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シリーズマシな人生 心の負債総額算出方法 ~「心の負債」の分類と対策~

前編中編と続いた本シリーズですが、後編では「心の負債」の分類と対策について、具体例を交えて解説します。

【後編の内容】「心の負債」の分類と対策(10月22日追記)
・旬を逃し続ける
・他人の賞賛によって自分を価値づけようとする
・自分の目の前に差し迫っている問題を他人に押し付けて解決したことにする
・憧れ、夢、期待、野望の前借りをする
・なるべく失うものが少ないマシな「破滅」のやり方
・「破滅」を自ずからやりに行け
・心ベースで見て行くと逮捕は「得」でしかない
・最後に

・旬を逃し続ける ~心の借金界のリボ払い~


「いつかこれをやりたい」


というイメージは誰の心にもあります。

 ベランダでハーブを栽培してみたいというささやかな憧れから、いつか小説家になって独立したいというビッグな野望まで、サイズ感は様々ですが、どの野望にも共通して言えることは、熱意には「旬」があるということです。それも割と明確にあります。閃いた瞬間に取り組むのが常にベストだということもないのですが、逃し続けるとそれはジワジワ失望の感を放ち始めます。この失望の感とは、いつまで経っても実現したい事に手を付けない自分に対する失望感です。私は心の借金を、

「こうでありたい自分」と「現実」の差異を埋める為に自分への信頼感と引き換えに現実認識を歪める行為

と定義しているのですが、この場合も上記の定義に合致します。しかも、当初は別に借金ではないのに時間経過と共にジワジワ負債が生じてくるという実感が湧きづらいリボ払いのようなシステムになっているので油断ができません。どうしてこうなってしまうのでしょうか。それは、時間が経てば経つほど、実際に自分が行動して現実をイメージと合致させる可能性は低下しているのに、現実認識としては「いつかこうなっている自分」というイメージを保ち続けなければならず、従って時間が経てばたつほどこうであるべき現実へと認識を歪める為に必要なエネルギー量、自分への信頼の総量が増えていってしまうからです。当初は報酬(こうなれるかも知れないという自分の将来への期待)のみを与えて、時間が経つと共に報酬は無くなり返済ばかりに心を持って行かれて借金の元本は全然減らないという性質を考えると、まさに心の借金界のリボ払いと言うにふさわしい負債です。

 長年「やりたいけどやらない」という精神状態をキープし続けると、物事に対して「どうせこれも実現しないんだろうな」とうっすら事前に諦めてしまうクセが身に付いてしまいます。そうなると、代償として腹の底では虚空に向けて謎の我慢をし続けることになります。何をしていても腑の底でセルフ忍耐のエネルギーのようなものが煮えたぎっているので、ストレスが溜まりますし、思い切ってやりたい事にチャレンジしたり友人に心からの笑顔を向けることができません。それどころか、次第に我慢のエネルギーがコントロールできなくなってとんでもない形で暴発したりあるいは、人を傷つけるマジでヤバイ負のエネルギーになってしまったりします。こうなってくると、発言の全てが難癖や嫌がらせ、遠回しな批判や見下しといった負債のオンパレードになってしまい、周りから人がいなくなって孤立します。最初はちょっとした夢や憧れの前借りくらいのつもりだったのに、こうも損失が大きくなるとは……心の借金界のリボ払いと説明した理由がお分かり頂けたのではないでしょうか。

(※リボ払いのヤバさについてよく知らないという方は、私が書いたものではありませんが以下の記事を読んで頂くといいかなと思います)


