母とわたしと宗教のこと⑦

母の生活は宗教を中心に回っており、家の事は二の次でした。家事はそれなりにこなしていましたが、仕方なくやっている感じはただよっていました。

「信者さんといると心が軽くなる」

まだ小学生だった頃そんな事を言われたことがありました。

母にとっては何気ない一言だったかもしれませんが、当時の私は「家族といるのは楽しくないんだ」と少なからず傷ついていました。

実家が、信者同士の会合の場に使われる事も多々あり、その度に父や私達は別の部屋ヘ追いやられ、なぜか小さくなってその場をやり過ごさなければなリませんでした。

そんなこんなで、宗教を信仰している母との生活は、私にとって実に居心地の悪いものとなっていました。
実際、就職してからはほぼ家に寄り付かず、実家に近い場所に転職した際も、一人暮らしを続ける選択をしました。

つかず離れず。そんな距離感を保ちながら過ごしていましたが、ある時、母が入院するという電話が入りました。
どうやら、手術が必要との事でなにかあった際の緊急連絡先として住所や電話番号を教えて欲しいとの事でした。
電話口の向こうでは、他の信者の声も聞こえており、何かこの困難?を一致団結して乗り越えよう的な雰囲気が漂っている感じかしました。正直、母の心配よりも宗教関係の人達と関わる事や「面倒なことに巻き込まれたくない」という気持ちが先にたっていました。

母は、入院してから退院するまでの間、終始穏やかで不安な様子を見せることはありませんでした。あたかも、自分は神に守られているから大丈夫だという様な感じでした。

ただ、私から見て何処か「信仰していたから病気が良くなった」という事を無理やり結びつけたい様な印象を受けていました。

退院後に、一度だけ母から主治医から勧められた治療を断ったと連絡がありました。断った理由をくどくど私に説明する様子から、なんだか何時になく弱気で母らしくないなと感じていました。

「お母さんがそう決めたなら、いいんじゃない」
と母に伝えました。

母との会話から、誰かに自分の選択を肯定して欲しい様な気がしてそう伝えました。それと同時に、「どうせ反対しても、あなたは私の話しなんて聞かないでしょ」という思いもありました。

私の言葉に母は何処か安心したようで、今度いつ帰って来るのか、妹はいついつ帰ってくるからその時帰って来れないのか、なんて会話をして電話を切りました。


それから、3ヶ月後。母は病状が悪化し、再入院後に亡くなりました。