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プロセスエコノミーの可能性について考える

プロセスエコノミーってなんなの?

プロセスエコノミーとは、けんすうさんが提唱されたビジネス的概念で、ザックリと説明すると、クリエーターが作品や商品の制作過程(メイキング)を有料で公開することで、クリエーターはユーザーからダイレクトに収益を得ることが出来るということで、こういうビジネスモデルが流行るんじゃないかという話。
けんすうさんは、そのプロセスエコノミーに則った、漫画家などの作業風景を配信するサイト、00:00 Studioを現在運営されています。
https://0000.studio

プロセスエコノミーの現行の成功例を上げれば、ホリエモンや西野亮廣さんの有料会員制のオンラインサロンがそれにあたります。

宇宙ロケット開発や絵本の映画化までの過程などをメルマガやsnsやYouTubeなどの有料コンテンツとして配信を行って、ユーザーはそのプロジェクトの動向をリアルタイムで受け取ることができます。
そしてクリエーターはそこから得た資金や援助を元に、更にプロジェクトを加速させます。

ユーザーは制作過程の共有を受けることにより、ノウハウ的な学びを得たり、七転び八起きのドキュメンタリーコンテンツとして楽しんだり、ファンとして応援したりしています。

ハッキリとWin-Winの関係でしかないです。

プロセスエコノミーの先駆者

現在進行形の成功例を挙げましたが、自分は10年くらい前にクリエーターとして、プロセスエコノミー的な活動をしていた人を1人知っています。

海猿やブラックジャックによろしくの作者、佐藤秀峰さんです。

佐藤さんといえば、ブラよろや海猿のヒットももちろんですが、創作活動以外でも、漫画の著作権を放棄したり、海猿の実写映画関係でフジテレビと揉めたり、いろいろ波乱万丈な活動でも有名です。

当時、佐藤さんはニコ生で原稿を描く作業をしながら、デジタル作画にアシスタントへの指示をしたり、フジテレビとの確執の裏話、スタジオの運営方法や収益に関する話題などを話されていました。

視聴者は佐藤さんをコメントでいじったり、漫画制作のノウハウについて質問したりしていました。佐藤さんのやる気のなさそうな毒舌トークは非常に楽しく、自分も放送している時はよく見ていました。
あの放送を見て、漫画を手にとったりした人は多いのではないでしょうか。

ただ、放送自体の規模が小さかったので、活動の認知度は低かったようにも思います。オンラインサロンやクラウドファンディングなどのプラットフォームや文化的土壌があれば、もっと注目を浴びていたに違いありません。

また、AKBのドキュメンタリー映画や握手会なんかも、ユーザーと成長や活動のストーリーを共有する、プロセスエコノミーの一種といえるのではないかと思います。
ドキュメンタリーとなると、リアルタイム性が薄い上に、商品を売るためのプロモーション的な印象が強いため、少しズレがあると思います。

ノウハウを売るわけではない

プロセスエコノミーは制作過程の情報を売るという性質上、映画、音楽メディア、漫画、アニメ、ゲーム制作などの、エンタメコンテンツ制作現場との相性が良さそうですが、自分は既存のコンテンツが、プロセスエコノミーに、必ずしもそのままコミットできるわけではないと考えます。

ただプロの現場を覗き見れるだけで売れるのあれば、メイキングビデオや制作のドキュメンタリーが、既にバカ売れしているはずです。
またプロ直送のノウハウが詳しく知りたいのであれば書籍が最適に思います。

つまり、コンテンツどう作っているのかなどの、コンテンツ自体の内容を掘り下げて共有することは、プロセスエコノミーの成功率に繋がらないと考えます。
根拠として、企業のブログや公式アカウントで、コンテンツ制作の舞台裏や裏話やノウハウを、内側にいる人間がリアルタイムで実況している風景を見ますが、同業者や熱心なファンが見ているくらいで、それほど注目はされていませんよね。これを有料化しても誰も見ません。

プロセスエコノミーのキモは作品が産み出される瞬間までのプロセスの共有であり、つまり、プロセスエコノミーのメインコンテンツはストーリーになると思います。
そして、売れるストーリーとなると、制作過程におけるドラマチックな展開が必要になります。
企業のブログは宣伝が主な目的になるので、壊滅的にストーリーがありません。

それ以前に、今のエンタメ業界がプロセスエコノミーに適さない致命的な理由があります。
厳しいことを言いますが、場当たり的に流行に迎合した、リスクを取らない商業主義の音楽や映画や漫画やアニメの制作現場で、ユーザーが興奮するような、ドラマチックな展開は起こりうるでしょうか?
そんな商売っ気丸出しのプロジェクトのメイキングなんて、一瞬売れたとしても継続性は薄く、すぐ飽きられるでしょうね。

