羅小黑戦記に転げ落ちた話


羅小黒戦記という映画を見た。
上映時間1時間41分の中華アニメーション作品だ。
結論を先に言うと、

もうめちゃめちゃ面白かった。
全人類願わくは見て欲しい。

この映画が日本ではじめて上映されたのは2019年の9月だが、わたしが見たのはその半年後の冬だった。
初見で気が狂い(なぜ気が狂ったかは後述する)そこから数ヶ月、ひたすら劇場に足を運んだ。数えてないが、二桁は確実に超えていた。
時期的に劇場の存在が危ぶまれた頃だったが、人生で最も映画館に行ったのは、間違いなくこの時期だ。なんかもう、そのくらいどハマりした。

もちろん、多く見れば見ただけ作品への熱量が深まるというわけでもないし、1回でも30回でも、好きの度合いに差異はない。たった1度だけ見た作品が、生涯忘れられないこともある。
それでも、きっとここまで急速に転げ落ちた作品もこの先そんなにないだろうと思う。

正直、何故こんなに見ているのか自分でもよく分からない。
ストーリー自体は繰り返し見なければ理解できないようなものではないし、公演ごとに少しずつ演出が異なる舞台でもない。
だけど、こんなにも映画の中の登場人物に会いたいと思ったことは今まで初めてだった。
あしげく通う熱量は、たぶん、そういう類の好きだった。

そんなわけで、初見から約半年。今更感がすごいがあらためて感想など書いてみようと思う。
実は1回目を見た直後にも感想は書いたのだけど、改めてこの狂いまくった状況を振り返りつつ、初心にかえって作品について感じたことをしたためい。

世界観の考察や、アニメーション的な評価はすでに沢山の方がされているので、ここでは主観100%で自分の好きなところだけ語ります。
すでに這い上がることが困難なレベルで沼に沈んだ人間が書くものなので、だいぶ偏っていることはお許し頂ければ幸いです。先に謝っておくごめんね。

超簡単なあらすじをあえて言えば、この映画は主人公である黒猫の妖精「小黒」が、故郷を失ったことをキッカケに外の世界を知り、人や妖精と出会い、自分の生き方を見つけていく話…
という感じなんですが、あらすじが下手すぎるのでこの辺はwikiを見て欲しい。
元も子もないけど、正直あらすじを知ってるか否かはあまり必要ない。パッケージもあまり当てにならない。どうせ最後は殴られる。

登場人物こそ多いが、作品のストーリーそのものはいたってシンプルで、前情報がなくても大まかな話は理解できる。
ただ、一見分からないところが何もないように見える作品こそ、深堀すると底なし沼みたいに深い。
そうでなくとも、オタクは好んで穴を掘るのだ。

この作品に対して感じる魅力のひとつは、そのテーマ性の広さだと思う。
作品自体は非常に分かりやすい構成をしているが、この物語から何を感じ取りどんなテーマを見出すかにおいては、マジで視聴者によってかなり多岐にわたってくる。
これも主観だけど、たぶんオタクが5人揃ったら5人違う感想が生まれるタイプの作品だ。場合によっては、本当に同じ映画を見たのか聞きたくなる。

人と自然の共存だとか、子供を大切にすることだとか、もっと踏み込めば舞台となった国の歴史背景だとか、目を向ける箇所は本当に山ほどある。
ぜんぶ正しく、この作品の要素だと思う。

そんなわけで人によって何を感じるかはさまざまだけれど、わたしはこの作品を通して「異なる立場から見た善悪とは何か」をすごく考えた。正誤のない世界でさいごに残るものは何かを、ほんとうにたくさん考えた。

少し話が前後するが、わたしがこの映画を見たきっかけは、TLに流れて来たフォロワーのファンアートだ。どう考えてもド好みな黒髪美人のかわいい男が居いて俄然興味を持ったという、大変不純な動機である。
話の内容は殆ど知らない状態だったが、目にするポスターやイラストから得た所感は、子猫と人間のハートフルアドベンチャーという感じだった。
まずポスターの黒猫がかわいい。君と未来へというキャッチコピーもいい。きっと、ぜったいあたたかい話だろう。人間と妖精が暮らす世界という舞台も、人外大好きなオタクとしてはこれだけでもう見る理由としては十分だ。おまけにジブリっぽい雰囲気を感じる。いいねいいね!絶対好き!

