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【アニメ感想文】GWに「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を一気見して箱ティッシュ1箱潰した話(その1・全13話+OVA感想)


0.はじめに

 GWはマリオの映画と「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」で終わった筆者です。マリオも非常に面白かったのですが、今回はヴァイオレット・エヴァーガーデンの方の感想です。
 金曜ロードショーで総集編などが放送されていた頃からちょっと気にはなっていたものの、配信がNetflix限定だったこともあってなかなか手を出せずにいたんですよ。ただ、先日友人らから熱烈にプッシュされたこともありまして(ついでに「初見の奴は総集編は観るな」という助言も)、「よっしゃじゃあGWの間だけでもNetflixに加入して観るか」となり、ようやく重い腰を上げて観るに至りました。
 結論から申し上げると「主人公が成長していく描写を非常に丁寧に描いた作品」であると同時に「京アニ、思い切って『作りたいもの』に振り切ったな」という印象を受けました。
 さて、まずは各話の感想などを書き連ねていきます。先に言っておきますが、だんだん長文になります。最終的にすごい文字数になります。覚悟の準備をしておいてください。いいですね!

1.各話の感想(今更ですがネタバレ注意)

(1)第1話:「愛してる」と自動手記人形

 まあ第1話は落語で言えば「まくら」にあたる部分なので、世界観とか主人公の状況について説明する感じでしたね。舞台は第一次世界大戦後のヨーロッパをモチーフにした世界でしょうか。義手だけは異様に発達してますが。まあ、この時点ではまだ「戦いしか知らない主人公が徐々に人の心に触れていく話なんだろうなあ」程度にしか考えていませんでした。今思えば見通しが甘かったと思います。

(2)第2話:「戻って来ない」

 ヴァイオレットさんの上司になる、売れっ子の自動手記人形(ドール)であるカトレアさん、初見時は「胸元見せつけてくるような派手なおねーちゃんだし性格も派手派手なのかなあ」と思ってしまいましたが、めちゃくちゃ良い上司でした。1話に続いて、ヴァイオレットさんが「平和な日常」ではいかに浮いた存在なのかということが浮き彫りになったとともに、ヴァイオレットさんがドールになることを目指すきっかけになった回、という感じでした。まだここらへんはさらっと観てます。

(3)第3話:「あなたが、良き自動手記人形になりますように」

 ヴァイオレットさん、学校に通うの巻。ここらへんから物語としての面白さのギアが上がっていくとともに、視聴者の涙腺にダイレクトアタックしてきます。開始早々「少し前にちょっと話題になった『疲れ切った千川ちひろさん』じゃん!」と少しテンションが上がったりしましたが、この人、特に重要なキャラではありませんでしたね。ただ、この生活に疲れ切った感じから、おそらく「夫が戦場から帰ってこないので食い扶持を稼ぐためにもドールになろうとしている」んだろうなあとか想像できてしまう。ただ、やっぱり似てるんだよなあ。
 さて、ここでもヴァイオレットさんの「教えられたことは器用にこなせるが、人の心がわからないし、想いを言葉にする術を知らない」という現時点での状況が、ほかのドール候補生の生徒との比較もあり、より明確になった回でした。
 ただ、この話はルクリアさんという重要な人物に出会い、ヴァイオレットさんが初めて本来の意味での「手紙」を書くというターニングポイントでもあり、人が人を想う気持ちというものをほんの少し理解し始めた重要な回でもあります。身近な人にほど想いを伝えられない、結構あるあるな話なんですが、ベタなだけにその描写が美しいと涙腺にきますね…。ここらへんから徐々に作品に対する熱量が上がっていきます。

(4)第4話:「君は道具ではなく、その名が似合う人になるんだ」

 ヴァイオレットさん、同僚と出張するの巻。田舎町の情景はヨーロッパというより若干日本寄り(水田があったからそう感じたのかもしれない)っぽく、失われた日本の原風景という雰囲気でかなり美しい。この話に限らず、背景描写とか時間が経過する描写が異様に丁寧なんですよねこの作品。ストーリー自体は3話と近い「身近な家族だからこそ面と向かって言えないことがある。だから手紙という形で想いを伝える」なんですが、今話のもう一人の主人公である同僚のアイリスさんが最後に「自分の名前は花のアイリスにちなんで名づけられた」というシーンで、ヴァイオレットさんも「少佐」から「花の名にちなんで名づけられた」ということを思い出すんですよね。おそらくここからヴァイオレットさんと少佐の物語が始まったのだろうと感じられます。

