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 流れるように文字を書きたいと思った。うんうん唸って捻り出すわたしではなく、素直に溢れる気持ちを書こうと。文体なんて気にせずに、いまここにあることを、ここで感じたことを書きたい。文字という媒体を通してしまうことによって、わたしはフィルターにかけられる。織り目が細かい布に通すと透明な水になれるかもしれないし、穴が開けば砂利や不純物が入り混じる。昨日、創作物を人に読んでもらって、文字を通すことで自分がいびつになる感覚を知った。そこに知らない「わたし」がじっとりと立っていた。暗い人間なのかもしれない。ただそれは完全な暗闇というわけではなくて、わずかに光が届いている。井戸の底から月を見上げているように。

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