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モスクワでロシアのワクチンを打ってみた話

【注意!】
 ロシア製ワクチンは日本では2022年2月現在まだ認可されておらず、報告されている副反応等について日本語で正確かつ十分に知ることができるページは無に等しいと思われます。接種の際は、十分な備蓄と休息を取ることができる環境を整えた上で行ってください。また接種による副反応等について、筆者はいかなる責任を負いませんのでご注意ください。

 本情報は2021年1月末時点のものです。今後状況が変化する可能性もあるため、かならず接種前に自分が居住する都市の情報を確認してください。

ロシアの感染対策とQRコード

モスクワ地下鉄駅の随所に配置されている手指消毒マシン。わざわざБесплатно(無料)と書いているが、実際に活用している通行人はごく稀にしか見かけない。

 2019年の夏を最後に、およそ2年半ぶりにモスクワの地に降り立った。久方ぶりのこの地は想像以上に変わりない姿で、何度か行った店も相変わらず存在し続けていたので安心感に絶えない。地下鉄やМЦДなどの新線開業もあって、むしろますます便利な方向へ変化しつつある様子だ。

 一方、「例のあの病毒」が与えた影響は随所で目にすることになる。地下鉄には消毒用のスプレーが随所に配備され、「マスク着用」「ソーシャルディスタンス」の掲示が日本と同様になされている。もっとも前者についてはほとんど利用されず、後者についても守られていないことの方が圧倒的に多い。実際、私が今座っているこのカフェの席にも「ソーシャルディスタンス確保のためにここには座らないように!」というシールが貼られていることに座ってから気がついたが、店員に咎めれることは一切なかった。

 そんなこんなで爆増していくロシアの感染者数については特に昨年秋頃に日本でも煽情的に報じられた記憶が強いと思われるが、現在も新型株の影響もあって以前にも増して勢いよく増加の一途を辿っている。
 そして秋ごろの日本での報道は同時に「ロシアではロシアのワクチンしか認可されていないため、国内のワクチン接種率が低迷」ということを伝えていた。どうやら「ロシア人は自国のワクチンを信用していない」ということらしい。

 ロシア政府とて、この状況を指をくわえて眺めているわけではない。ロシアで認可されているワクチンの接種者には1年間(もしくはそれ以上の期間)有効、PCR検査の結果陰性だった者には48~72時間有効のQRコードを発行して、公共の場の人流制限を行おうというという政策を昨年後半に打ち出してきた。公共の場所というのは博物館・美術館やショッピングモール、カフェ・レストラン、鉄道・バスなどの交通機関のことを指す。
 つまりロシアで生活していくためにはQRコードの獲得、すなわちロシア製ワクチンの接種が欠かせない状態になりつつあるということだ。というわけで、7か月ほどロシアに滞在することとなる私も早速接種に向かうことを決めた。

接種に必要なもの(モスクワ編)

 ワクチン接種にあたって特段必要な準備はない。強いて言えばパスポートとロシアの携帯電話は必要だが、ロシアに一定期間滞在する人でこの二つを持っていない人は存在しないだろう。ただし、これさえあればいいというのはモスクワに限ってはである。
 後述するが、モスクワは殊にQRコード取得においては非常に便利な都市である。予約なしで、ほとんど手ぶらで行くだけで即座に摂取でき、なおかつ接種と同時並行でQRコード登録が行われ打ち終わってスマホを開くと既に1年有効のQRコードが届いている。
 一方で都市によってはСНИЛСというロシアの保険システムに登録が必要だったり、予約が必要だったり、またQRコードを取得してもモスクワのように電子媒体として送られてこないためにコードが印刷された紙を持ち歩くor写真に撮ったものをいちいち出さなければいかなかったりする。昨年末から今年初めにかけて外国人のQRコード取得はかなり簡素化されつつあるという情報もあるが、この点について必ず接種前に自身が居住する都市の情報を確認していただきたい。

いざ、実食(食べるわけではない)