(5)第5話:「人を結ぶ手紙を書くのか?」

 ヴァイオレットさん、初めて一人で出張するの巻。4話から異様にレベルアップしてませんかヴァイオレットさん!?(この謎はその後解ける)
 政略結婚とはいえ婚約相手同士による「公開恋文」という、現代の感覚だと半ば羞恥プレイにも感じられる手紙の代筆を行うわけですが、おそらく庶民にとってロイヤルな方々というのはアイドル的なものであり、美しい言葉で着飾った「公開恋文」も、庶民にとっての貴重な娯楽だったのだろうなあと思います。ただ、それだけに後半の「本音をぶつけ合うガチの恋文による殴り合い」になってからは、庶民の皆さまにおかれましてもライブ感がとんでもなかったのではないでしょうか。
 ところでヴァイオレットさん、この時点で推定14歳なんですか!? 10代後半くらいだと思ってました。あと、王女様に「表情が固い」と言われたときにほっぺたをうにょーんとするヴァイオレットさん、貴重な萌えポイントだと思います。
 あと、王女様の話を聞いて「いっそご自身の言葉で」と進言するヴァイオレットさん、既に相手の求めるものを察する能力が覚醒し始めています。相変わらず無表情気味ながら(それだけに最後にふと浮かべた微笑みが印象深い)、かなり人間らしさを持ち始めたヴァイオレットさんにほっこりしたところで、Cパートで少佐の兄貴が出てきてヴァイオレットさんの過去をえぐるのが…物語としてのクリフハンガーとして秀逸としか言えない。

(6)第6話:「どこかの星空の下で」

 ヴァイオレットさんと星を見に行こうの巻。天文台にある貴重な文献の写本を作るという仕事を、ちょっとひねくれた感じの写本係のリオン君とタッグを組んで行うという話で、若干ボーイミーツガール感のある甘酸っぱさも匂わせつつ、安易にそういう方向にもっていくのではない(リオン君のほうはちょっとヴァイオレットさんに惹かれていた感じはありますが)あたりが「上手いなあ」と思わせられました。二人がお互いのこれまでの境遇を共有することで、ヴァイオレットさんが「寂しい」という感情に気づくという描写、リオン君が「答え」を出してしまいそうになるもちょうどそのタイミングで彗星が流れてくるのがまたもどかしい。そしてそのタイミングで写本の内容の一節をヴァイオレットさんが呟くことで、リオン君も自分の本心(父と同じ道に進みたい・いつまでも母を待っているだけの自分ではいられない)に気が付く、というあたりがまた秀逸。

(7)第7話:「  」

 ヴァイオレットさん、劇作家に会いに行くの巻。かなりの人気回らしいですね。わかります。
 今回は人気劇作家の新作を書くお仕事。とはいえ劇作家のオスカーさん、かなり乱れた生活を送っているかなり「訳アリ」な雰囲気。とはいえ、ヴァイオレットさんがやってきたことがきっかけで過去に向かい合うことができるようになり…という内容。正直、後半は泣きっぱなしでした。湖の上を渡るシーン、この原稿を書くために見直してる今観てもやっぱり泣いてしまいます。映像の美しさも相成って非常に素敵な場面。
 なおこの回、ヴァイオレットさんのカワイイポイントが非常に高い一話となっております。初めての料理でシェフ大泉ばりのドームパスタ(おそらく食感としてはモチに近いと思われる)を作るヴァイオレットさん、新作の執筆を行いつつ話の続きが気になって仕方がないヴァイオレットさん、湖の上を三歩は歩けたとちょっとドヤるヴァイオレットさん(でも「もっと飛べると思っていた」と若干不満げでもあった)と、とにかくカワイイ。あと、後にヴァイオレットさんのトレードマークの一つとなる日傘もここで受け継いだんですね。
 ただ、「ヴァイオレットさんカワイイ」「泣ける」だけで話を終わらせないのが「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の恐ろしいところ。人の心を理解し始めたことにより、人を大切に想う気持ちや大事な人を失うことの恐ろしさを自覚できるようになり、それによって戦場での過酷すぎる経験が自戒の念として襲い掛かってきて激しく悩み、そのうえで「それでもきっとどこかで生きているはず」と信じていた少佐が、ほんのはずみのようなタイミングで「死んだ」と知らされるショック…またしても物語としてのクリフハンガーが光ります。特に最後の1カットだけ入る、ヴァイオレットさんの悲しみと怒りが混ざったような複雑な表情からの、今までサブタイトルが入っていたところにただ「 」とだけ表示される絶望感、この一瞬のシーンだけでぐっと引き付けられます。リアルタイム視聴してたらたぶん一週間何も手に着かなかったでしょう。なおNetflixではスクリーンショットが取れないため、各自自分で確認するように。

