出来町に駅を設けると、今度は古出来町~今池がちょっと長すぎる距離になります。途中駅なしでも十分な距離ではあるんですが、中心部ですしもう1駅あってもよいかなということでこうなりました。

このルート、大曽根~今池は市バスの吹上11号が運行しており、さらに元を辿れば名古屋市電の63号系統がありました。市電の方は古すぎて情報があまりありませんが、吹上11号は幹線を名乗らない一般系統ながら日中でも毎時3本が確保され、2019年以前は毎年黒字系統のリストに載っていました。つまり、需要はあるんです。

都市間交通と都市内交通

少し話を変えます。名古屋市内の鉄道路線は地下鉄のほかにJR・名鉄・近鉄・あおなみ線が入っています。このうち近鉄とあおなみ線は非常に局所的なので一旦省略するとして、残り3社、つまりJRと名鉄と地下鉄が市内交通を形成しています。このように書くと見栄えはいいんですが、実態はほぼ地下鉄の独占状態です。JRは東海道線が名古屋から金山・熱田は通るものの基本は笠寺や大高といった南東部の南区・緑区方面を結ぶ程度でこれも局所的、関西線も近鉄と同じで中川区の一部をかじるぐらい。名鉄も金山や神宮前はあれど名古屋本線が西区のごく一部と東海道線と同じ緑区方面、常滑線が臨海部の南区方面、犬山線に至ってはいったん市外に出た上で上小田井だけをカバーしている、という路線網なので、市内の移動として使うような路線じゃないんですよね。

端的に言えば、都市間交通と都市内交通の違いです。たとえば、A市を走る地下鉄路線とそのA市の地下鉄に直通するB市からの私鉄路線、という関係をを考えてみましょう。この場合、A市という都市の中を移動するための路線が地下鉄、A市とB市の都市同士を移動するための路線が私鉄ですよね。これが都市内交通と都市間交通の違いです。具体的な例を出せば、東京の場合は副都心線と東急東横線、名古屋なら鶴舞線と名鉄豊田線、大阪なら堺筋線と阪急京都線がそっくりそのままこの関係にあたります。

先ほど挙げたJRや名鉄の各路線は都市間交通に当たります。東海道線や名古屋本線は岡崎や大府/知立・岐阜や一宮と名古屋を結ぶ役割、関西線と近鉄は桑名や弥富、蟹江と名古屋を結ぶ路線、常滑線は東海や知多、半田などと名古屋を結ぶ路線です。その途中で名古屋市内を通る部分があるだけで、本質的には都市内交通ではありません。その証拠に、先ほど挙げた各線のうち、名古屋・金山・神宮前以外で優等が停車するのは名鉄の上小田井・鳴海・大江・大同町ぐらいです。JRと近鉄は市内に快速や急行が停車する駅はありませんし、名鉄も最優等の特急系はとまりません。これは当然郊外への利便性を重視しているからです。

では、都市内交通としての役割があるのはどの路線か、と言えば当然地下鉄です。地下鉄は急行運転もしてませんし、赤池以外は全て名古屋市内にある駅ですから、名古屋市内を移動する、という利用を主眼に置いているわけです。まぁ名古屋市が運営しているので当然と言えば当然ですが。そして地下鉄以外に都市内交通の役割を持つ路線がたった2路線(厳密には1路線)ながらあります。

1つ目は名鉄瀬戸線です。都心部の栄町から東区と北区を経由して大曽根に出て、そこから守山区の小幡や大森を経由します。確かに元は名古屋と瀬戸を結ぶ都市間交通ですが、路線の半分以上は名古屋市内ですし、市内移動と言って過言ではないかと思います。ただ、瀬戸線は守山区の沿線民以外にはあまり縁がある路線ではありません。使うとしてもせいぜい栄と大曽根の間ぐらいでしょう。

ではもう1つの路線はと言えば、ずばりJR中央線です。前にも長々と書いているので手短に言えば、名駅・金山・鶴舞・千種・大曽根と市内各駅で地下鉄路線と接続しています。さらにこの区間は快速も各駅に停車し、日中でも毎時8本が確保されています。

この記事内で挙げている利用者数のグラフを見れば市内利用の多さが分かるかと思います。つまり、名古屋の都市内交通は極端に言えば地下鉄+中央線だけということになります。

