書評:『サピエンス全史(上)』(ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之)その5

サクッといく。第6章。

農業革命をもたらしたサピエンス。今度は、ハンムラビ法典とか、アメリカ独立宣言などの神話を作り出す。著者はこれを「想像上の秩序」と呼ぶ。

もっともらしい「人権宣言」のようなものは全部神話で、絶対的な真実じゃないと著者は言う。「真実と異なる嘘だ」と言っている。同時に、それは、大集団の社会秩序を整えるため「役立っている」と言う。常識知らずだ。
しかし、これが正しく思えてくる。

ハンムラビ法典では、人が二つの身分に分かれている。法典の中で、色々な理屈がこねられている。人間は生まれながらに二つに分かれていないので、この法典は正しくない(誰でも容易に理解できる)。

米国の独立宣言の方は、面白い。独立宣言とは、以下である。

我々は以下の事実を自明のものと見なす。すなわち、万人は平等に造られており、奪うことのできない特定の権利を造物主によって与えられており、その権利には、生命、自由、幸福の追求が含まれている

現代の我々には、正しいと感じられ、すんなり受け入れられるだろう。
しかし、最近の科学で、事実に書き直すと、以下になるそうだ。

我々は以下の事実を自明のものと見なす。すなわち、万人は異なった形で進化しており、変わりやすい特定の特徴を持って生まれ、その特徴には、生命、快楽の追求が含まれる

最初の文章は、国をまとめるのに役立ちそうであるが、下の事実の文章は社会秩序を築くのに役に立ちそうもない。下の文章から導き出されるのは、酒池肉林の世界。秩序からは程遠い。

サピエンスは、事実とは反する想像上の神話を用い、社会の秩序を作ってきた、と著者は言う。


感想。

大学でフランス語を少し学んだ私には、自由・平等・博愛が人類普遍の原理として叩き込まれている。しかし、そんなものは、確かに神話であり、想像上のものであり、秩序維持のためのものだろう。想像上の創作を絶対的なものと信じるから、社会に秩序は生まれる。確かに神話の一つだと思う。

神話を信じてこそ、社会の秩序が保たれる、ことを受け入れないと、人間社会は成り立たない、と思った。明らかに嘘である日本書紀なども、受け入れないといけないんでしょうね(受け入れられないけど)。


この本は、最初の部分で衝撃を受けた。ここから先は中だるむ。
「この本、面白いのは最初だけかなー」と思っていると、終盤また刺激的になる。

次の書評からは、中だるみを一気にやっつけちゃう予定。

<追伸>
下巻を読み終わった。翻訳者の柴田さんが書いたあとがきは、要旨を素晴らしくまとめている。書評を書くことに萎えてきた。読者が萎えるぐらいの高い文章力を持つ柴田さんのあとがきを、書評としてどこかに上げておけば、この本は10倍ぐらい売れると思うんだけど。

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