(8)第8話

 ヴァイオレットさんの過去編。これまでの話でも、断片的に「孤児であること」「異様な身体能力と戦闘力であること」などは描写されているのですが、そのあたりについて詳しく描かれた話となります。5話の〆で孤児時代に少佐の兄貴の船を単身で襲撃したっぽい描写があったので(おそらくそこで兄貴に捕まった?)、ヴァイオレットさんの身体能力の高さは生まれつきっぽいのですが、戦争での戦闘描写は「野性的な動き」と「訓練された動き」が合わさり、なんかとんでもないことになってました。単騎なら不死身の杉元より強いかもしれない。
 さて、少佐はヴァイオレットさんのことを「戦いの道具」として使いたくないと思いつつも、結果的に「優秀な戦力」として使わざるを得ないというジレンマに悩まされつつも、可能な限りで愛情を注ごうとしていた様子が伺えます。幼ヴァイオレットさんも、まだ語彙が少なく戦うこと以外の表現があまりできていないながらも、「少佐の瞳は『美しい』」「その少佐の瞳と同じ色のブローチが欲しい」という形で、少佐を最初から慕っていたということを表現しています。この二人尊い。なんで戦争中に出会ってしまったのだろう。そしてその戦争は残酷な形で二人を引き裂こうとするわけですが…9話に続く。

(9)第9話:「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」

 8話のラストからの続き。少佐との別れ。最後の言葉である「心から愛している」の意味。そして現代のヴァイオレットさんが再びその戦地跡に行きやはり少佐はいないという現実を突きつけられ、更に罪の意識に苦しめられる…というかなり過酷なシーンが続く。正直、途中まで観ていてかなり辛かった。
 ただ、配達係のおじいちゃんが出てきてから風向きが変わってくる。おじいちゃんの仕事を手伝い、おじいちゃんが届けてくれた仲間たちからの手紙を読んで「失ったもの・奪ってしまったものも多いが、得たもの・与えたものもまた多い」ということに気づき立ち直る。ルクリアさんの兄貴も偶然とはいえ最高のタイミングでヴァイオレットさんに依頼を出していたのもGJ。そこから「これまでにヴァイオレットさんがドールとして積み重ねてきたもの」を振り返っていく描写。そして「ヴァイオレット」という名前にふさわしく、その名が似合うような人になるようにという少佐の願いを、既に自分が叶えつつあることに気づいて顔を上げて一歩踏み出すシーン…これもう最終回だろ。そのあとの社長の「してきたことは消せない。でも…君が自動手記人形としてやってきたことも、消えないんだよ。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』」というシーンでの〆。完璧すぎる。

