書評:『サピエンス全史(上)』(ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之)その1

長男がNHKの人類シリーズを興味を持ち、よく見ている。
そこで、サピエンス全史を読んでみることにした。これが面白い。

DNA解析と考古学が合体し、昨今の恐竜人類の研究は日進月歩で、すごい。
30年前の説と全く違っている。ヒトたるホモ・サピエンスは、ホモ・サピエンスのことを全然知らないことがこの本を読むとわかる(少なくとも、私はよく知らなかった)。

面白いので、章ごとに感想を書くことにする。

※ちなみに、この本、kindleでは(私は上下巻で買ってしまったが、)上下あわさった合本番も出ているので、kindleで買うならこっちがおすすめです。

第1部 認知革命、第1章、第2章。

人とは、ホモ属サピエンス種のことである。
(種は、猫のように、お互い交尾して子孫を残す単位だそうだ)

600万年前にホモ属現る
250万年前に石器を使う
200万年前には、ホモ属がたくさんいた。いろんな人類がいた
50万年前にネアンデルタール人が進化
30万年前には火を使うようになった
20万年前にホモ・サピエンスが進化した
7万年前に認知革命が起きた
3万年前にネアンデルタール人が絶滅した
1.3万年前に、ホモ・サピエンス以外のホモ属(人類)が絶滅

人類とはホモ属のことで、600万年前には色々な人類がいた。我々、「ホモ・サピエンス」および(白人を筆頭とした)「ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の雑種」以外に、ホモ・エレクトスなどが人類にいた。599万年は共存した。つい1万年ぐらい前に、ホモ・サピエンスが他の人類を絶滅させた。例えば、北京原人、ジャワ原人などと教科書で習ったのは、ホモ・エレクトスで、全滅した。「どうして、サピエンスだけが生き残り、他の人類を絶滅させたのか」を第1章・第2章は語る。

ネアンデルタール人の方がサピエンスより脳みそが大きい。ゆえに、個として頭が良かったからサピエンスが生き残ったわけでもない。運動神経はネアンデルタール人の方が良かったから、運動能力でもない(狩猟採集生活していた頃のサピエンスの方が、今のサピエンスより脳みそが大きかったので、脳みそが大きくて賢いからサピエンスが繁栄をしているのではない)。

道具も火もサピエンス以外のホモ属の人類たちも使っていた。

言葉も違う。

サバンナ・モンキーにも言語はあるそうで、猿語で「鷹に気をつけろ」といえば猿は上を向き、「ライオンに気をつけろ」というと木に登るらしい。動物にも動物語があるので、言葉はサピエンス特有のものではない。ホモ属独特のものでさえない。

サピエンスが、他の人類に勝り始めたのは、7万年前からだそうだ。NHKの人類シリーズでも、サピエンスが優れていたのは、集団の人数が多く、より多くのサピエンスが協力して生きてきたからだと言う。一つの群、ムラの規模が大きいだけでなく、ムラ同士の協力ができたのが大きいという(わかりやすく意訳すれば、ヒトがヒトたる所以は、トランプ大統領が嫌いな「貿易」にある)。

どうしてそれができたのかと言うと、「認知革命だ」と、著者は言う。

サピエンスは”高度な”言語能力を持っている。

「ライオンがきたぞ」までは猿でも言える。「さっき、川のヘリにライオンがいたから、気をつけろ。昨日もいたぞ」までは、猿は言えない。言語能力が高度になると、嘘も言えるようになる(「昨日、川にライオンがいた」は、現実かも、嘘かも、妄想かもしれない)。このレベルの言語能力を持つと、人は、神話など実物のない「虚構」を認知できる。実物がない「虚構」の世界を語ることが、多くの集団を協力させるのに革命的な働きをしたと、著者は言う。

虚構の例に、法人がある。著者は、車の会社プジョーの例を引いているが、日本人向けには、トヨタでよかろう。

豊田さんがトヨタを作った。豊田さんが死んでも、トヨタは残る。豊田さんは実物で存在したが、法人たるトヨタに実体はない。紙ペラ1枚の登記が実物としてあるだけだ。その紙は食べられないし、黄金を生み出すわけでもない。しかし、実体は紙ペラ一枚のトヨタの存在を信じている大勢のサピエンスたちがいて、トヨタという会社は認知されている。肉体を持つ豊田さんが死んでも、トヨタはキャッシュを稼ぎ続け、36万人の従業員は毎営業日オフィスと工場に通っている。

