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ラデク・バボラクの思い出①

 ホルンのラデク・バボラクは、いまは押しも押されぬ感じのホルンの大演奏家ですが、私が学生時代に聴いたころは、まだCD録音など皆無に近い状態であったと思います。でも、「うまい人がいる」といううわさはかねがねから聞いており、ついに聴くことになったのです。2回、聴いています。今回は、協奏曲のソリストとしてオーケストラに登場したときの話、あとひとつは、リサイタルです。リサイタルの話は、またいつか書くとしまして、今回は、日本フィルのソリストとして登場し、リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲第2番を演奏したときの話を書こうと思います。

 その日は、オール・リヒャルト・シュトラウス・プログラム。指揮は尾高忠明氏。珍しく尾高氏の後ろ姿しか覚えていないので、まともに、オーケストラの前の席で聴いたのでしょう。(いつもの、サントリーホールのP席みたいなところじゃない。)

 プログラムは、まずオーボエ協奏曲(ソリストは、日フィルのかた。お名前を失念してごめんなさい!)。そして、目当てのバボラクによるホルン協奏曲第2番。それから、「サロメ」の「7つのヴェールの踊り」。最後に、「4つの最後の歌」。これまた歌手の名前を失念しています。ひどい話ですが、それくらい、目玉はバボラクのホルンだったのです。ごめんなさいね。

 どの曲も、いまのところ生で聴いた唯一の経験ですし、尾高忠明氏の指揮も、いまのところ生は唯一の経験でした。

 オーボエ協奏曲は、ソリストの名前を忘れてまことに申し訳ないのですが、とにかく名曲ですし、たんのういたしました。この演奏会、オーボエ協奏曲も、ホルン協奏曲第2番も、「4つの最後の歌」も、リヒャルト・シュトラウス最晩年の作品で、壮年期の、自信過剰なほどの音楽ではなく、だいぶ肩の力の抜けたような、ひたすら美しい音楽ばかりで、このコンサートのねらいは、そこにあると見ました。

 さて、バボラクの登場です。まだ二十代のバボラク、あか抜けない感じさえする青年でした。ソリストとして活躍する現在のバボラクからは考えられないほどでしたが、すばらしい出来栄えでした。バボラクは、いすに座って演奏しました。私のオーケストラのホルンの先輩でも、いすに座って吹いたほうが、うまく吹けると言っていた人がいたのを思い出します。今でこそ多くの人の知るところとなっていますが、とにかくバボラクは、ひたすらうまく、バボラク以外のホルニストは、いかにバボラクがうまいかというのを示すために、びっくりするために存在しているのではないかというほどバボラクはうまかったのです(言い過ぎ?)。とにかく常識をくつがえすほどのうまさでした。

 「サロメ」の「7つのヴェールの踊り」は、このコンサートで唯一の、ソリストを伴わない作品でありました。「サロメ」というオペラは、聖書の、洗礼者ヨハネが殺される場面を題材に、大幅に脚色された脚本をもとに書かれたオペラで、この踊りは、サロメ(聖書には、サロメとすら書いていません。へロディアの娘です)が踊りを踊る場面での音楽です。このオペラのストーリーを読んで「聖書とぜんぜん違う!」とめくじらを立ててもしかたないですよ(笑)。そもそもが聖書を大幅に逸脱した作品なのです。それにしても、この音楽はすばらしいです。尾高氏の、没入したかのような指揮ぶりが印象に残っています。

 最後の「4つの最後の歌」。またもソリストの名前を忘れて申し訳ないのですが、これもじっくりたんのうしました。晩年のシュトラウスの傑作で、ひたすら美しい作品です。私の母(1946年生まれ、今年75歳)が生まれたとき、リヒャルト・シュトラウスは、まだこの音楽を書いていなかったことに驚きます。

 さて、ここからは、これらの名曲を、いまでもたんのうできる名演奏の紹介となります。おもにYouTubeで聴ける演奏から紹介したいと思います。

 まず、オーボエ協奏曲。フランソワ・ルルーによる演奏が、フレッシュな感じで、私のおすすめです。YouTubeでも、一発で出ます。ひところ、YouTubeに存在するこの曲のいろいろな演奏に凝ったことがありましたが、これがピカイチですね。オケはスウェーデン放送交響楽団、ハーディング指揮。オケもうまい!
 また、ローター・コッホ(オーボエ)、カラヤン指揮ベルリンフィルという録音もYouTubeで聴けます。これは、個人的には、オーケストラのフルートパートがゴールウェイによって吹かれているという意味で興味深いです。「カラヤンのリヒャルト・シュトラウス」をお好みのかたにも、期待を裏切らない出来です。上述のルルーとぜんぜん違うタイプの演奏として挙げてみました。

 ホルン協奏曲第2番も、晩年のリヒャルト・シュトラウスの音楽が花開いた名曲中の名曲で、しみじみとして美しいです。ホルンは超絶技巧ですけど。私がこの曲で最も好きな演奏は、ズデニェク・ティルシャルによる演奏ですが(ほんとうに、死んでしまうほど美しい)、YouTubeにあるのかなあ…。本命のバボラクによる演奏も、楽章ごとに切れているし…。お好きなホルニストの演奏でお聴きください。天才デニス・ブレインの演奏もありますが、ちょっと元気が良すぎかな。ぜいたくなことを言ってますけど。

 「サロメの踊り」は、この曲をたいへん得意にしたストコフスキー指揮の一連の録音で、私はなじんでいます。ストコフスキーの演奏でなじむと、一般的な演奏がかたよって聴こえるということがありますが、これも「多数派」「少数派」の話に帰着するわけでして、多くの人は、ストコフスキーの演奏を「かたよっている」と言うのでしょう。かまわないです。ストコフスキー指揮の演奏も、YouTubeにあります。

 「4つの最後の歌」は、どれをおすすめしたらよいのでしょうかねえ。お好きな歌手でお聴きください。

 本日は、若いころのバボラクの演奏で、リヒャルトの2番を聴いた、という思い出でした。いっぽうのリサイタルは、名曲づくし、親友の友人である菅沼ゆづきさん(ヴァイオリン)が、ブラームスのトリオで共演したということで招待券がもらえた演奏会です。その話も、いつか、書きます。今回はこのへんまでです。お読みくださりありがとうございました。

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