(10)第10話:「愛する人は ずっと見守っている」

 この話も人気が高い回らしいですね。内容としてはベタ中のベタ、開始から1分半くらいでなんとなく展開を察することができるくらいベタ。でもそのベタな話を、一人の人間として成長したヴァイオレットさんが携わることで、とても暖かく、とても切ない話にしてしまった。正直、この話は9話の後に来ることで意味があるのだと思います。
 さて内容としては病で床に伏せっている母親(クラーラ)の手紙の代筆をヴァイオレットさんが行うとともに、娘のアンとの交流をしていく…というもの。これまでもヴァイオレットさんは「人形のように綺麗」とか「人形のように人間味が薄い」というような評価を他者から受けることがあったが、アンも当初ヴァイオレットさんのことを人形だと勘違いしていた(『自動手記人形』と名乗ったこと、義手であることなども誤解を招いた理由か。このあたりはどうやら放送開始前にヴァイオレットさんのことを『アンドロイド的な存在』だとミスリードさせていたというところにも繋がりそう)。アンの「あなたお人形だから遊ばれたことはあっても遊んだことはないのね」とう台詞、これは大人に言わせたら皮肉もいいところなのだが、無邪気な子供であるアンに言わせることであくまでも悪気のない、「ヴァイオレットという少女は今まで『遊び』というものを経験したことがなかった」という方向にもっていくことができる、秀逸な台詞回しだったと思う。なお、色々と台無しになるが、「飲んだ紅茶はどうなるの?」というアンの問いに対する「体内を経ていずれ大地に還ります」というヴァイオレットさんの答えを聞いて、一瞬脳内に「安田を経て大地に還る」という言葉がよぎってしまったことはここだけの話にしておく。やだよ牛乳早飲みにチャレンジするヴァイオレットさんとか、飲み切れずに逆噴射するヴァイオレットさんとか、牛乳飲み過ぎてお腹壊すヴァイオレットさんとか、簡易onちゃんを顔に着けるヴァイオレットさん…これはちょっとだけ見たいかもしれない(ただし黄色い全身タイツはNG)。
 話を真面目な方向に戻す。母親の病状をなんとなく察しており、母親と過ごす時間を奪われることを嫌がる気持ちと、でも大切なことをしていることも理解しており母親を困らせてしまったことを本当に悔やむ気持ちの狭間でやりようのない想いを爆発させるアン。それをただ受け止めるヴァイオレットさん。このシーンの時点でかなり泣ける。アンの気持ちも母親の気持ちも十分に理解しているから、おそらくこの時点でヴァイオレットさんも必死に気持ちを抑えていると思うと(後述)、なお泣ける。
 その後、仕事を終えてお別れを告げるヴァイオレットさんに親愛のキスをしたときに「あたたかい」とようやくヴァイオレットさんがお人形さんではないことに気づくアン。そして、冬が来て、春が来て…夏の入道雲の下、母親との別れを経験するアン。このシーンの描写だけで「あのあと二つの季節が過ぎるまでの間は二人で穏やかな日々を送れたのか…」と気づいてしまい、また泣く。その後、アンが誕生日を迎えるたびに、母とヴァイオレットさんが書いた手紙が届く。亡くなった母親から未来の我が子に向けたメッセージってのは割とよくある話なんだけど…でもここまでの描写があまりにも美しすぎて、見事なまでに素敵な〆に繋がっていくんですよ。たぶん全人類ここで泣いてますよね。
 最後の「50年分の手紙」というところで度肝を抜かれるも、これまで必死に我慢していたヴァイオレットさんの感情が爆発してしまう。アンと母親が互いに互いのことをとても大事に想っていたということを理解しすぎるくらいに理解していたからこその涙だと思うんです。たぶん銀河系の生物全員ここで泣きましたね。

(11)第11話:「もう、誰も死なせたくない」

 この回もベタな内容ながら非常に心に響いた。10話に匹敵するくらい泣いた気がする。
 前半で印象深いのは、戦地からの手紙代筆の依頼の話を偶然聞きつけ、独断で戦地に向かうヴァイオレットさんと、「戦地に自分を届けてくれ」というヴァイオレットさんの意気込みに応えて「どんなところにでも届けるのが郵便屋だ!」と飛行機を出してくれる郵便屋のおじさん。こういうプロ根性見せる人、好きですね。
 その後戦地では激しい戦闘が始まり、依頼主の青年も戦闘に巻き込まれる。余談だが、遮蔽物の少ない雪山でスナイパーに狙われる恐怖、ゴールデンカムイの尾形や頭巾ちゃんの戦闘を知っているといかに絶望的かというのが理解できる。仲間がやられていく中、依頼主の青年も銃弾の前に倒れてしまうが…そこに急降下してくるヴァイオレットさん。かっこいい。一瞬で敵の大半を無力化し、辛うじて依頼主のもとに間に合うことができた。
 その後については…もう言うまでもないのだが、依頼主が故郷の両親と幼馴染に向けた言葉を指と心で覚え、手紙にするヴァイオレットさん。実際、最初の両親への手紙のときはエアタイピングをしているのだけど、幼馴染への手紙のときは「愛しく想う人への最期の手紙」ということもあって、指が止まってしまってしまっているんですよね。だけど「(手紙を)書いてる?」という青年からの問いに「はい、書いております」と優しい嘘をつくんですよ、あの嘘がつけないヴァイオレットさんが! で、その義手で青年の手を優しく握るんですよ。冷たい義手だけど、間違いなくこの瞬間は暖かかったのではないかと思います。そして、青年の今わの際に、その額に優しくキスをするヴァイオレットさん…このあたりは10話のアンのキスから繋がっているようにも感じられます。本当に依頼主が求めるものに、その気持ちを十分に理解して可能な限り応えられるまでに成長したんですよヴァイオレットさんは!!
 その後、約束通り手紙を青年の故郷に届けるヴァイオレットさん。遺言を届けてくれたことに「ありがとう」と感謝する両親と幼馴染に対し、「死なせてしまってごめんなさい」と泣き崩れるヴァイオレットさん…。10話・11話は「人の死」の重みを理解したヴァイオレットさんが、実際に「人の死」を前にしたときの反応をとても丁寧に描いているんですよね。これまでに積み重ねてきたものが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という人物を作り上げ、とても優しく、とても思いやりのある存在になれたのだなあと感動してしまった。本当に9話で『ヴァイオレット』という名前にふさわしい人物に成長できたからこそ、この10話と11話が成り立つのだよなあと、本当に感心しました。話の構成がとてつもなく上手い。