と、そんな軽い感じで見に行ったのだ。
甘く見てた。
当たり前だが、こんな顔の良い男たちがくそでか感情ぶつけ合うような超本格アクションストーリーだとは思わなかったし、最後は爽快感をもってイイハナシダナーで終わるのだとそう思っていた。

もう完全に甘く見てた。

確かにハートフルでも間違ってない。
実際のところは、ハートフル!!!ネコチャン!!! ネコチャ……   アクション!!アクション!!!アクション!!!!!!えっ、まだアクション!!!?   アッ   まだ??? うわ アクション~~~~ッ    みたいな感じだった。ぬるぬる動くどころか何なら肉眼で追えない。今一瞬映ったおまえは誰だ。コマ送り必須だ。円盤頼むよ。

とはいえ終わりは温かなものだし、主人公の目線からすれば(ここを強調したい)ハッピーエンドと言ってもいい。それも間違いないだろう。

けれど、イイハナシダナーで終わらせてしまうには、あまりにも考えることが多すぎる。
いやほんと、考えること多すぎるんですよこの羅小黒戦記。
おそらく、この映画に狂った人の多くは、たぶんこのさまざまな意味での「終わらせられなかった何か」に躓いた人たちだ。たぶん。少なくともわたしはそう。

ストーリーはシンプルと書いたが、それはあくまで起承転結の話であって、そこで生まれる人間模様はまったくもってシンプルではない。
完全懲悪、悪い黒幕をやっつけてめでたしめでたし、色々あるけどこれからは一緒に頑張ろう!
そんな感じであればどれだけ楽だっただろう。
いやそれだったらそもそもこんなネバーエンディングレシート感想文なんて書いてないんですが、少なくとも映画を見たあとで毎朝毎晩、人間と妖精のことを考え枕を涙で濡らすような羽目にはならなかったに違いない。同人誌も出さなかった。

だけどそうやって考え続けてしまったのは、考え続けることが出来たのは、ひとえにこの映画が何ひとつ押し付けてこなかったからだ。
わたしはその距離感が本当に好きだ。

作品内では対立する価値観や立場が複数存在するが、それでも制作陣はその中のどれか一つを正解と決めることなく、最初から答え合わせの存在しない問いを投げてくる。

作中で无限(後に主人公の師になる人間)が「いろいろ見せたくて」と言っていたように、わたしたちは小黒の目線を通して、作中のさまざまな人や妖精や、彼らの暮らす世界を見る。
物語を追っていくうちに、視聴者もまた色々なことを考え、物語の中で何度も価値観は揺らいでいく。

いやほんと   それがもうさぁ……  
 駄目なんですよほんとに。

物語の最後で、小黒はある疑問を无限に問いかけた。
无限はけれどその質問にYESともNOとも答えない。おそらく彼には彼の答えが明確にあり、ゆるぎない感情があって、けれどそれを小黒へ伝えることはしなかった。
「わたしに聞かなくても、おまえには答えがある」そういう答え方を彼はした。

中盤、ビジネスホテルでふたりが善悪について話す場面がある。善悪が分かると主張した幼い小黒に、无限は「信じよう」と言う。
あの時小黒が伝えた言葉が、そのままこのシーンに繋がっているのだ。
ほとんど何も知らない幼い妖精の意思が、正しいとか間違ってるとかではない、ただ「信じよう」という約束ひとつで尊重されたのが、あのラストシーンだった。
これがこの物語の善悪のかたちだった。
そう思うと、どうにも泣けて仕方ない。

視聴者は小黒の目線を通して物語を見たが、それも含めてだ、こんなに救われる一言がある? 最高だよ。
もうそれだけで100の信頼なんですよこの映画…。

この物語に悪役はいない。完全な正義もいない。
大切なものがあって、守りたいものがあった人間と妖精がいる。ただ、そういう話だった。

最後の朝焼けのシーンは本当に綺麗で切なくて、堪らない気持ちになった。ひとつの映像として、本当にさみしくてかなしくてうつくしい。
あの光景を目にしたすべての登場人物たちの気持ちを考えると、オタクの情緒(主に私の)は空へ昇る。ほんとにもうここだけで本が爆誕するに値する。

どうしても何かを願いたくなるけど、自分が何をそんなに願ってるか分からない。
そういう意味でも、繰り返し見てしまう、たぶんそういう映画なのだと思う。


…と、
ここまで極力固有名詞と登場人物たちの個々については語らずにきたのですが、

登場人物、もれなくキャラデザが全員5億点である。ぜったいに見てほしい。
かわいい。ほんとかわいい。
この可愛いキャラたちが動いて喋ってくれるだけでもう何度でも見たくなってしまう。
真面目に語ったけど、そういう理由でも結構通った。 いや… ほんと可愛いし  最高なんだ… 
ほんと、あの、序盤で出てくるツノの生えた青い 可愛い子がいるんですけどね   ほんとに可愛いので見て…  

公式さん何卒、何卒日本語吹き替えと円盤をよろしくお願いします。後生だ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?