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書評:『バフェットからの手紙 第5版』(ローレンス・A・カニンガム) その2

承前

この本の解説です。この本が手元にないと読んでも意味ない記事になってます。


E: バリュー投資

こちらも、引用を中心に参りましょう。

私たちの目標は素晴らしい企業を見つけて、それを相応の価格で買うことであり、月並みな企業をバーゲン価格で買おうなどとは思いません。マンガーも私も、絹の財布は絹で作るのが一番だと、これまでの経験から学んできました。安物を使えば必ず失敗します。

株式投資をやっていると、これが一番刺さります。結局、月並みな企業を安く買っても、取引を繰り返す必要があるのですが、素晴らしい企業を高くない値段で保持できれば、ほとんどすることがないまま、資産が増えます。

月並みな企業のポートフォリオを組んで、素晴らしいポートフォリオができることはないと。まあ、そうでしょうね。会社四季報をみると、安い月並みな企業が目に入ってしまいますけどね、買わずに自重する。


だがここでみなさんは、何をもって「魅力的」な価格であると判断するのかと疑問に思われるでしょう。アナリストたちがこの質問を受ければ、一般的に対立関係にあると思われている二つの要素――「価値」と「成長性」――のどちらかに視点を合わせるべきだと感じるはずです。実際に、プロの投資家の多くは、この二つの要素の混同を、滑稽ですらあると考えています。  私たちから見れば、こうした考え方は適当ではありません(正直に告白しますが、実は私も数年前まではそういう考えでした)。二つの要素は切っても切れない関係にあると、私たちは考えています。「成長」は、「価値」計算の際に必要な変数なのです。そしてその変数の重要性は、無視してよいレベルから重大レベルまでの範囲にわたり、その影響はプラスにもマイナスにも作用します。

よくある「割安株投資」と「成長株投資」の議論がなされるたびに、この人たちわかっていないなーと私は思います。それが、バフェットのバークシャーに関する記事の場合、そのいけてなさは半端ないというしかありません。なぜなら、バフェットは、上記のように書いているからです。

バリュエーション(内在価値の算定とも、理論株価の算出と言っても良い。企業の価値を推定する作業)というのをやる時に、昔みたいに、過去のPERとかPBRを使う人は、あまりいません。現在においては、将来の業績の予測を使って、価値の算定作業は行うものです。過去のデータは参考にしますが、あくまで、未来を予測する際の参考データであって、直接過去データをみるわけではないのです。

この作業をやってみるとわかりますが、今後、どの程度成長するのか、という変数、「成長率」が非常のこの算定する数字がブレる原因となります。あとは、テクニカルには、ターミナルバリューの置き方で、これを教科書通りに置くバカは、自分のお金で投資しない投資銀行にしかいないと思います。

さて、バリュエーションを未来の数字でやるに限ってみると、割安株も成長株もありません。あるのは、未来の業績数値の予測と、現在の株価との乖離でしかありません。現在の株価はミスターマーケットによって常に示されるので、一つの値になります。なので、未来業績数値の予測の方がブレるだけです。

業績が安定している企業は成長性がゼロで良いのかもしれませんが、そうでない場合は、ここにどういう数値を置くのかが、「価値」を算定するために必要なのです。

だから、「成長株投資」と言われるものものは、「今後の成長成長性を考えると、この株は30%ほど割安だ」と考えてするものであり、「割安な成長株投資」にしかならないわけです。

で、

ついでに述べますが、「バリュー投資」という言葉は重言になっています。「投資」が、少なくとも支払った金額に見合った価値を求めた結果の行為でないとすれば、一体何なのでしょうか。それと気づきながら、ある株式に価値以上の金額を支払うこと――すぐにさらなる高値で売れるであろうという見込みで――は、投機と呼ぶべきです。

グレアムは、投資というのは価値を算定して割安だと思うからする行為であって、誰かが今より高値で引き取ってくれるという希望的観測によって行うものではない、と「投資」を定義しています。この定義に従うのであれば、価値を算定するという意味は、「投資」という言葉に含まれており、わざわざ「頭痛が痛い」のように、重ねる必要がないと言っているわけです。

どうして、「バリュー投資」という言葉が生まれるかといえば、「株式投資」をやっているつもりで、「株式投機」をしている人が多いからです。会社の価値と関係なく、株価が上がるだろう、下がるだろうという予測で株式を取引をしている人は、投機をしているだけです。

投資家は、投機家のいうところの「バリュー投資」しかしないんです。まあ、日経新聞の証券部には、投資家の記者はおらず、投機家の記者しかいないということなんですけどね。