(12)第12話

 ここらへんから少佐の兄貴ことディートフリート大佐、ヴァイオレットさんのことを実は戦いに巻き込みたくない感じを隠さなくなってきますね。大佐のヴァイオレットさんに対する感情、かなり複雑なんだろうと思います。おそらく初見時にいきなり部下をほぼ全滅させられたところから始まり、自分には手に余ると弟に押し付けたら弟がたっぷり愛情を与えてたうえに命がけで守るほどの存在になるわ、戦後に再会したら昔とは比べ物にならないほど人間的に成長しているわ、それだけにどうしても弟の面影を感じてしまうわで、正直どう接していいかわからないのではないかと思います。だからこそ5話のラストでは悪態をついていたものの、12話では情報だけ確認して「お前は帰れ」と言い方こそキツいながらも戦わせないようにしたり、列車襲撃後も言い方がかなりキツいもののやっぱり戦わせないように誘導しようとしてるんですよね。たぶん拳銃を渡そうとしたのも「いざというときに同僚の二人を守るため」に使わせようとした感じなのかなあと。で、「命令が必要なんだろ?」的なことをしきりにヴァイオレットさんに問いかけてきては、ヴァイオレットさんから「命令はいりません」とあくまで「ヴァイオレットさん自身の意思」で行動していることを再認識させられて内心困惑しているように見えるんですよ。これは劇場版まで観終わると確信に変わるんですけど、この人徹底的に口下手で不器用なだけで根は悪くない人なんですよね。
 さて、本編18分あたりからヴァイオレットさん無双が始まります。おそろしいことに、戦闘シーンの方が安心して観られるんですよこのアニメ。「ヴァイオレットさんなら絶対負けない」という安心感と「戦闘中に泣かせには来ないやろ」という安心感。しかも今のヴァイオレットさんは「もう誰も死なせない」という不殺の意思で戦っていてなお強いわけで、おまけに走行中の列車の上という不安定な場所でうっかり落ちそうになった敵を拾いあげようとした隙を突かれて、ようやく初めてダメージを負うくらいの状況。まあ敵もなぜかほとんど銃を撃ってこない舐めプをしてきているのですが…パッと見は丸腰の少女だからさすがに遠距離攻撃するのは気が引けたのでしょうか。まあそのあとも超硬いアダマン銀製の義手で銃弾弾き飛ばされてましたので、正面から撃ってもおそらくヴァイオレットさんには効かなかった可能性が高い。
 その後、ブローチを奪われて一転してピンチになったヴァイオレットさんを颯爽と救う大佐。ここも大佐の本音としては「こんなところで勝手に死ぬな」なんですよね。でもやっぱり天邪鬼で口下手なので「殺さずに死ぬくらいなら死ね(要約)」とか言っちゃう。そしてヴァイオレットさんは少佐の最期の願いである「生きろ」を実行しながら、自分の想いである「死なせたくない」も実行しているわけで…なんかこう、「未だ心が戦争から帰ってこれていない大佐」と「戦争から帰ってきつつあるヴァイオレットさん」の対比にもなってるんですよこのへん。これ書いてて思ったんですけど、大佐の人間くささがなんとも好きだと気づいてきました。

