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書評:『プラットフォーム・レボリューション PLATFORM REVOLUTION』(ジェフリー・G・パーカー, マーシャル・W・ヴァン・アルスタイン, サンジート・ポール・チョーダリー, 妹尾 堅一郎, 渡部 典子)

今年読んだ本の中で、抜群につまんない。

世の中で騒がれているいわゆるプラットフォームビジネスについてまとめた教科書のような本である。良く調べてあるし、良くまとまっている。しかし、プラットフォーム事業を立ち上げるには、役に立たない気がするし、全く儲かる気がしない。いや、良くまとまっているんだけど。そして、この本が2018年に出ていることに衝撃を受けた。10年以上遅いよ・・・

どうして、こういう感想を持つのかというのを自分なりに考えてみた。やはり、近くにいわゆるプラットフォーム事業を立ち上げて、上場企業の社長をしている人を知り合いに持つ身からすると、人のやったことを調べてまとめるという評論家的な態度と、実際に立ち上げた人がやっていたことや、考えていたことをリアルタイムに聞いていたことのギャップの大きさを感じるわけだ。

色々事例が出てきて、外からまとめるとこんな本になるのだろうが、こんな教科書になった本になって、誰もでもやるようなことをやっても、全く儲かる気がしない。人をやらないけど、実はうまくいきそうなことをやるのが戦略なのであって、スタートアップであると私は思っているので、そういう観点からみてみると実につまらない本であるし、この本の通りにやっても、周りが同じようにしていて、全く儲かる気がしないと感じたのである。

まあ、色々事例が出てきてまとめるとこうなると思うのだが、そんなことをこっちからすると、2000-2010年の間に散々分析してやってきた。ただ言葉が違うだけだ。分析屋としても言っていることが古いのだ。

だけでなく、ちゃんと事業を立ち上げて成功してきた人たちは、こんなに事例がなくても、NintendoとPlay Station、楽天とアマゾンのECで、この辺りのことは十分理解しており、いち早くgoogle adsenseのキャッシュフローの構造を見抜いていた。そして、やってみていた。それは、2000-2003年ぐらいの出来事であったように思えるわけであり、今頃そんな当たり前のことを今頃教科書にまとめられても全く面白くない。教科書を知っているより、実行するのが困難であるわけで、「んなこと言われなくても20年前からわかっとるわ、ボケー」となるわけである。

分析屋の方に戻ると、例えば、パイプライン企業という話が出てくるが、バリューチェーンが流行っていた頃に、「バリューチェーンからバリューネットワークへ」というのがいち早く提唱されていた。2000-2005年ぐらいにはそういう話になったわけで、日本語で言えば、「垂直統合から水平統合へ」ということで、それが基盤事業である。本質が変わったわけでもなんでもなく、当時流行っていた理論でそのまんま分析できてしまう。

また、本の中で、ポーターの5 forcesが出てくる。もう使えないようなことが書いてあるけど、生兵法は怪我の元である。5 forcesを運用するときに難しいのは、業界の切り方である。ここ20年、デジタル技術により業界は曖昧なものになっている。なので、業界の線引きをどこでするのかが、5 forcesという戦略方法論を運用するときに一番難しいことは、古今東西変わっていない。しかも、5 forcesは良くできていて、それはただのAlternatives 代替品の脅威を見逃しているにすぎない。

何がいいたのかというと、チンケな理論もどきを作りたがる人は、ただたくさん調べて、事例だけを積み上げて、もっともらしく小難しくまとめてくるのであるが、それは全部インチキで、古い理論の焼き直しでしかない。この本は、まさにそれである。ニュートン力学が微分積分でほぼ説明できてしまうように、美しい理論というのは、5 forcesにせよシンプルである。似たようなことを、違うようにグダグダと分類して、ただ長いという理論としてのダメ具合を延々と続けるこの本は、駄作であると私は信じて疑わない。

同じ事例を積み上げるなら、ジムコリンズの邦題ビジョナリーカンパニーのシリーズのように、シンプルな主張を多くの事例でカバーして欲しいわけで、ただただ大学生のチンケな分類を読まされる気にもなって欲しい。実に本質的でないし、役に立たない(ま、ど素人向けにはいいのかもしれないが)。

というわけで、こんなチンケな理論がなくとも、もっと少ない事例から、実業をするのに役に立つアクションと意思決定ぐらいこちらで作れるわい。要するに、俺の方がお前より良い教科書作れるわ、ボケー、となるのは、きっと戦略家の嵯峨に違いない。

おまけに、この本、訳が酷くて非常に読みにくい。

次に読んだ本が同じ翻訳本でも読みやすいので、非常に驚いてしまった。

で、監修を見ていたら妹尾堅一郎さんだった。ああ、この人の授業は大学で聞いたな。「役に立たねーなー」と思いながら聞いていたし、インターネットの技術を知る同僚たちにバカにされていたのが妹尾さんだった気がする(妹尾さんディスってごめんなさい。でも、ほんとなんだもん。時効だから許してください)。

結局、妹尾さんと私は合わないということで、良いと思う。

プラットフォームビジネスとはなんなのか。それは、AWSでいいんですよ。
(分かんねーだろうなー、妹尾さんには)




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