その言葉遣いが適当かは別にして、「バリュー投資」という言葉は広く使われています。PBR(株価純資産倍率)が低い株やPER(株価収益率)の低い株、あるいは配当利回りの高い株などを購入するというのが、その典型的な用いられ方です。しかし残念ながら、ある株式がこれらの条件をすべてクリアしていたとしても、それが支払い額に見合った買い物かどうかということとはほとんど別問題であり、本当の価値を得るという原則に基づいた投資活動とはけっして言えないのです。またこれとは逆に、PBRやPERが高く、配当が低い株であっても、「価値」を買うことが不可能であるなどということも断じてないのです。

ダメ押しですね。

まあ、これを読んでしまうと、東洋経済の割安株特集、見たいのが、いわゆるインチキであることがわかってしまうと思います。

まあ、多くの銘柄から抽出しようとすると、価値算出における分析作業を単純化したほうが楽なので、わかっていながらやめられない、というのが、これらの雑誌の実態であるとは思うのですが、過去のPERやPBRをみて、それは、バフェットの投資だ、という人がいるとすれば、恥ずかしいのでやめたほうが良いと思います。

実際のバリュエーションの方法は、バフェットが違う章で書いているので、そっちを見てみたほうがよろしいでしょうね。

そういうのと比べると、世の中の雑誌の分析は随分と雑ということです。


成長によって投資家が利益を享受できるのは、投資対象が然るべき企業であり、魅力ある利益増加率が望める場合です。つまり、成長を支えるために投じた資金が、それ以上の長期的な市場に価値を生み出さなければなりません。利益率が低いのもかかわらず、必要資金ばかり増えていくならば、成長は投資家に害をおおぼすことになります。

成長が株価にプラスであるとは限りません。これ、ほぼ経営の話になってますけどね。

以前、私は投資した会社が倒産したことがあるのですが、その会社は、エルピーダメモリと言います。これは、典型的な投機でした。この会社の株式を購入した理由は、半導体のサイクルと言われるものです。メモリの価格は波があり、下がったり、上がったりするので、その周期に合わせ、「メモリ価格が低い時に買って、高い時に売れば儲かるだろう」というのがその根拠でした。

その時、私はちゃんと財務の意味が分かっていなかったのですが、このエルピーだという会社、増資でお金をゲットして、工場の設備投資に回す会社だったんですね。で、営業キャッシュフローはほとんどプラスにならない。

メモリメーカーとして生き残るために、規模を拡大させて、売上を成長させていったけれども、投入した資金は、全部、消えて無くなっていたんですね。もう、これは、ボランティアです。

まさに、規模が大きくなると必要資金だけが増えていく会社だったのですが、結果どうなったかといえば、キャッシュが尽きて倒産しました。

エルピーダの株式は無価値になり、私は購入した分だけ、お金を失いました。

ということが、ここには書いてあるわけです。

価格の問題は別にして、所有すべき最も良い企業というのは、長期間にわたり大量の資本を利用し、非常に高い利益率で増やしていくことのできる企業です。

私の英語は不自由なので、原典は読んでいないのですが、チェックしたいのは、原典で、利益率がどういう言葉で書かれているかですね。今度、kindleでチェックしてみようかな。

まあ、細かいことは置いておいて、これがバフェットさんの結論なんですね。

非常に高い利益率で増やしていくことのできる
こっちはわかりやすいですよね。どんどんお金が増えた方が良いから。

「長期間にわたり大量の資本を利用し、」
すんなりと入ってこないのは、こっちかと思います。でも算数の世界でちょっと考えるとわかります。

100万円を投資しました。1年待ったら100万円増えました。100万円と100万円で200万円を投資しました。こういう企業があるとします。

でも、例えば、この事業が天才ソフトウェアエンジニアの派遣だったとします。一人は見つかって、非常に高い利益率が出る事業だった。で、お金が増えたので、もう一人派遣しようとするけど、あれ、天才ソフトウェアエンジニアが見つからない。

10年経って、1000万円あるんだけど、10人ソフトウェアエンジニアを見つけなきゃならない。でも、相変わらず、一人しか見つからない。

この場合、1年目は、100万円を投資して、利益100万円だから、ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)は、100%ですが、10年後の方は、1000万円投資して、100万円の利益だから、ROIC=10%です。

天才エンジニアの派遣は、大量の資本を利用できないんですね。

一方、賃貸マンション屋があったとしましょう。収益は同じです。

1年目に、100万円を使って100万円の利益。2年目には、200万円使って、200万円の利益が出せます。10年経っても問題ありません。資本の額が1億円になろうが、10億円になろうが、100億円になろうが、この商売の場合は、資本を利用するのに困りません。区分所有の一部屋が、一棟マンションの所有に変わるだけです。