法人という仕組みや、トヨタという存在を誰も信じなくなった時、トヨタという会社の実体はなくなり、従業員も工場に行かなくなる。実体としてあるのは、紙ペラ1枚である(電子登記なら、紙すらない)。その実体のないもの(=虚構)をサピエンスみんなが信じているからこそ、トヨタの従業員は今日も働きキャッシュを生み出している。

法人のような実体のない虚構・概念をサピエンスみんなが信じることで、とても大きな集団が共同して動き、車を製造するというとてつもないノウハウが、DNAと無関係に引き継がれていくのが、サピエンスの凄さだ(チンパンジーにレクサスは作れない)。

法人のような実体のない「概念」は、猿の言語能力では生み出せない。複雑な言語能力が、法人のような実体のない概念(訳者は、これを「虚構」と訳す)を生み出し、サピエンスが信じる共通なものを生み出した結果、トヨタ36万人の従業員が一つの目的に向かって協力できるという主張が、著者のいう「認知革命」である。見知らぬ人たちが協力して社会を作る原動力は、高度な言語であり、虚構(ウソ)を生み出す力であると著者はいう。

その原始的なものが神話であるそうで、同じ神を信じることで、異なる村の人たちが協力できた。協力する集団が大きいので、せいぜい数十人の集団しか協力しないネアンデルタール人を絶滅に追いやったという話である。

虚構の世界の法人やら何やらを進化させることで、DNAを進化させなくても、サピエンスは実体を進化させていくことができる。サピエンスは、DNAトラックを越えて素早い変化ができるようになり、今に至る。

ここまでが、第二章までの要旨である。


感想。

おもしれー

人間が人間たる所以、他の種との差別化要因が「嘘をつく力」だったとは。

言われてみればそうかも。

嘘をつけるから、概念的な仕組みを作れる。概念的な仕組みがあるから、多くの見も知らない人同士が協力し、社会を運営できる。僕たち私たち、仲良くなくても協力して社会を営んでるもんね。

そして、人間は、個としては全然優秀じゃない!

「俺すげー」ってやっていても、チンパンジーに運動能力負けてるし、ネアンデルタール人の方が脳みそ大きいし、計算能力だってコンピューターに負けちゃってるし。個体としての優越を語ることの「どんぐりの背比べ感」ったら、何なんだろうか。

「俺のエクセルすごいもんね」というアルファオス、みっともねー。


ここで、思い出したのが、「虚業」って言葉。最近、死語である。

「コンサルとかインターネット事業とか虚業だから実体のある製造業などの実業とは違う。実業しか信じない」とか言ってたオッサンが200X年に多かったけど、恥ずかしー。あんたたち全員経済のメインステージからいなくなって、世の中も、あんたのいう虚業で溢れているじゃないですか。

そもそも、製造業が実業というけど、法人という仕組みが虚構なのであるからして、製造業に実体はない。虚があるからこそ、ヒトがヒトたる所以であるのに、「虚業はダメで、実業はいい」とは、無教養な人たちだ(この時代に、サピエンス全史は解明されていないので、無教養とまでこき下ろすのはよくないのかもしれないが、今となっては、この発言、恥ずかしい)。

今度から、この手のウザい人が現れたら「うるせえ、このアルファオス」の一言で済まそう。


9割以上の日本人は、神様はいないのを知っている。けど、初詣で神様にお願いしたりする。全くの虚構だ。でも、初詣に親族一緒に行くことで、なんとなく一体感が生まれる。

早慶戦もそうだ。慶早戦野球を観に行っても、みんな野球見てないし、ただ同じ応援をしているだけであり、実体として何があるわけでもない。しかし、そこから一体感が生まれ「早慶戦行ったよねー」という共通の話題ができ、同じ学校に通う/通った知らない人同士が何となく仲良くなれる。

サピエンスが50人で、ネアンデルタール人が50人で喧嘩したらサピエンスは負けるけど、実際は、サピエンスは5000人で、ネアンデルタール人が50人の戦いになるから、サピエンスが勝つ。実際となると、70億人が作った道具が流通するので、竹槍vs核兵器みたいなことになる。ビル・ゲイツでもイーロン・マスクでもウォーレン・バフェットでもなく、大して優秀じゃないアルファオスである金正恩氏でも、ネアンデルタール人を絶滅させることができるのが現実である。

その原動力は、虚構を作る力、つまり、嘘をつく力だったとは。衝撃。

嘘にもいい嘘も、悪い嘘もあるわけで、その使い方ではあるわけだ。
嘘をつく能力がないと、実体のない概念は生み出せない。

嘘も方便。

というわけで、この本はオススメです。書評は、まだまだ続きます。

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