4月24日


夜勤明け。普段なら仮眠をとるところを、今日は寝ることなく朝を迎えた。
日記を夜通し書いた。こんなことは滅多にない。このまま書こうと思えた。そもそも、書くことに対しての意識がまるっきり変化している。改めて、書くことに、意味不明な義務感を感じていたのだと気がつく。
夜の施設はいつも集中できる。僕は基本的に事務所で作業をする。廊下と繋がっている小さな部屋。深夜になると、日中の騒がしさは消え物音もせず、自分の意識の世界が拡張され現実の世界(事務所)と一体になる。「呪術廻戦」の伏黒恵が、レシートから物を出す男と戦闘中、未完成ながら体育館の空間を利用して領域展開するシーン。あんな感じ。
時折、居室から車椅子で出てきて徘徊する利用者さんと目が合うのも深夜に作業している時の楽しみの一つ。そして、もう一人のスタッフにすぐさま部屋へ戻される。
その利用者さんは、出てきては戻されるを1時間に一回ほどのペースで繰り返すのだが、もう一人のスタッフが別の利用者さん対応している時は、休憩中の僕が部屋に連れていく。
「いま、なんじぃー?」
「もう寝る時間ですよ」
「寝ていいの?」
「うん大丈夫。おやすみなさい。」
認知症の人と接すると、人間の純粋さに触れている気がいつもする。嘘がない、心からの言葉。僕も嘘なく言葉を出していきたい。利用者さんの言葉に触れると、心のどこかにある暗いもやもやが解ける。その状態で生きていく。それだけを目指したい。
朝になり、仕事再開。朝食後、利用者さん二人下痢気味。
トイレに座った瞬間噴射型と、オムツの中にぎっしり溜まり型。どちらもお尻付近がかなり汚れる。がっつり清拭をする。仕事が終わり、もう一人のスタッフに仕事が遅い事を指摘される。明らかに手際は悪いのだろうなと感じる。綺麗に早くが苦手。早く、パパッと行動しながら、考える事が今の課題なのでもう少し意識をそこに向けていこう。恐らく、思考を回転させていたら、自ずと動きもついてくるのかもな。とりあえず今日はその実験。切り替え、メリハリ。
帰宅し、シャワーを浴びたらすぐに寝てしまった。起きると19時。
祖母がいた。姉、母、僕。食卓を囲む。
「ビール飲む?」
「うん、ありがとう」
食後、風呂から祖母と姉の声を聞きながらポテトサラダを作る。

こんな風に書くとなんだか、日常を大切に、幸せな彩りあるもののように感じられるが、姉は風呂から祖母に、
「頭洗って」
「入らないで」
〜してという言葉遣いをし、深夜3時まで起き、何度も車を使いどこかへ出かける。毎日昼過ぎまで寝ているのだ。

そもそも、私もそうだが、この状況を美化して、いいのか。姉もしかり。よくはない。よくはないけれど、ただ、今日、家族で、祖母、母、姉、僕で食卓を囲めた事が少し嬉しかった。小さな二人用の机に乗せられた四人分の食器を、机を囲む様に置かれた椅子を、そこに座る3人を僕は忘れたくはない。このひと時は確かにある。目の前にある。姉は未だに、子供のような状態で、自分も何かをしているわけではない。その現実も目の前にある。それらにしっかり目をむけ、ただ1日を過ごしていく。

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