ブランド戦略論と音楽について

毎年この時期になると年間ベストを決めたくなるもので、今年のベストアルバム30枚をしたためている中で、「ブランド論」のお話について。

企業や製品・サービスに比べてポップカルチャーで語るのは少し違うのかもしれないですが、今回の本とベストアルバムを検討したり、Spotifyの年間ランキングを見ていたら感じたことがあったので、そのことについて書こうと思います。

「ブランド戦略論」で体系的に書かれていた内容が、「ブランディングの科学」でバサバサ切られているような印象を受けました。
「ブランディングの科学」は、一年前に買っていた本で、長いこと積読状態。今回の課題図書で重い腰を上げて読むことにしました。
買ったのにも関わらず、読むことをためらっていた理由は、自分がやっていた仕事が、企業(製品・サービス)のファンの熱量を上げつつ、支持しているファンを理解し、新たにファンになる可能性のある人を増やしていくのか考えていることをしていたので、何か否定される気がして読むのをやめていました。

ただ、今回「ブランディングの科学」を読んでみて、ブランドを構築していくにあたり、コアファンorライトユーザーへのアプローチについては、ケースバイケースではないのかと感じました。一年前に比べると、「ブランディングの科学」が主張していることも一理あるなと。コアファンorライトユーザーへのバランスを考えることでブランディングができそうだなと。

「ブランディングの科学」では、現在のセオリーとされていた方法をエビデンスを用いて解明していくという内容です。既存顧客やロイヤリティユーザーよりもライトユーザー層を獲得していったほうがブランディング構築のための競争に打ち勝てると記述しています。書籍の終盤に7つのルールとして以下のようなことが書かれています。

1.できるだけ多くの人にリーチする
2.買い求めやすいこと
3.目立つこと
4.記憶構造を刷新/再構築すること
5.そのブランドならではの資産を構築する
6.一貫性を維持しながらも新しさを失わない
7.競合力を維持する

で、なんで一理あるかと思ったのかは、今年のSpotifyの年間再生ランキングを見て、「ブランディングの科学」で書かれていることはアーティストのブランド構築に転用できるのではないかと思いました。

ここ数年の日本音楽シーンでヒットしている音楽については、サブスクの楽曲再生ランキングを見たほうがよいと個人的には考えています。2019年に日本で再生された楽曲のトップ3は下記です。

『日本国内で最も再生された楽曲』
1. Pretender / Official髭男dism
2. マリーゴールド / あいみょん
3. 白日 / King Gnu

あいみょんはもちろんのこと、今年の紅白出場が決まっているofficial髭男dism、King Gnuは、サブスク全盛で成功している若手アーティストです。

ヒットに至るまでの経緯も3組とも似ている気がしていて、

①インディー時代に早耳の音楽好きリスナーを中心にファンの土台を築いている。
②「バズリズム」「関ジャム」といった音楽好き向けの番組で取り上げられる。
③ドラマのタイアップが決まり、音楽好き以外のライト層へ認知が広がる。
④アルバムが発売し、ヒットする。

大人気といった感じでしょうか。

①でファンの土台を作り、②でマス向けの番組を取り上げられたことにより、ファンを中心に話題になり、サブスクやYoutubeで楽曲が再生されてバイラルランキング・人気急上昇入りする。音楽ジャンルの好みにもよるとは思いますが、音楽好きであればだいたい②くらいのタイミング認知し、アーティストの印象が決まるのではないでしょうか。

②から知名度がつき、タイアップが徐々に決まり、最終的にはドラマのタイアップが決定し、ライト層まで広がる。ライト層まで広がった段階でアルバムが発売し、楽曲が聴かれ、サブスクランキングでアルバムの楽曲が複数曲ランクイン。

これから、このようなヒットが生まれてくる可能性があるときに、ブランド戦略論の中にあった「ブランド戦略」については活用していけると感じています。アーティストでも「だれ」に対して、「どんな楽曲・ジャンル」なのか認知してもらうのか、聴ける環境の配置を考慮するだけでなく、露出するメディアやタイアップも戦略的に動いていくべきだと思います。

その中で、①~②はコアファンを軸にしつつもライト層とのタッチポイントを検討することや、③以降にはより幅広い層になったときにはどのタッチポイントを活用するのか、アーティストが持つブランドイメージを保ちながらも「ブランディングの科学」の7つのルールに記載されていることは意識できるんじゃないかと思いました。

ものすごい良い楽曲を作るのだけでなく、だれにどうやって届けていくのか、そして、どういう印象を持たれるのか。作ってから届けて、ユーザーが持つ印象までできてアーティストのブランドが構築されるのではないでしょうか。

CD以外に多くのチャネルで楽曲を聴ける状況にある現在は、アーティストは楽曲をリリースしていきながらブランディングもしていくことがヒットにつながるのではと今回の本を読みながらそんなことを考えました。

ちなみに、僕が選ぶ今年のベストアルバム30枚にofficial髭男dismは入っています。


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