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スーパーのお兄さんの話

あれは、私がまだ保育園にいた頃だったように思える。当時、近所にあるスーパーのバイトのお兄さんが大好きだった。

スーパーで働いていたお兄さんは、DARSのチョコやクレヨンしんちゃんのチョコビを買いに来るだけの、大して関わりのなかった私をまるで自分の妹のように可愛がってくれた。「おみこちゃん、こんにちは!」と、手を振ってくれるお兄さんは、ジャニーズ事務所に所属しているようなイケメンだった。

私がお菓子を買いに通うたびに、お兄さんは私に話しかけてくれた。
普段は人見知りで、話しかけられても黙っていることしか出来なかった私も、この人とは自然と打ち解けていた。それくらい、お兄さんの話し方が優しかったのである。

たまにスーパーに行くと、お兄さんは私に鉛筆や当時好きだったスーパー戦隊のカード、時には花束までも、色々なものをくれた。 

こんな保育園のちびっ子に、毎日働いてレジをいじりながら接するのは、とても難しいことだと思う。私が中学の部活の現役だった頃、自分の練習やミーティングに参加しながら、後輩に教えることさえ難しかった。
今思うと非常に尊敬する。

小学校にあがると、あまりスーパーに通うことはなくなっていた。

小学二年生になったある日、私は久しぶりにスーパーに行った。レジにはいつも通りお兄さんが立っている。
しかし、会計を済ませたあと、彼は私にこう告げた。

「お兄さん、スーパー辞めるんだよね。新しいところに行くんだ。」
「やめる」という言葉が最初に頭に残って、それがどういう意味なのかよく分からなかった。
事実を告白したお兄さんの目から、何かが光って落ちたような気がした。
そして、私は別れる時が来たと気づいたのだ。

お兄さんとの別れを知った私は、家の庭からつんできたタンポポの花と、下手くそな絵をつけた手紙を渡した。お兄さんは「ありがとう。」と喜んでいた。

思えば、これが私の初恋だった。

世の中には、タチの悪い大人も沢山いる。そういう大人が子供の手本となってしまい、その子供が大人になっても、また同じことが繰り返される。そんなことにならないように、子供の手本になるということを、大人は自覚していかなければならない。
また、私もそのことを自覚しながら、お兄さんに優しくされたぶん、私も誰かに優しくしていきたいと思う。

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