 というわけで接種会場には気楽に向かおう。わざわざ病院に行かずともПункты вакцинации от COVID-19(コロちゃんワクチン接種場)という名の施設がショッピングモール(有名どころでは赤の広場のグム百貨店がある)などモスクワ市内のいたるところに開設されている。案内ポスターもメトロの駅や道端に十分すぎるほどに設置され、とにかく接種を進めたい行政の気持ちを感じることができる。
 といっても残念ながら外国人はどこでも接種できるというわけではない。モスクワ市内だと数か所が外国人にも対応しているようだが、その中でも日本人の知り合いのほとんどが接種していたルジニキ(Лужники)スタジアムの会場ならば確実だろうということでそこに向かうことにした。

駅出口を抜けると地図が掲示されている。なかなかに遠い。

 ルジニキスタジアムの最寄り駅はМЦК(モスクワ中央環状線)Лужники(ルジニキ)駅、もしくはメトロ1号線(赤色の路線)Спортивная(スポルチヴナヤ)駅かВоробьёвы горы(ヴァラビヨーヴィ ゴールィ)駅となる。今回はСпортивная駅から会場へと向かうことにした。

積もりたての水分多めの雪が足に絡む

 ルジニキスタジアムはかなり巨大なスタジアムで、駅を降りて目の前にドドンと鎮座しているゆえ一見近そうに見えるが、実際は全くそんなことはない。そもそもスタジアム本体までたどり着くまで10分は必要で、そこから向かって左端が会場入り口になるのでそれなりの距離がある。
 当日はちょうど日が暮れ始めた頃で、水分を含んだ雪が降り続けていたので視界・足場共に良好とは言い難い状況であった。本当に接種できるのか少し不安になりながら、近そうに見えてなかなかたどり着けないもどかしさを感じつつ雪の中を歩き続ける。

立派な入場ゲートだが、人はいない

 15~20分くらい経ったであろうか、ようやっと入口に辿り着いた。多客に備えたような作りであるが、実際見たところ警備員しかそこにはいない。ここでは特に何もチェックはなく、スタジアムの階段を上がったところで安全検査を受けて中に入る。場所が場所ゆえにここからの写真はないが、入り口と張り紙がされているがとても接種会場とは思えないような簡素なドアなのでなかなかに不安である。
 ドアを開けるとまずクロークがあり、「ワクチン?」と聞かれるので返答する。といってもここでは服を預けるだけなので受け付けのようなことは何もしない。
 続いて通路を進むと右手に受付があり、ここでパスポートを呈示して手続きを進める。特段問診票のようなものは書かされず、受付の人からは「ロシア語はわかるか?体調は良いか?熱はないか?アレルギーはないか?」と平易な質問がされるのみだった。同意書3枚ほどにサインと携帯電話番号の記入をし、背後にある会計に進む。
 会計では説明書のうち1枚を渡し、ワクチン代金である1300ルーブル(都市によって値段は違うらしい)をカード決済で済ませて領収書を受け取る。

 ここからいよいよ接種の始まりである。問診の医師に同意書1枚を渡し(残った1枚は控えになる)、「体調は万全ね?」という質問だけがなされるのでそれに返答すると、「〇番のブースに行ってね」と場所の指定が行われる。ブースには3つほど椅子があるが、その中でも通路に直角に向いている椅子が1つあるのでそこに座ろう。ちょうどその椅子に対して直角になっている椅子に医師が座って接種を行うという形だ。
 しばらくすると私服の係員がやってきてパソコン前の椅子に座り、書類のチェックを始める。ここで携帯電話番号の確認がされ、大丈夫ということなら接種となる。まず医師がやってきて、日本でのワクチン接種と同様に肩を出すように促される。前回の接種は夏場だったためすぐに肩を出すことができたが、冬場だとさすがにそうもいかない。もっともロシア人はそれなりに公共の場で肌を出しているので、私も特段ためらわずに遠山の金さんのような形(残念ながら私の肩に桜は咲いていない)で肩を出した。
 針を刺すときは日本と同様、接種部位をアルコールで消毒して行う。ワクチンが注入される際には日本で接種した時よりも少し痛みを感じたが、無事問題なく接種は終了した。
 服を着なおして、荷物を纏めて席を立つ。ここで特段接種後待機するように伝えられていないことに気が付いたが、ひとまずブースから離れた先に待機場所のような広い空間があったのでそこに向かう。 

