大友直人の思い出

 大友直人の指揮する演奏会は、おそらく3回、聴いています。3回とも、オーケストラは、東響(東京交響楽団)でした。逆に、東響を聴いたときは、必ず大友直人指揮だったと思います。当時(いまから20~30年前)、東響の指揮者は、秋山和慶、大友直人、飯森範親の3人で、チラシを見る限り、ほとんど客演指揮者はいなくて、ほぼその3人で指揮しているように見えました。なかなか筋の通ったオーケストラだと思っていました。

 大友直人・東響の演奏会は、聴いた順番に、まずラヴェルの左手ピアノ協奏曲(ソロ:フセイン・セルメット)とフローラン・シュミットの「詩編47編」、つぎに、マーラーの交響曲第6番、そして、エルガーの「ゲロンティアスの夢」でした。この記事で、一度に紹介いたします。

 ラヴェルとフローラン・シュミットの日。ラヴェルの左手協奏曲は、このときはじめて生で聴きました。すごい曲ですね。セルメットは、このころ東響としばしば共演していたトルコ出身のピアニストで、もちろんというか、この演奏会でのみ、生を聴きました。ラヴェルの左手協奏曲は、この演奏会の直後、ワセオケ(早稲田大学のオーケストラ)でも聴きました。そのときのソリストは花房晴美で、左手しか出ないドレスでの登場であったことを思い出します。コントラファゴットの活躍する曲で、ワセオケでファゴットを吹いていた仲間が、「コントラファゴットで乗りたかった!」というほどの曲です。

 フローラン・シュミットは、近代フランスの作曲家で、いろいろ味のある曲を書いています。私も学生時代に、「珍曲の発掘」に精を出していたころ(?)いろいろ聴いたものです。フランツ・シュミットという作曲家がいるのですが、区別するために、フルネームで呼ばれていました。この「詩編47編」は、大規模な曲で、ソプラノ、合唱、オケ、オルガンという編成の曲です。ソプラノのソリストは忘れました。すみません。合唱はもちろん東響コーラス、オルガンは、私の通っていた教会の奏楽者でもあった、水野均さん。ものすごい曲でした!

 余談になりますが、この旧約聖書の「詩編47編」から生まれた曲で、すごく有名な曲があるのですが、ご存じでしょうか?詩編47編は、「すべての民よ、手を打ち鳴らせ」(2節)と言って始まりますが、ここから「しあわせなら手をたたこう」という有名な歌詞が生まれました。作詞者の木村利人(きむら・りひと)先生から直接、話をうかがいましたので、間違いありません。「しあわせなら手をたたこう」という歌の「態度で示そうよ」という特徴的な歌詞に込められた思いも聞きました。これは、多くのクリスチャンでも知らない話だと思います。「しあわせなら手をたたこう」は、いま、世界中で歌われています。

 さて、あとは短く書かざるを得ません。いまのフローラン・シュミットの演奏会は、きちんとチケットを買って行ったと思うのですが、あと二つの演奏会は、招待券で行っています。当時、東響の練習場は、大久保の「キリスト教婦人矯風会」の敷地にあり、矯風会が場所を貸していたのでした。矯風会に勤める教会の仲間から、ときどきいろいろなチケットをいただいておりました。そのような演奏会のうちの2つです。まず、マーラーの6番。じつは、マーラーの6番を生で聴いたのは、このときが(いまのところ)唯一であり、このころ、私はまだ、マーラーに開眼していなかったと思われます。詳しくは「マーラーと旧約聖書」という記事をご覧いただきたいのですが(またリンクがはれなくてすみません)、私がマーラーに開眼したのは比較的に遅く、それまではマーラーのよさはわからなかったのです。このときも、かんじんの2回のハンマーも、2度とも見逃すなどの情けなさであり、いまこの演奏会を聴いたら、どう感じるか、ほんとうに惜しいことをしたものです(同様に、スヴェトラーノフ指揮N響のマーラー7番も、マーラー開眼より前であり、ちんぷんかんぷんであったことを思い出します。いま、その演奏を聴いたらどう思うか、残念でなりません)。これがマーラー6番。

 そして、3回目。エルガーの「ゲロンティアスの夢」でした。これは、巨大なオラトリオで、私が聴いたその演奏会でも、まだ日本での5回目の演奏とのことでした。じゅうぶんに予習をしていったつもりでした。エルガー協会の人(大学の先生)が訳詞をしており、プログラムに訳詞が載っていました(字幕上演などの一般的でない時代だったのですね。古い話です)。これこそ、マーラーの6番以上に、いまだに全容のつかめない音楽で、当時、ちんぷんかんぷんであったとしてもしかたがありません。しかし、「ゲロ夢」を生で聴くという、貴重な経験をしました。3回の演奏会をこうして並べてみますと、大友直人、東響は、かなりチャレンジングな選曲をしていたことになり、あらためてすごいなあと思わざるを得ません。エルガーの「ゲロンティアスの夢」は、非常にキリスト教的なメッセージを持った作品であり、そういう宗教合唱曲に興味のあるかたには、聴いてみることをおすすめしたいと思います。エルガーワールドが炸裂しています。

 といったところです。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?