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Notes of a certain nun.〈とある修道女の手記p.2〉

12-24-2022 (Sunny)

22日に彼が修道院に訪れてから
色々な事が分かってきた。

先日丸一日をかけて話をしたけれど
何故、修道院に訪れたのか理解できた気がする。

彼は、まだ幼い頃アメリカで父と母と共に暮らしていた。その頃は父も優しく、母もずっとそばに居てくれて毎日が心温かく晴れやかな希望の中で生きられた、と彼は言う。お母さんのことを話している時とても穏やかな目をしていた。

だが、彼は実の父親を殺して刑務所に収監された
父親は妻と離婚してから酒と薬に溺れ、
自暴自棄になってしまったらしい。

離婚の理由は聞かされず、母親が居なくなってからは深い絶望の渦に呑み込まれたような日々だったと、唇を震わせながら話してくれた。

どうやら彼への暴力も酷かったようで、
いくら仕事をしてもその金銭は全て
父親の酒と薬に消えていた。

何故殺めてしまったのか聞いたら、彼の名前は元々「ill (イル)」という名前ではなかったらしい
妻との離婚後、父親によって「ill」という
名前に変えられてしまった。母がつけてくれた
大切な名前を父親によって書き換えられた。

幼い頃に呼ばれた名前を覚えていないのか聞いたら、あるのは父と母がそばに居てくれたという曖昧な記憶だけで、あの頃にどのような生活を送りどのような事があったのかはよく思い出せないと言う。

ill  苦しみ、災難、不運、不幸
酒に酔った父親にその事実を知らされた。
気付いた時には洗面所で、
血だらけの手を洗い流していたと言う。

刑務所では上下関係が激しく、他の囚人達からの暴力や虐めに苦しみ屈辱の日々だった。
「Ill (イル)」という名前がローマ数字の
「III」に見えることから「スリー」と呼ばれていた

極めて不衛生な刑務所で生活をしていた為か
重度の潔癖症になってしまったという。
イルは包帯の巻かれた両手を握りしめながら、
あの時確かに洗い流したはずなのに
父親の血がこびり付いて取れないと話した。

刑期を終え出所した足ですぐに、
ここフランスへ訪れた。

彼はお母さんを探したいらしい
何故自分を一緒に連れて行ってくれなかったのか
何故自分を捨てたのか
そして自分の本当の名を思い出したい、と

ひどく震えた声で止めどなく流れる涙を
両手の包帯で擦りながら話した。

修道院で彼を見つけた時、十字架の前で
指を折り畳み両手を組みながら
気絶していたのを思い出した。
きっと彼はお母さんに会えるように
祈っていたのかもしれない。

イルは泣き疲れたのか瞼を赤らめて
すっかり眠ってしまった。

これが先日の事。ゆっくり時間をかけて
彼はすべてを話してくれた。

クリスマス、今日はとても忙しかった。
ガレットを取り合う子供達を見たからか、
彼はお母さんのことを話している時のような
穏やかな顔をしていて安心した。

彼がお母さんに会うためにはどうしたら良いだろうか、私には何が出来るだろうか…
彼と一緒にもう少しだけ考えたい
God bless.


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