 ここでスマホを開くとSMSが届いており、リンクを開くと無事1年間有効のQRコードを確認することができた。

 もちろん呈示を求められた際はこの画面にあるQRを見せればよいのだが、iPhoneユーザーなら一番下の部分をタッチすればwalletアプリに追加することができ、より素早く開くことができるようになる。印刷して紙媒体で所持したい場合は青色の部分をタッチすればよい。

walletに追加したQRコード 比較的簡素な見た目だが、有効性に変わりはない。
紙の接種証明もきちんと交付される。ここにはQRコードの記載はない。

 スプートニクにはスプートニクVとライトの二種類があるが、外国人はどうやら原則ライトを打つことになるらしい。両者の正確な違いの解説をここで行うことはできないが、前者は2回の接種が、後者は1回の接種がそれぞれ必要になる。有効性としてはどうなのかは知らないが、ひとまずライトなら1回打っておけば大丈夫ということのようだ。

ワクチン名は「スプートニク ライト」と記されている

副反応

 幸か不幸か、つまりは効果があるということだと信じたいがスプートニクライトにもきちんと副反応がある。私が接種したのは18時頃で、その日の晩は腕の痛みを感じつつも特に難なく夕食を作って入浴を済ませることができた。何もないことを願いつつ入眠する。
 残念ながら目覚めと同時にその願いは打ち砕かれてしまう。若干の悪寒とともに倦怠感と明らかな発熱感を覚え、体温計は持っていないながらも確実に発熱していることが分かった。
 歩ける程度の体調で食欲もあったのでお粥を作り、夕方まで布団に入って凌いだものの怠さが抜けなかったためバファリンを服用。このおかげか次の日の朝にはかなり体調は回復していた。
 その後激しくぶり返すということもなかったので、日本で接種したモデルナと比べると副反応は軽めとだと言っていいだろう。

実用・QRコード

 ここに来て衝撃の事実をお伝えすることになるが、実はモスクワ市ではQRコードを使用する場面はほとんどない。必要なのは主に劇場や博物館など、ロシアに来たからにはぜひとも立ち寄りたいスポットではあるものの直ちに生活の危機に直結するわけではない場所なのだ。
 QRコード政策は都市によってかなり差があり、特に地方都市などはカフェ・レストランはもちろんショッピングモールやスーパーマーケット、また公共交通機関を利用する際にまでもQRコードが必要になる場合がある。そんな中で感染者数が爆増しているモスクワの政策は非常に緩いものとなっているのだ。なんともツッコミどころ満載である。
 では地方都市に行けば必ず提示を求められるかというと、必ずしもそうではないのがロシアである。私が体験した例としては、「必要なはずなのにまったくチェックされなかった」「QRコード持ってる?と聞かれはしたもののちゃんと有効性のチェックまではしなかった」「めんどくさそうに「持ってるなら行っていいよ」と言われた」などが挙げらる。その他にも、店内には入れるのに会計の段階になって「QRコード持ってる?」と尋ねるという意味の分からない変化球を投げてくる店舗も存在し、せっかく取得したのに意外ときちんと使うことができない。  
 無事QRコードを行使できた場合、本人確認のために身分証の提示を求められたり誕生日を尋ねられたりすることがある。これほど緩ければいっそ他人のQRを借りても……と邪なことを思うかもしれないが、一方できちんと確認するときはするのがロシアなので危ない橋は渡らないようにすることを推奨する。なにより、きちんとQRコードを持っていれば確認されようがされなかろうが安心だろう。

 何はともあれ日本未認可のワクチンを接種することに対する不安は少なからぬものである。ぜひこの点については自身の予定や体調、居住している都市のQRコード政策やワクチン接種政策などを十分に検討したうえで判断していただきたい。

(おわり)

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