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水野ダイアリー 7月1日〜31日

【水野ダイアリーとは】
水野がデイリーに書いた随筆を1ヶ月分まとめて公開しているものです。

7月1日 「量子力学的仲里依紗」
7月2日 「大衆律動体操」 
7月3日 「堤下疑惑」
7月4日 「堤下確定」
7月5日 「多様な価値観のフルーツバスケットの中で色彩を失った人々」
7月6日 「女性差別横断ウルトラクイズ」
7月7日 「奇跡」
7月8日 「チェーン店最高」
7月9日 「それはない」
7月10日 「向いてない人類」
7月11日 「ギリギリの生」
7月12日 「罠情報」
7月13日 「サービス濃霧」
7月14日 「言葉のスピード感」
7月15日 「死のDJ」
7月16日 「想像上のタッパー」
7月17日 「羽鳥慎一が羨ましい」
7月18日 「どうしようもないまとめサイト」
7月19日 「失敗マリコ」
7月20日 「マイルド座」
7月21日 「J熱大陸」
7月22日 「大人大嫌い」
7月23日 「格別の嘘」
7月24日 「屋敷しもべ妖精」
7月25日 「アルバ」
7月26日 「アイドルに向いている人」
7月27日 「本格的な経験」 
7月28日 「実名性ヨーグルト」
7月29日 「バランス」
7月30日 「楽しんごに滅ぼされる人類」
7月31日 「IQ警察」

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7月1日 「量子力学的仲里依紗」

 今日も今日とて日がな一日さしたる目的もなく息を吸って吐くようにインターネットをやっていたら、

【衝撃】仲里依紗がSNSで公開した『自宅毛穴洗浄』が話題! PR

という広告が出てきた。

 そもそもこのアオリ文に書いてある内容が全て真実である可能性は確実にゼロだとは思うが、とはいえ全てが嘘ということもないのだろう。真っ赤な嘘というのはわりと誠実な態度であって、百戦錬磨のペテン師は必ず虚実を織り交ぜてくるものだ。一体どの程度の嘘度で構成されたアオリなのか気になったので、リンク先にアクセスをしてみた。

リンク先のページで、仲里依紗のSNS投稿が見られるかもしれないという期待はあっさりと裏切られ、

文字
漫画
漫画
毛穴のアップ画像
漫画
漫画
キャンペーン中であることを知らせる広告
継続購入はしなくて良いことを訴える広告
なんらかの大物女優が出演しているとされるCMの女優は出演していないシーンのサムネイル
「売り場」の画像(すぐに売り切れるらしいという伝聞情報)
漫画
重要なお知らせ(注文が殺到しているという内容)

といった構成が目に飛び込んできた。文字通り、飛び込んでくるという感じだ。画面を構成する全ての要素が目に飛び込むことを目的としたデザインになっているので、一切のヌケ、余白がない。こんなに情報が詰め詰めになっているのに、仲里依紗と関連する可能性がある情報は「大物女優」の一点しかない。念の為、商品について検索して商品の公式ホームページを確認すると、「仲里依紗」が「イメージモデル」を担当しているということがわかった。ここまで調べておいてなんだが、私は基本的に俳優に興味がないので、顔を見たところでそれが仲里依紗かどうかは分からない。したがって、先方に仲里依紗ですと言われたら、もうそれを信じるしかない。流石に仲里依紗ではない人物を仲里依紗ですと言い張るということはないだろうが、web広告からは詐欺・景品表示法違反の匂いしかしてこないので、万が一のことがないとも言い切れない。これは仲里依紗なのか、どうなのか。目の前の液晶に表示されている人物が、私にとって、シュレディンガーの猫ほど曖昧に不確定な仲里依紗という状態で存在している。

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7月2日 「大衆律動体操」

 私は毎朝ラジオ体操第一第二をやっているのだが、たまに北朝鮮版のラジオ体操こと「大衆律動運動」をやることもある。やっていて気がついたのだが、大衆律動運動は結構、楽しい。お手本の人物もリズミカルでダンサブルで躍動感があり、ああ、そういえば体を動かすのってかなり面白みのある行為だったんだなと感じさせる。それに比べるとラジオ体操はすごい。日本は世界で最も成功した社会主義国と言われたことがあるくらいだが、その感じを正確無比に反映していると思う。まず、体操から「楽しい」とか「面白い」とかそういった概念を完全にスポイルすることに成功している。身体の各部位を最大限効率的に効果的に駆動させる動き。それらは極めて正確に親切に行為・目的・意図が並走して端的に解説され、音声でも映像でも初見の老若男女が差し支えなく追従できる仕様だ。もしかしたら世界の体操の中で、最も人間の身体を機械的実態とみなし取扱説明書のような運動を作り上げることに成功しているのかもしれない。ラジオ体操をやっている人は全員無表情である。筋肉が凝り固まらないよう、より可動域を大きくする目的意識はあっても、躍動感、生命力のようなものは似つかわしくないので決して表現されない。何も感じてないと言うよりは、あえて「無」をやりに行っている姿勢がある。構造としては、感じていることがバレはいけない18禁同人誌(ティファ極)みたいなシチュエーションになっていると思う。日本体育大学がやっている競技種目『集団行動』なんか、徹底し過ぎてよく外国の方にドン引きされているが基本的にやっていることは同じだ。このような、やりにいく「無」の徹底と過剰な集中はもう伝統芸能の域だから、集団行動をオリンピック種目に採用してもらって「個人の鍛えられた肉体と精神が闘争の中で尊厳と人権を獲得する」という西洋二元論的フィジカル絶対正義の発想に対抗してエコノミックアニマル集団の土着魂を見せつけてオリンピックとかいう代理戦争のフェスティバルに一種の冷や水を浴びせちゃってよとか思う。

