書評:『孫子』(金谷 治 訳注)
私の中で戦略と言えば『孫子』なのですが、岩波文庫のこの『孫子』が一番好きです。著者は、孫武か孫臏か曹操なのか不明のようですが、この本が多くの版がある『孫子』をよく纏めている名著と思います。
冒頭の計編第一の最初「兵とは国の大事なり」から始まる一節が一番好きです。どういうことが書いてあるかというと、
「戦争とは国家の大事である。お金もかかるし、人民の負担も大きいし。だから、迂闊に始めず慎重にやろう。そもそも勝敗というのは戦端を開く前に予め決まっているのだから、開戦前に『道天地将法』を計っておいて、勝算があるようにしてから戦端を開こうね」
『道天地将法』をカタカナにすると、
・道:ビジョンとビヘイビア
・天:タイミング
・地:ケイパビリティ
・将:リーダー達
・法:ガバナンス」
と私は考えています。
ただ、『ブルーオーシャン戦略』の主張にある「しょせんは軍事でビジネスを論じてもちょっと違うよね」というのはその通りで、孫子の教えをビジネスに活かそうとすると、軍事ではないので限界もあると思います。
例えば、スタートアップ企業では、冒頭の「兵とは国の大事なり」という前提が違います。昔は、新規事業を立ち上げるのにも大きなリソースを食ったので、大事(おおごと)であったが、今は、スモールスタートできるものも多いので、事業を始める事は「大事(おおごと)」ではないし、「おおごと」にしないリスクマネーたるベンチャーキャピタルの資金もある。ITインフラはIaaSで賄え、大規模な設備投資もいらないなどの環境の違いがある(孫子の斥候の重視などは、コンセプトとしてリーンスタートアップの市場偵察と近い気もしますが)。
ただ、現実主義の軍事に育てられた孫子の教え(特に、将の素質や将たる者の心がけなど)は実用的で、読むたびに発見があるので「四半期に一度ぐらいは読み直そう」と思ってます。