(13)第13話:自動手記人形と「愛してる」

ベネディクト君の身体能力おかしくねえ!?
 まあそれはさておき(ベネディクト君については、どうやら原作小説の設定をもとにすると納得の身体能力らしい)、テロの首謀者こそ自己満足の死に逃げをしやがったものの、ヴァイオレットさんたちの活躍によりなんとかテロは未遂に終わり、本当の意味で戦争が終わった。
 久しぶりの航空祭に向けて「自分の手紙を書いてみないか」と言われたヴァイオレットさんが少佐のことを回想するシーンなんですが、少佐がヴァイオレットさんに対して「なぜ道具であろうとするんだ!」的に問い詰める言い方、これ12話の大佐とそっくりなんですよね。ここらへんやっぱり兄弟なんだなあと感じてしまいます。ただ、少佐の場合は兄貴よりやや素直なので本音をしっかりとぶつけているという違いがあり、悲しいかなこのときのヴァイオレットさんはまだ「本音であっても」感情的な言葉の意味を理解できなかった。だからこそ回想することで、「今のヴァイオレットさん」は少佐が言いたかったことを理解できてしまう…。
 そのあと、どうしても少佐への手紙が書けないヴァイオレットさんのところに、大佐が訪ねてくる。んで、12話までとは別人のように憑き物が取れたような穏やかな顔をしているんですよ大佐(ただ依然として目つきは悪い)。この人にとっての戦争も、おそらくようやく一区切りついたんでしょうね。で、大佐&少佐のお母さんとの会話、これこそまさにヴァイオレットさん(と大佐)にとって本当に欲しかった言葉なんだよなあ。そして大佐の「貴様はギルベルトの代わりに生きて生きて生きて、そして死ね」というまた不器用な言葉だけど直訳すると「長生きしろよ」な「最後の命令」をするんだけど、ヴァイオレットさんはやっぱり「もう、命令はいりません」と応えて、そして敬礼ではなくお辞儀で別れを告げる。やっぱりヴァイオレットさんのほうが一バ身ほど日常に適応できている気がするけど、最後までこの二人っぽいやりとりで、そしてここまでくればどれだけにぶちんな視聴者でも大佐がツンデレ気質であることは理解しているはずなので「平和になったからこそできるやりとり」であると感じられるんですよ。なんだろう、やっぱり嫌いになれないわ大佐。ヴァイオレットさんと別れてから独白で本音を語るあたりもねえ、やっぱりこの人素直じゃねえなあって思う。
 ヴァイオレットさんが初めて自分のために書いた、少佐への「手紙」。シンプルな言葉を紡いだものなんだけど、12話でカトレアさんが評していたように「心にスッと入ってくる」。そして「『愛している』を"少しは"理解できるのです」という言い回し。"少しは"ってところがいい。ここで「はっきりと理解しました」って言ってしまっていたらこの作品台無しになってたってくらい、"少しは"ってのが素晴らしい言い回し。
 あとタイトルが第1話では「『愛してる』と自動手記人形」であって、この時点でのヴァイオレットさんにとっての自動手記人形は『愛してる』の意味を知るための手段でしかなかったのが、13話では「自動手記人形と『愛してる』」に逆転しているのがベタながら秀逸。つまり一人の自動手記人形であり人間であるヴァイオレットさんにとっての『愛してる』とは何か、というところにまで考えが達しているんですよ(諸説あります)。
 そしてラストシーンなんですが…これ映画観る前と後では感想変わりますね。ひとまず初見時の感想としては「もしかして!?」くらいの匂わしぐらいに感じたくらいでした。あくまで視聴者に想像の余地を残す、いい終わり方じゃないかと思いましたね…。なので、劇場版については…また次の記事で書きます。言いたいことはたっぷりあります故。