また、伝統芸能や伝統工芸品などの、制作過程が固定化されているコンテンツのメイキングも、何か特殊なアクションを起こさない限りは、ドラマが起こりづらく非常に相性が悪いと思います。

とにかく、ストーリーがドラマティックでないと成り立ちません。

確実にプロセスエコノミーが成功するであろう既存のコンテンツ

結論からいって、teamLab(チームラボ)のプロセスエコノミーは、どう考えてもハネると思います。

いつも奇想天外な発想と最先端技術による表現で、どの展示会も大盛況のチームラボには既に多くのファンがいます。
そして、チームラボには猪子さんという激アツストーリー製造機の存在があります。
この2点があるので、チームラボは勝ちが確定しています。

猪子さんは作品制作に一切の妥協はしません。
会場設営が終わった最終チェック時でも、容赦なく修正を飛ばしていました。そして、それを実現する為にスタッフは徹夜で奔走します。
その過程は見ている人に興奮を与えることは間違いないですし、プロセスエコノミーを通して、その展示を観たいと思う人は更に増えると思います。

音楽ならゴールデンボンバーなんか行けるんじゃないでしょうか。
元号が発表されてから、速攻で歌を作ってYouTubeで発表する、みたいな、そういう動きはストーリーとして楽しそうです。

スポーツ選手も相性が良さそうです。
というか、この分野は先駆者が居ないので今すぐにでもやった方がいいくらいじゃないですかね。

いずれにしろ、成功するであろう人は挑戦者のマインドを持った人達です。

プロセスエコノミーによってもたらされる最大の利益

プロセスエコノミーでストーリーを商品化する流れは既に語りましたが、そのストーリーの共有によって得られる最大の利益はファンの獲得です。

単純にクリエーター活動をしていてもプロダクトの質が高ければファンは増えます。
ただし、そこで増えたファンは作品のファンがほとんどで、クリエーター自身のファンではありません。なので、前作がヒットしたからといって、新作が必ずしもヒットするとは限りません。

ただ、何十年も活動を続けている音楽アーティストの場合、ファンは曲を聴く前に楽曲を買うことを決めていますし、もしその曲がイマイチだったとしても、次の曲も買っちゃいますよね。

なぜでしょう?

それはそういったファンはそのアーティストと一緒に長い年月を共にし、一緒に成長をしているから、アーティストが物凄く身近な存在になっていて、もはや作品自体ではなくクリエーター自身のファンになっているからです。

プロセスエコノミーの場合、ユーザーと作品制作のストーリーを共有することで、短期間で圧倒的なファンを産み出すことは可能だと思います。
そしてそのファンはクリエーターを勝たせてあげたい一心で、時には無償で協力をしてくれるようになるでしょう。
そこまで来たら、ファンというよりもサポーターと言った方が適切かもしれませんね。

例えば、プロセスエコノミーを通して応援しているスポーツ選手が、厳しい練習の果てに、なんとか国内大会で好成績を収め、世界大会に出場する権利を得たとします。
ただ、遠征資金が足りない・・・
となった時に、クラウドファンディングを立ち上げたら、その姿勢を横で見ていたファンは当然のように支援してくれるでしょう。

熱烈なファンを獲得することが出来れば、ファンからの協力を元に、大手や他者が出来ないようなリスクの高い勝負に出て、業界を一気に席巻することも可能になると思います。

リスクの高い勝負はストーリー性を上げる意味でもプラスですし、失敗しても再挑戦のストーリーは描けます。

まあ、あくまで、めっちゃ頑張って全部が上手くいったらそうなる、という話でしかありませんが…

熱狂的ファンというリスク

ただ、熱狂的なファンを持つことでリスクが増える面もあります。
コミュニティの安定した管理です。

例えば、あなたのプロセスエコノミー施策が成功して、大量のファンを獲得した時に、その成果を妬んだ同業者から批判的な意見が飛び出した場合や、イベントの開催が何者かの手によって妨害された場合、その誰かに対して過激な行動をとるような暴徒化したファンが現れるかもしれません。
また、良かれと思って打ち出した施策が、一部のファンから批判を受けた場合に、批判を受けて施策を取り止めたら賛同者から批判されるでしょうし、強行した場合は熱狂的だったファンが強烈なアンチ化する可能性もあります。
どっちに行ってもマイナスが発生する場面で、どういった選択をするかということです。
この辺の話は、そうならないように上手くコントールするしかないのですが、この手のコントロールは経営者など多くの従業員を抱えた経験のある人など、ヒューマンマネジメントに長けた人以外には難しいかと思います。
ファンとの距離感が近い分、そういったトラブルも増えてきそうです。

