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詐欺のブーム

 社会常識っていのうはかなりの部分生ものだし、最近は風向きの変化のペースも年々早まっているので、去年はアリだった常識が今年になると通用しないということもガンガン起こっている。例えば、匿名アカウントで誹謗中傷を目的とした根拠のないデマを撒き散らしたりすると、情報開示請求されて訴えられるんだなという認識が一般化してきたのもわりと最近のことだし、そうなる前は結構カジュアルに捨てアカウントを利用した個人攻撃が行われていたと思う。ステルスマーケティングなんかも、2014年頃はバレるとそれなりに信用を失っていた気がするけど、近年はだいぶカジュアルになってきた気がする。

 Instagramのストーリー(24時間で消えるフィード投稿機能)を見ている時に、知らない芸能人の方がファンの方から「ステマの投稿だけだと印象が良くないからたまに自撮りとかも混ぜた方がいいよ!」っていうすごく親切なアドバイスを受けているシーンを目撃したことがある。ファンの方の実に気の利いたアドバイスの親身さがすごく面白いんだけど、同時にステマをやる感覚って随分ふつーになったんだなあという時勢の変化もひしひしと感じた。

 私はゆとり世代なので今の10代の人の肌感覚はかなり分からなくなってきている。けど、かつての、あの、ステマが露呈した時の特有の気まずい空気、いかにも善良そうなおばあちゃんがマルチ商法の話を始めてしまった時のような特有のタブー感とかマズい空気ってもうあまりないよなとは思う。言ってしまえば、スポーツ選手のウエアにスポンサーのロゴが印刷されているくらいのカジュアルさというか。それはそれでまあ、分かる。見る側もネット上に広告商材が張り巡らされている状況に慣れてきているので、以前のように好きな有名人の言うことを真に受けていらない変なダサいものを買ってしまうということは少なくなってきてはいる。「たまたま見かけたものが欲しかったから、欲しくて買ったよ~」くらいに毒気が抜けてきている、そういう部分もある。あるいは、2014年くらいであれば、いかにも情報商材を売りつけいそうだったアカウントが、ただただちょっと胡椒臭いけどまあ有用な情報を発信し続けてフォロワーを増やして地道に広告収入を得るみたいな光景も見かけたりする。インターネットがより一般化して社会性を帯びてきたということなのだろうけど、やはりそういうカジュアルな信用泥棒商売みたいなものは、突然のマルチ商法の勧誘みたいな仄暗さとやはりどこか地続きではある。

 わざわざ話題にする機会がないだけで、日本全体が「お金さえ稼げばなんでもアリ」という空気に覆われつつあるのは誰しもがうすうす感じつつあると思う。それは仕方がない。ただ小市民として身の丈程度の生活を生きていく為に今までみたいにのほほんとしていられなくなりつつある。人間の良心なんて、裕福さの副産物でしかなかったのか。はい、いいえ。答えはどちらでも差し支えない。問いを両手で受け止める時の肌触りに重みが生じてきてしまったこと自体が問題だから。想像を絶するほど親切な人も想像を絶するほど心が無い人も、どちらもミスドのイートイン・コーナーのような場所に平然といる。

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