(14)OVA:「きっと"愛"を知る日が来るのだろう」

 外伝を観終わったくらいのタイミングでOVAがあることに気づきました。第5話で異様に恋文が上手くなっていたヴァイオレットさんの謎を解くカギがここにあったとは。というわけで第4話と5話の間に位置するお話。
 まだ堅苦しい感じのヴァイオレットさんをこのタイミングで見ると、「ああ昔はこんな感じだったよねこの子」ってなんか懐かしくなります。親戚のおじさんか私は。
 「すべての女性が共感し、すべての男性の胸を打つ」内容という難しい依頼になんとか応えようと、古今東西の恋文について研究するヴァイオレットさんの真面目さが愛おしい。まさかこれがパワーレベリングになっていたとは。そしてここで一度「仲間の力も借りてみる」という方法を「任務遂行のため」と言いつつ実行しているあたりも何気に成長ポイント高いですよね。そのうえで、依頼者のイルマさんの話を聞いて「どんな想いで依頼をしてきたか」ということを考え、相手の気持ちを感じながら手紙を書くということを真っすぐにとらえて、手紙を書きあげる。ラストのイルマさんの歌でその内容が判明しますが、ただひたすらにストレートな言葉なのになぜか心にズドンとくる。曲のタイトルもどストレートに「Letter」。さすがEvan Callの作曲編曲、この人がメタルとかハリウッドの劇伴とかの道に進まずにあえて日本で音楽を書くことを選んでくれたことを感謝します。ちなみにEvan氏、調べてみたらアイマスにもちょびっとだけ関わってました(ミリオンライブの『UNION!!』に携わっている)。
 あと、毎回ヴァイオレットさんが壁にぶち当たったときにスッとヒントを与えてくれる頼れるおじいちゃんことローランドさん、ここでもいい役回りをしてくれます。このじいじも大好きなキャラです。しかし、宛先不明で戻ってきた手紙の倉庫を案内するシーン、13話の航空祭や劇場版にも繋がるとんでもない伏線でもあるんですよね…やっぱ凄えや、この作品。というかこの話がOVA扱いなの、贅沢すぎません!? めっちゃ重要な回じゃないですか。

2.TV版を完走した感想

 リアルタイム視聴勢、これを毎週1週間待たされながら観てたの!? 5話ラストや7話・8話ラストみたいな強烈なクリフハンガーを食らって無事だったとは…いや無事じゃなかったかもしれませんが。筆者は一気見したので比較的軽傷で済みましたが、もしリアルタイム視聴していたら、続きが気になって夜も6時間くらいしか眠れなくなっていたかもしれません。
 冗談はさておき、3話あたりからずっと泣きっぱなしだった気がします。そのため、最初は「一日で最後まで観てやるぜ。24分×13話くらいいけるいける」くらいに軽く考えていたものの、いざふたを開けてみれば数話ごとに休憩を挟まないと情緒がおかしくなりそうで、TV版視聴には3日くらいかかりました。外伝とOVAと劇場版はGW最終日に一気に観ましたがかなり負荷が強く無理をした気がします。
 また、こうして各話の感想や通しの感想を書くにあたり、改めてNetflixで部分的に見直しながら書いているのですが、1話あたりの感想を書くのにかなりの時間と体力を使っています…まあ仕事終わりのわずかな自由時間を使ってちびちび書き進めていた+再視聴にある程度時間がかかっていた+9~11日は体調不良でほとんど書けなかったせいですが。
 さて、TV版+OVAの部分に限定した感想ですが、やはりキモになってくるのはヴァイオレットさんの成長していく姿を見る楽しみと、少佐が最期に遺した「愛してる」の意味の考察だと思うのですよ。もう劇場版まで観てしまったため、一つの「答え」を知ってしまった身ではありますが、あくまでTV版完走時の感想としては「少佐とヴァイオレットさんにとっての『愛してる』は、『家族愛』的な意味だったのでは?」というものでした。少佐はヴァイオレットさんのことを本当は武器としてではなく一人の人間として育ててあげたかった(言葉や文字を教えたり、軍人として以外の部分での最低限の作法もどうやら教えていたっぽいあたり「戦後」を考えていたのではと推測)んだろうなあと思うし、その愛情はどちらかというと「親が子に対して与える愛情」に近い気がしました。一方でヴァイオレットさんが少佐に対して抱いていた感情は「敬愛」かなあと。当時のヴァイオレットさんにとっては、戦うこと・相手を殺すことは自分が生きるための「手段」でしかなく、この時点では戦うこと自体についてはなんとも思っていなかったんだと思うんですよ。むしろ戦い以外のことをたくさん教えてくれて、いついかなるときも大切に扱ってくれていた少佐は、孤児であるヴァイオレットさんにとっては初めて他者から受ける「愛情」であったと思うのです。あとは純粋に当時のヴァイオレットさん(推定14歳未満。12~13歳くらい?)に対して、20代半ばの少佐が恋愛感情を抱いていたかどうかはちょっと怪しいかなあという現代的な価値観が、どうしても脳裏をよぎってしまったところもあります…いやまあ5話で10歳以上年の離れたカップルが爆誕しましたので否定しきれないのですけれども。
 いずれにせよ、この作品で語られる「愛」の形は、時に恋愛であり、時に兄弟愛や親子愛であり、あるいは仲間や友達を想う気持ちも一種の愛であると思われます。
 戦争やら民族紛争やらで世界中がキナ臭い今の時代、もしかしたらこういう「人の想いを紡いで、繋いでいくお話」というのが全人類に求められているのかもしれないと、最後に感じました。