自分も、ラジオ体操でだったらオリンピック出てもいいかなー(金メダルはYahoo!アバターでOK)

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7月3日 「堤下疑惑」

 ネットで依頼した業者の人に食洗機を設置して貰った。滝汗をかいたインパルス堤下激似男性と部屋でマンツーとなり、かなり気まずい。でも滝汗は気の毒だと思ったので、冷たいお冷やを出したり冷房とサーキュレーターをマックスにして堤下直撃状態にするなどの支援活動をやっていたら、堤下がガンガン心を開き始めてしまい、「お仕事なにされているんですか?」とか聞かれた。やむを得ず「デザイン関係です(この世の仕事は全てそうなのでギリ嘘ではない)」と答えたら、ほぼ嘘なのに「ヘェ~、デザイン、どおりで。部屋とかおっしゃれですもんね、野郎の意見ですけど」とか、インパルスのコント序盤の堤下としか思えないリアクションをしてくる。「野郎の意見」というワードセレクトをする人間が、この世でインパルス堤下以外に果たして存在するのだろうか。この人物は堤下の可能性がある。もし、これがインパルスのコントであるならば、私は急に不穏な雰囲気を醸し出し、

「まあデザインと言っても、結果人の命を奪う悪夢の技術に加担をしている訳ですが」

と返答しながら、パソコンで謎のコードを早打ちしてひどく哀しい感じになる。いける。先生、やれます。心の北島マヤが、そう言っている。

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7月4日 「堤下確定」

 機能食洗機を設置してくれた業者の人(インパルス堤下)から電話がかかってきて、何か不備があったのだろうかと出たら「是非レビューをお願いしたいんですけれども」という営業トークをされた。私は急にかかってきた知らない人の電話に出ると、1日に使える精神力の10のうちの2くらいは使うハメになってしまう。もう今日はダメかもしれないという気持ちを抱きながら、

「レビューをしてほしいという電話をするのはやめてほしい」

とレビューした。堤下は、冷たいお冷とか出してくるお人好しそうな客だからと思って揚々と電話をかけたろうに、急にネット弁慶みたいなカキコをされてびっくりしているんじゃないだろうか。是非、ツッコミを見せてほしい。

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7月5日 「多様な価値観のフルーツバスケットの中で色彩を失った人々」
 
 最近気がついた。理由は謎だが、なぜか政治思想について論じている本には独自の比喩表現がある。どんな言い回しがあるのかというと「多様な価値観のフルーツバスケットの中で色彩を失った人々」とか「ワインを入れた皮袋の中で論じるべきはワインの質ではなく皮袋の形状」みたいな感じだ。他のジャンルでは見ない独特の雰囲気である。こうなるのは理解できる。現実的な政治制度って大衆の実感と実際に執り行われている現場運用の間にはあまりにも距離がありすぎて、完全に手触りの質感を失っているので、ほとんど雰囲気の話しかできなくなってしまっているというか。この論法はある意味馬鹿馬鹿しくもあるけど、それでも雰囲気しか話せない中で少しでも肉付けをしたいという切迫した事情の中で編み出されているのだと思う。そういう事情は酌量しつつも、ないものをあるかのように語れる論法だから日常のシーンに応用した場合の発展性はすごい。二度寝して遅刻したまま連絡ができなくなっている状態のことを、

「ガラス瓶一杯のフルーツポンチの中で、すでに全てのフルーツの内部にシロップが溶け込み本来のフレッシュさを喪失している状態」

とか言えてしまう。可能性の皮袋の中に未知のワインが詰め込まれている状態。

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7月6日 「女性差別横断ウルトラクイズ」

 もちろんないが、『女性差別横断ウルトラクイズ』というテレビ番組があったら絶対に見たい。女性差別横断ウルトラクイズとは、絶対に女性差別をしたい人が集まってあらゆる女性差別を横断するウルトラクイズのことである。番組冒頭、司会者(もちろん男性)が、「女性差別がしたいかー!!!」と問いかけると、参加者(もちろん女性に参加権はない)が「ウォー!!!!!」と湧き上がるように賛同。第一問、「女性といえば?」回答者、一斉に早押しボタンを渾身の力で連打。ピコーンと回答権を得た回答者のクイズ帽子から男性マーク「♂」が起立。回答は「バカ、積極性に欠ける、政治参加・出世への意欲が低い、パスタ大好き、世話好き、おっぱいがある、隠しているが本当はスケベのことしか考えていない」など一斉に回答。もちろん大正解。会場は熱気に包まれて一気にヒートアップ。第二問、「女性に与えなくてもいいものは?」回答「タピオカ、SNS、賃金、参政権、社会的地位、学力、適切な婦人医療、避妊の選択肢、土地や財産、意思!!!!!!」もちろん大正解。一刻も早く我先に女性差別をするために回答ボタンを連打する性差別王は、初夏の風物詩となっている。

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7月7日 「奇跡」

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