瞬間接着剤の驚き(元教授の接着・粘着シリーズ、その2):定年退職40日目
接着・粘着について思い出すのは、かなり昔のことですが、神戸大学におられたM教授という先生のことです。私が存じあげたのは、先生がすでに定年間近の時でしたので、多くの研究に直接触れることはできませんでしたが、いくつかの総合講演を聴くことができました。
先生は界面の物理化学がご専門で、接着・剥離に関する研究をされていて、ある時はうなぎのヌルヌル(ハイドロゲル)の科学を研究しておられました。大学の予算でうなぎを大量に購入し、試料となる部分(ヌルヌル)を採取した後に、残り(うなぎ)は廃棄(蒲焼にして食べた)したという先生のエピソードには、腹を抱えて笑いました。研究の詳細はあまり覚えていませんが、難しい研究内容をとてもわかりやすくご説明されていました。そして先生が最後に「一番難しい接着・剥離は人間関係だ、特に男女関係は難しい」とコメントされました・・・奥が深いです(注1)。
さて、接着剤の話題に戻ります。ご飯粒(本シリーズ、その1参照)のあとは、紙の接着用にはフエキ糊やヤマト糊が、図画工作の時間やプラモデルの作成用にはセメダインやボンドと、様々な種類の接着剤が出てきました。そしてその後、二液型のエポキシ接着剤が登場すると、私は、目の前で化学反応を目撃することができる喜びを味わいました。
その中でもさらに衝撃的だったのが、瞬間接着剤のアロンアルファ(例として下写真。東亞合成(株))です。最初にテレビのコマーシャル(注3)で見た時、バイクのタイヤを壁にくっつけたり、ゴルフボールの上で回しているコマを止めたりと、驚くべき光景を目にしました。それまでの接着は、木工作業やプラモデルでかなり時間がかかるものでした(早くて十分、もしくは1時間や1日おく必要あり)。これは、その名の通り一瞬でした。
瞬間接着剤の原理は、化学的に言うとシアノアクリレートとよばれるモノマーの重合によるものです(この重合は、ときどき大学入試に出題されることもあります)。もう少し詳しく説明すると、空気中の水が開始剤として機能し、シアノアクリレートをアニオン重合(塩基性開始剤での重合)させるのです。そのため、保存時には水が入らないように厳封してあります。その結果、使用に際して困ったこととして、あまりにも反応性が高いので、使い残しを保存することが難しかったのです。しかし最近は、1回ずつ使い切りの小さな容器に入っている物を見かけるようになりました(下写真)。
また、木工作業での接着では液が木の中に染み込んでしまい接着しにくいこともありましたが、ゼリー状で木工やプラスチック用に対応型などが販売されています。
実は、この文章を書くために東急ハンズに行ってきたのですが(趣味ですw)、思った以上に瞬間接着剤の種類が増えていて、企業努力のすごさに嬉しくなりました。ハイスピード型や光硬化型などまで出てきていました。
一方東急ハンズでは、紙用にも多様な接着剤を販売していました。次回はそれに触れてみたいと思います。お楽しみに!
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注1:古代ギリシャの自然哲学者エンペドクレスによると、“万物の根源を土・水・火・空気の四元素とし、それらが混合と分離を可能にする動的な力が別に要請されなければならない。混合を引き起こす力として「愛」を、分離を引き起こす力として「憎」あるいは「争い」を導入する。愛・憎は四元の運動の方向を規定する原理と考えるべきだろう(注2)。”
注2:廣川洋一著「ソクラテス以前の哲学者」(講談社学術文庫)より引用
注3:https://www.aronalpha.com/cmgallery/