ちなみに完走後、こういうものを入手してしまいました。どういうものなのかはもちろんお分かりですね。

3.その他雑感

 ここからはたいしたこと書いていないので読まなくてもいいです。
 どうしても時代設定が近いこともあって(20世紀初頭くらい)、「ゴールデンカムイ」や「るろうに剣心」を連想してしまうところが多々ありまして…。「未だに戦争から心が帰ってこれていない」ディートフリート大佐やテロリスト集団みたいな人は不死身の杉元や第七師団、るろ剣の御庭番衆や志々雄一派などを連想させるし、「戦地で無双していた少年兵時代のヴァイオレットさん」はやっぱり不死身の杉元や人斬り抜刀斎感があるし、「もう誰も死なせない」と決意した後のヴァイオレットさんはアシリパさんに通じる部分もあったような気がします。アシリパさんは逆に最後に覚悟を決めてしまいますが…。
 ところで「全力のヴァイオレットさん」を一対一で止められるのって、「掴めれば抑え込める」不敗の牛山さんくらいしかいないのでは。あとは人撃ちガトリング斎のガトリング砲とか月岡津南の炸裂弾あたりが、武器の力でワンチャンあるくらい? まあ個人的にはヴァイオレットさんには戦いよりも、アシリパさんとご当地ジビエをヒンナヒンナしてもらったり、赤べこで牛鍋に舌鼓を打ったりしてもらいたいです。そして次第に腹ペコキャラになっていただきたい。
 あとヴァイオレットさんの容姿なんですが…「アイドルマスターシンデレラガールズ」で「クラリス」さんというアイドルを担当している身としては、ビジュアル的にも、キーアイテムが「ブローチ」であることからも、何か運命めいたものを感じざるを得ません。平和な時代と場所でこの二人がもし出会うことがあったとしたら…なんて妄想をするのもなかなか楽しいですよ?

 なお、この作品を一言で「戦争から帰って居場所を見つけることができたランボー」と表現した人をどこかで見かけて、なるほどうまいことを言うなあと感心させられたことも伝えておきます。ヴァイオレットさんは戦争で両腕と最も大切な人を失うという大きな傷を負い、かつ戦うこと以外のことをほとんど知らない状況からスタートしますが、めぐりあわせの妙もあって徐々に戦いから離れ、素敵な人物へと成長していくわけです。また、戦地にいたという経験が今度は「まだ戦争から心が帰ってこれていない人たち」の想いを受け止めることにも繋がっており、そのあたりも上手すぎる設定だとつくづく感心させられました。

 あと、ヴァイオレットさん役の石川由依さんの演技、とてつもなかったです。言葉すら満足に話せなかった初期、言葉は覚えたものの軍人でしかなかった少年兵時代、平和な日常に加わるもまだ軍人としての自分が強く残っている初期、徐々に人の心を理解し始めた中期、誰かを強く想う気持ちの大切さを十分に理解し、共感できるようになった後期、すべて演技の仕方が異なります。とんでもないです。プロの声優さんの仕事って本当にすごい。

 さらに、エンディングソングである茅原実里さんの「みちしるべ」。これ各話の余韻を残すとても素敵な歌だと思うんですよ。茅原実里さんの歌唱力は、アイマスPとしては絶対的強者である「オーバーランク」に位置する正真正銘のトップアイドル「玲音」として圧倒的な歌唱力を見せつけてくることで知られているのですが、その茅原さんがとても素朴な歌い方で、ただまっすぐに生きるヴァイオレットさんの心情を歌い上げたような歌詞ととても素朴な歌い方、完全に計算され尽くしていると思いました。何から何まで徹底的に丁寧に作られているわこの作品。本当にアニメ史に残るべき作品だと思います。とりあえずがんばって本編と外伝と劇場版のBDは予約しました。そのうち原作小説も買うと思います。

4.最後の最後に、Netflix君にお気持ちを表明したい

 以下に表示する画像は、TV版第13話を観終えた直後に表示されたものである。Netflix君には人の心がわからないというのが、わかるだろう? 一生ネタとして使わせていただきます。

余韻に浸る間もなく、いきなり強面のスモウレスラーが画面に表示された恐怖

 なお、ここまでで14000字を越えたため、外伝と劇場版の感想についてはまた次の記事で書きます。というわけでいったん締めます。

どっとはらい。

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