AKBの握手会商法と同じジレンマです。

個人クリエーターが恩恵を受ける方法

プロセスエコノミーの考え方は大企業よりも個人クリエーターの方がコミットしやすいと思います。

個人クリエーターは何らかの大きな目標に向かって、頑張っている過程をユーザーに共有するだけでいいのですが、企業の場合は社内規定や守秘義務が邪魔したり、ユーザーとの距離感を間違えての炎上リスクなどもあって、なかなか導入しにくい方法論になりそうです。
そもそも挑戦は応援されますが、あからさまな商売は応援されませんし。

個人の場合、月額500円の課金ユーザーが500人いれば、月25万の収入が得られ、クリエイティブ活動の資金面での安定化は出来そうな気がします。(あえてプラットフォームへのマージンとか無視してます)
この数字はYouTubeやニコニコの有料チャンネル登録者数の前例から言っても、個人が集められる人数として、無謀な数値ではないと思います。

ただ注意が必要なのは、ストーリーを売るという性質上、安定はストーリーのマイナス要素でしかないので、安定化したところでユーザーは確実に離れるということです。
定期収入があるからゆっくり好きな作品作るぞ~となったら、応援する意欲も薄れますよね。
常にリスクに向かって挑戦しつづけて、その失敗もストーリーとしてユーザーに届けつづけなければ、継続的な運営は難しいでしょう。

これは並大抵の労力ではなく、誰でも出来ることではないと思います。

ストーリー性以外のコンテンツのキモ

魅力的なストーリーの提供以外に必要になるのが、ユーザーとの信頼関係の構築です。
ユーザーとの信頼関係の話をYouTuberを例に挙げて説明します。

他人の迷惑になることや視聴者から批判を受けることによって、再生回数を稼ぐ、炎上系と言われるYouTuberがいます。
この人達は常に他人から注目を集めるために炎上をしつづけていますが、その炎上スタイルをやめて普通の企画をやり始めた場合、よっぽどその企画が面白く新たなファン層を獲得しない限りは再生回数は激減し、途端に利益の確保は難しくなります。
炎上のような注目のされ方の場合は
再生回数は増えてもファンは増えないからです。

プロセスエコノミーの現場に置き換えます。

例えば、プロセスエコノミーを利用している漫画家が、「ストーリー」を盛り上げる為だけに、ワザと締め切り直前の原稿(ダミー)にインクをぶち撒ける演出を行ったとします。

遅れを挽回をするために徹夜作業(をするフリ)をして、
「何とか締め切り間に合ったぞー!!」というストーリーをでっち上げ、ほとんどのユーザーにはバレずに興奮を与え、話題にもなって集客に繋がったとします。
ヤラセです。

常にストーリーを盛り上げるというコストを考えたときに、バレない程度の演出や誇張は必要になってきそうな気配ですが、その行為を気づく人は絶対にいますし、こういった手の込んだ演出をやり過ぎると嘘臭さは増していき、何度となくドラマが起こっても「またどうせ仕込みだろ」と信頼関係を失っていきます。
どんなにうまくやったとしても、誰かには何となくバレます。

今のテレビがそんな感じですね。

そしてYouTubeもそんな感じになりつつあります。

というか注目を浴びる為に嘘や演出で集客を行うことはただ詐欺行為です。バレた時のリスクが大き過ぎるので、ファンとの信頼関係は正攻法で掴む以外ないように思います。

それには果てしない労力が必要です。

プロセスエコノミーが流行るのではないか、と言われている背景と今後

いまや老若男女が、YouTubeやTwitterやInstagramやTikTokなどのsns、そしてクックパッドのレシピや食べログやAmazonのレビューなんかも利用して、自分の考えや表現を世間に向けて発信を始めています。
そしてもっと上手に発信したがっています。

発信する過程で「自分の表現力をアップさせたい」「自分の考えを証明したい」「自分と憧れのクリエーターの違いは何なんだろう」など、
既に結果を出しているプロの手法やマインドに興味を持って来ていることがプロセスエコノミーが流行りそうな理由になるのではないでしょうか。

そして、この流れは間違いなく加速していくと思います。

私は、自分がいま携わっているプロジェクトにこのプロセスエコノミーの手法を適用しようと考えています。
過信かもしれませんが、多分まだ誰も試していない手法に思える上、先にやられちゃったら終わるやり方なので、ここでは書くことを控えますが、うまくいきそうだったら何らかの形で伝えようかと思います。

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