南北交通事情

ここからようやく上飯田線の話に戻ります。なぜ中央線だけ地下鉄でもないのにここまで利用があるか、ということです。それはズバリ、地下鉄は中心部の南北方向の路線がないからです。

Google Mapに加筆

地下鉄+中央線の路線図です。名城線が環状線であるため確かに南北方向はおろか市内各方向への利便性は高まりましたが、東山線から北側に上がる路線が名城線と中央線しかないんですね。東山線から南側は桜通線が南北に走ってくれているのでいいんですが、桜通線は今池から西へ進路を変えてしまうので、北へ行こうと思うと中央線しかありません。もしくは本山か栄まで回って名城線です。しかし鶴舞や千種と大曽根はJRなら数分の所、地下鉄なら栄経由で20分はかかります。


Google Mapに加筆(中央線は加筆していません)

そこで上飯田線です。このようにすればいかにこの区間が重要かわかるでしょう。今池から西に行ってしまう桜通線の代わりに南北方向の路線の役割を期待したいのです。こうなれば環状線に加え東西2路線に南北1路線となり、利便性が非常に上がります。

さらに妄想を膨らませると、桜通線は将来の豊明や津島方面への延伸で名鉄線との直通を想定して、鶴舞線と同一規格で設計されており、単独路線ながら名鉄と同じ規格であり、つまりは上飯田線とも同じ規格になります。今池駅の構造的な問題というとてつもなく大きな問題はありますが、桜通線に直通することも不可能ではないわけです。ルート的にはそのまま徳重方面へ抜けるのが簡単ですし、南北が1本でつながりとても便利です。ただ今池以西の本数補完と小牧線からの直通利便を考えて、手間ではありますが今池折り返しの太閤通乗り入れとなれば、これも面白いですよね。若干遠回りにはなりますが小牧から久屋大通と名駅に乗り換えなしですし、本数面でも東山線のバイパス的役割に近づきます。

問題点

さて盛り上がってまいりましたが、残念なお話をします。ここで書いたことはほぼ現実にならないと言っていいでしょう。それはなぜかといえば、そこまでするメリットがないからです。小牧線も平安通で名城線に接続しており最低限の利便性は確保されていますし、南北交通の問題も吹上11号が毎時3本で対応しきれているのが現状です。さらに、今池の地下部分は既に2路線が入っている上に桜通線には急カーブがあり、新たに線路を通し、しかもつなげるとなると相当の大工事になります。そこまで多額の工費を投入するほどか?と言われてしまうと、残念ながらそうではないんですよね。

そもそもの話、上飯田線は名古屋市の税金で造られましたが、あの路線で利益を得ているのはほとんどが小牧線沿線の春日井市民や小牧市民、という矛盾なんですよね。小牧線との連絡を改善するのは確かに大事ではありましたが、「それつくって名古屋市民に利益あった?」とも思います。むしろ上飯田線は赤字路線なのでそれによる負担が増えているんですよね。距離が短いので額にしたら大したことないんですが、営業係数は上下分離方式による線路使用料を除いても他路線と比較してダントツひどい数値です。

そのほかにも、平安通から矢田に向けてS字のルートになるのでカーブが多く時間がかかることが予想される、大曽根駅が南側になり他路線と離れていて利便性が悪い、今池折り返しにした場合南北路線ができても乗換が必要で利便性が悪い…など余多の問題点を抱えています。まぁつまりは不可能ってことです。
救いたいとか言っておいて結局ただの妄想垂れ流しでした、ごめんなさい。でもこうでもしないとあの路線日本一短いとかいうどうでもいい取柄しか残らないので…。

余談

個人的には名鉄小牧線が瀬戸線の大曽根駅につながっていた世界線も見てみたかったですね。4両編成という同じ規格ですし、小牧線は大曽根と栄町に乗り入れるルートを獲得し、瀬戸線は都心側の本数増強につながる。さらに瀬戸線は小牧線を介して犬山の車庫へ出入りできるようになり、本線と線路がつながるので、車両も共通化できる。なかなか面白そうですよね。
まぁ小牧線が地下鉄と繋がってしまった以上こっちは完全に妄想だけになるんですが、そんな風になっていたらピーチライナーも生き永らえていたのかな、なんて思ったりしました。

では今回はこの辺で。いつの間にか前記事から半年も経っていたので次は早めに書きたいですね。