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書評:『「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨』(大木 毅)

グデーリアンさんに引き続き、ロンメルさん。こちらは、名前は知っていた。こちらも、スラスラ読めて、良い感じであった。

私は戦史に詳しく無いので、初めて知ることが多くて面白かった。

ロンメルさんがなぜ砂漠にいたのかもよくわからないでいたのだが、ロンメルさんの最近の伝記を読んでよくわかった。あまり文学部の人が戦争ものを翻訳しないみたいなので、ロンメルさんの神話というのが多かったのだけれども、この本はしっかり最新研究を反映して神話はがしをしている様子。等身大のロンメルさんを描いている気がする。

ロンメルさんは決してエリートの出ではなく、亜流を歩んでいる。出身がドイツじゃ無いし、陸軍幼年学校、陸軍士官学校、陸軍大学のようなところを出ていないので、全くの亜流。それでいて、出世する意欲が高かったので、どんどんアピールをしなくてはならなかったということ。そういう、田中角栄的な出世ストーリーは、大衆に受けるので、ナチスドイツの宣材にたくさん使われていたから神話化したところが多い、ということがよくわかった。

グデーリアン将軍は戦車の戦争を作ったのに比べると、ロンメルさんはかなりの小粒に思える。猛将は、猛将なのだけれども。


最初は、歩兵や砲兵や猟兵であり、山岳地帯を駆け巡る下士官で会った。戦術レベルでは奇襲を得意とし、一か八かの賭けをして、勝利を収める現場の下士官としてはすごい猛将である。それは、第一次世界大戦の時も、西部戦線で戦い、山岳兵として東で戦い大活躍である。

その後、ドイツが革命で倒れて、軍人生命が終わりかけるのだが、頑張って、士官に残ることができる。ベルサイユ条約でボコボコにされていたドイツは、陸軍の数も制限され、ドイツ軍を全士官で固めることにする。士官と下士官で陸軍を作ったのだ。

やがて、ナチスドイツになると、陸軍は増えるから、ロンメル大尉も多少は偉くなる。でも、高級参謀になるべく、陸軍系の学校に入っていないから、戦争全体に関する知識は不足する。

ナチスドイツでは、ヒットラーさんの下で気に入られる。元々猛将なので、ヒットラーの親衛隊みたいなことをやっていて、そのうちに戦車がすごいとわかって、装甲部隊を持たせてもらい、西部戦線で大活躍。独断専行でガンガンと前に進み、奇襲をうまくやって、戦績をあげる。

グデーリアン将軍はいらないといった軽装の戦車隊を持って、アフリカ戦線に送られる。そこで、戦術的な勝利を積み重ねるが、補給がままならず、せっかく攻め取った地域を全部返上することになり、撤退をヒットラーに提言するが、断られ、クビになる。ヒットラーとの関係も悪化する。

そのあとに、イタリアでムッソリーニが失脚し、イタリア方面の司令官になりかけるも、ヒットラーと対立して、解任。

次に、ノルマンディー上陸前の西部戦線に貼り付けられるが、こちらも、指揮の関係からうまくは行かない。そのうち、ヒットラー爆殺未遂事件が起きて、ヒットラーに疑われて、憲兵が来て、毒をもって自殺させられることとなる。


グデーリアンさんの話を先に読んだので、さらにロンメルが小物に思える。前線に立ち戦う、戦場の猛将ではあるのだけれど、戦略レベルの思考力は皆無で、軍団を預けると無駄な戦闘ばかりを積み上げるタイプで、軍団をもつ元帥としては全くもって尊敬できない。

奇襲のパターンもワンパターンである。海外沿いの道路に歩兵を走らせ、戦車は砂漠の内陸を通って、戦車で裏をとる。まあ、ローマ帝国時代の騎馬がそういう使われ方をしていたけれども、だいたい、そんな感じである。イギリスに勝てたのも、ドイツの戦車を用いた戦いの運用をグデーリアンがうまく設計していたのが大きい。戦略の集中運用があったから勝てた側面が大きいけれども、最後にその辺りは追いつかれている。


しかし、ドイツというのは弱い。何が弱いのかというと、戦略が圧倒的に弱い。作戦や戦術は良いのだけれども、結局は、戦車部隊をグデーリアンなどが作り上げたのがすごいだけで、そこが圧倒的だったから西部戦線で1ヶ月でフランスをぶち抜いただけで、後のプランは何も無い。ヒットラーから大将のレベルまで、ありとあらゆるレベルで、戦略が弱い。


私はなんでロンメルが飛び地のエジプトを攻めたのか、さっぱりわかっていなかったのだが、勘違いしていたことがよくわかった。ドイツはイタリアと同盟していて、イタリア半島・シチリア・チュニジア・リビアというラインで下に降って、北アフリカの真ん中から、東に進む形でエジプトに迫ったのである。ギリシア・トルコ・イスラエルの方から北から南に攻めたと思っていたので、大きな勘違いである。

ヒットラーとロンメルの戦略センスが皆無のところは、マルタを先に攻めないことである。マルタをイギリスに取られていながら、エジプトを攻めようとしても、全くの無意味である。戦略的な目的がスエズ運河の封鎖にあり、イギリス本土とインドなどの海外領土の分断にあるのであれば、シチリア<=>チュニジアのラインを海上封鎖すれば良い。アフリカとシチリアから飛行機をたくさん飛ばして、イギリスの船を沈めれば、それで済んだだろうに、なんのために、北アフリカを東進したのかわからない。チュニジアあたりに守備隊を戦車でおけばよかったんじゃ無いかと思う。

ましてや、その辺にあるマルタは邪魔なので、これはなんとして取るべきなのに、後に回している。それでいて、補給の難しい砂漠地帯で、東進して、補給が持たなくなるたびに負けて、元の場所も失っている。戦争物資の無駄であり、ロンメルのやったことは、国威高揚以外になんの役にも立っていないと思われる。守りに強い将軍をリビアあたりに置いて要塞と空港を守っていれば、それで済んだんじゃ無いのかと思う。

せめてやるとしても、相手の空港を戦車で急襲して、破壊して、逃げるというのが戦略的に真っ当な筋では無いかと思われる。

アフリカに戦力を割くぐらいなら、ソ連に割いた方がよかっただろう。そもそも、ソ連との二正面作戦をしているのがダメなのであるが。

ロンメルさんは、積極的にせめて、勝って、勝って、勝って、最後に負けて、結局アフリカを失い、イタリアを失い、最後の西部戦線においても大事な時に現場におらず、負けている。

戦場での損耗率も高い。戦場で上司にしたく無い男であると私は思った。
部下にするには良いが、あんまり出世させてはいけないタイプである。


ヒットラーの戦略眼のなさに振り回され、人生を台無しし、また自らの戦略眼のなさで、軍団を多く殺し、土地を失った。

ただ、戦闘に強く、戦術に長けた猛将である。そして、幸せな人生ではなかったのでは無いかと思うし、私はロンメルみたいな人生は送りたく無いと思うのである。


実るほど こうべを垂れる 稲穂かな


ロンメルの本を読んで、自らにこう戒めていかねばならぬと思う、今日この頃であった。偉くなるとやり方を変えなくてはいけないし、考える問題のレベルが変わっていく。それに対応できないと、部下を多く傷つけてしまうし、結果も出ないのである。

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