・対策

①心の旬を見逃さないようにする

 心に旬があるという情報を得ただけで、なんの対策もしていないよりは相当マシになります。やはり心には旬があります。冷静に考えれば当たり前ですが、我々はつい消費者としての訓練を受けすぎているので、心の欲求を製造企業の供給に対応する「消費財の需要」といった統計学的なものとして捉えてしまいがちです。それは社会のサイクルの中で訓練された消費者がある一定のタイミングごとに需要を吐き出し、それに伴って商品が供給されるというシステムに染まりすぎているからだと思うのですが、旬が過ぎ去ってカピカピになった回転寿司のような野望に手をかけても、心は何の躍動もしません。そうなってくると、ますますその失望感を味わわなくて済むように現実を歪曲するエネルギーが必要になってきますからホールドし続ければし続けるほど損が増大します。もう何も心が動かなくなっている野望は、今から手を出す可能性もかなり低いので思い切って全部捨てましょう。毎年年始に「やりたかったけどまだ手をつけていないこと」の棚卸しと整理をするといいでしょう。負債に苦しんでいる人はできれば即日諦めてください。諦めるというと、マイナスのイメージがあるし、一旦ガッカリしなければいけないようで気が重いかも知れませんが、心配の必要はありません。心の負債を整理するとすごく気分が爽快になりますし、気力を取り戻したことで直ぐに次のやりたい事がありありと思い浮かんできます。それは、負債として抱えていたものよりもずっと自分の心をワクワクさせてくれますし、実行に移せる可能性も高いのです。同様に買ったけど一度も来てない服、一度も読んでない本、一度も弾いてない楽器などもできれば捨てた方がいいでしょう。物質があると毎日負債の証拠が目に入って来てしまいますから、家の中に心の差し押さえの紙が貼り付けられているようなものです。どう考えても精神によくありません。


②具体的に手順を思い浮かべる

 直近の筆者のささやかな野望としましては、今住んでいる家の風呂場に小窓があるので、そこに素敵な色の瓶やを並べて、それぞれにいろんな効能のバスソルトを入れて飾っておきたいというものです。このささやかなプランには、野望が負債にならないような事前対策がしてあります。どのような対策かというと、それはプロセスの具体化です。「やりたさ」「こうでありたさ」を思い浮かべると同時に、具体的な手順やプラン、できれば予算や実現までにかける期間などを思い浮かべるというものです。

 なぜ具体的な手順を思い浮かべる事で野望が負債になりづらくなるのでしょうか。それは「実現に向けた行動を起こさずに、実現した自分への期待という果実だけを先に味わってしまう行為」が「現実」と「現実認識」の間にギャップを生み出し、ひいてはそれが心の借金へと変貌していってしまうからです。従って、常にやりたさ、なりたさに並走してそれを実現するための具体的プランをイメージしていればこのタイプの心の借金は滅多に生じません。やるのも自分と分かっていれば、無理な大風呂敷も広げずに済みますし、広げたら広げた分だけ自分を鼓舞する結果にもに繋がります。この対策のよい点は、心の借金が生じ難いのみならず、プロセスを具体的に考えるようにする事で、実現が難しそうな場合は早期の段階で諦めたり別の手段を用いるなどの路線変更ができるという点です。

 特にありがちなのが、「有名になる」「成功する」などの抽象的かつ大きすぎる野望を思い浮かべてしまったせいで、どこから手をつけたらいいのか分からず、途方に暮れて、かといって諦め方も分からずに巨大な心の不良債権が形成されてしまうという形の心の負債です。唐突な話で恐縮ですが、庵野秀明にとってエヴァンゲリオンの終わらせ方がどれだけ心の負債になっていたのかと思うと頭を抱え込みたくなるほど気の毒になります。あれだけの大きな心の負債(しかも本人のせいではない)を返済しきった胆力には本当に驚かされます(※)。こんな無理をしたら誰でも5年くらいは激鬱になると思いますので、常人は絶対に真似しない方がいいタイプの胆力です。大きくて抽象的でどこから手をつけたらいいのか見当がつかない野望にはできるだけ早めに見切りを付けて、具体的かつ小規模の野望を次々に試していくのがいいと思います。

 「持続こそが力、飽きる人間は雑魚」みたいな言説がありますが、そのような外野の声は知ったことではありません。飽きてOK。他人には変化せず一定の状態を保ち続けていて欲しいという考えは人類全般にありがちなエゴですので、気にしなくて大丈夫です。

 また、よく「実現したいことをSNSなどで宣言するといい」という意見を耳にしますが、筆者はこれには全面的には賛成できません。特に公開アカウントのSNSでは誰が見ているかわかりませんし、実現しやすくなるプラスの効能と引き換えに、実現しなかったときに負うハメになる心の負債の額も飛躍的に増加してしまうからです。 SNSで野望を宣言する行為は自分の心の旬にレバレッジをかける行為と考えて勝算(実際に自分が取り組める可能性)が高い時のみ実行するのが無難だと思っています。


(※筆者は『まごころを、君に』の終わらせ方で完全に納得しています)


・他人の賞賛によって自分を価値づけようとする


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