天才ソフトウェアエンジニア派遣会社は、いつまで経っても利益は100万円ですが、賃貸マンション屋の方は、複利でお金が増えていくんですね。

ということで、資本が大きくなってきたバークシャーは、大量に資本を利用できる鉄道会社とか、エネルギー会社を保持しているわけです。

先ほどでてきた半導体事業も、資本を大量に食いますが、ROICを出せる規模まで来ているのであれば、いい事業なんですよね。ソニーさんが、音楽事業とかゲーム事業がありつつ、大量に資本を利用する半導体のCOMSセンサー(カメラのセンサー)事業を持っているのも、(他の事業のROICが高い限りにおいては)理想的ですね。

短いけど、示唆が深かった。


F 賢明な投資

しかし、投資家自身がポートフォリオを組み立てる場合、覚えておいて損はないことがいくつかあります。懸命な投資というのは決して簡単にできるものではありませんが、複雑なものでもありません。投資家に求められるのは、選択した企業を正しく評価する能力です。重要なのは「選択」なのです。全ての企業に関する知識を有する必要はありませんし、数多くの企業について知る必要すらありません。自分のコアコンピタンス領域にある企業の価値を見極められれば、それで良いのです。その範囲が広いか狭いかは問題ではありません。ただ、不可欠なのはその境界を自らが認識することなのです。
 投資で成功するのに、ベータ値や効率的市場理論、現代ポートフォリオ理論、オプション価格、新興市場などを理解する必要はありません。実際、この全てを知らない方がうまくいくかもしれません。これらの科目が金融論の課程のほとんどを占めるようなビジネススクールでは、もちろん私のこうした考え方は主流ではありません。でも、私達の考えでは、投資を学ぶ学生に必要なことは二つの科目を徹底的に学習することだけです。それは、「企業価値の評価法」と「市場価格の捉え方」です。

ま、大事なことは、全てすでに本に書かれておりますね。

自分の知っている範囲の境界を認識し、その範囲内で企業を正しく評価できれば良いと。必要なのは、「企業価値の評価法」と「市場価格の捉え方」だけだと。

「企業価値の評価法」はすなわち、バリュエーションの仕方。これは、『企業価値評価』という有名な本がありますんで、面倒ですが丹念に読んで、やってみれば分かるでしょう。気の利いた高校生ぐらいの学力、すなわち、標準的な優秀な大学生ぐらいの学力は必要でしょうが。

「市場価格の捉え方」というのは、何度も出てきているミスターマーケットさんですね。こっちは、そんなに難しくない。

バリュエーションで企業の価値を算出し、時価総額と比べればいいだけなんで、さほど難しいことではないんですよね。Excelとかスプシがあればすぐにできちゃうレベル。

H.人生と借金と安眠

私は無借金なので、個人的にここの記述は響かないのですが、まあ、一言で言えば、借金して株式の取引をする信用取引はやめようよということですかね。

バークシャー社はすごく限定的にしか、債券による調達をしていない。

無論、適切な財務レバレッジをかけた方がROEは上がるので、資本効率は高くなり、お金の増えていくスピードは早いんですが、いざというときに困って、全てを失ってしまうからなんですね。

一つだけ引用させてもらうと、これです。

もちろん、借入によって事業が壊滅的な打撃を受けることもあります。多くの債務を抱える会社は、満期が来れば借り換えられるものと考えがちです。通常、そのように考えても誤りではありません。しかし会社固有の問題、あるいは世界的な信用収縮のために、期日に実際の支払いを迫られることもあるのです。その時役立つのは現金だけです。
 債務者は、そうなって初めて与信が酸素のようなものであることを学びます。どちらも豊富にある時はその存在に気づきませんが、なくなった時はそのことしか考えられなくなります。会社は、ごく短期間でも与信が受けられなくなれば立ち行かなくなることがあります。実際、2008年9月に多くのセクターで信用が一夜にして失われた時は、国家全体が立ち行かなくなる状況に危険なまでに近づきました。

借金に慣れちゃうと、借り換えればいいや、になるわけですが、実際借り換えられない時も時々はあるわけで、その時に全てを失ってしまっては元も子もないよね、という話です。

債務者は、そうなって初めて与信が酸素のようなものであることを学びます

この一文がわかりやすいと私は思っていて、首が回らないではすまなくて、息ができなくなっちゃうんですよね。

まあ、リーマンショックのような時に山ほど現金を持っていると、投資のチャンスが訪れるわけなんですけどね。

というわけで、第二章が終わりました。

続きます

引用が多いからパムローリングさんから怒られるかもしれない。ので、株式投資をする人であれば、本、買ってあげてくださいね。売れれば、苦情もこないだろうから。


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