見出し画像

大学1年生の時のバイトの話

初めてのバイトの辞め方はひどかった。僕のバイト辞め方史上最も卑劣で陰湿だった。

大学に入学して数ヶ月経ったころ、周りの友達がちらほらとバイトを始めた。僕は親から十分な額の仕送りをしてもらっていてバイトをする必要はないと感じていたしするつもりもなかった。しかし、何やら「ヒモ」や「ニート」みたいな言われようをするので、少々腑に落ちないながらも求人サイトで適当にバイト先を探し、大学近くの回転寿司チェーン店を見つけた。適当に面接を終え、大学一年生の僕は晴れて「軍艦担当」としてバイトデビューしたのだった。

しかし、1ヶ月後に辞めた。

しかもその辞め方がひどい。7月下旬から8月下旬まで働いたのだが、9月からは自動車免許を取るために地元に帰って車校に通いたいと考えていたのだ。9月のシフトが決められる前に、シフト希望に9月はシフトに入れない旨を記入し、地元へと帰った。

9月1日、店長から電話があった。

「今どこ?今日シフト入ってるけど…」

どういうことか分からなかったが、話を聞いていくと9月のシフト希望は9月のシートに記入する必要があったが、自分が記入していたのは8月のシートだった。なるほど…と思ったが、今から出勤することはできない。とりあえずその日は出られないことを告げて謝り、ついでに「バイト辞めることにしました」と伝えた。理由は、実家の母親が亡くなり、大学も辞めることになったから。もちろんすべて嘘だ。とにかく今すぐに確実に辞めたかった。店長は一応心配するような言葉をくれたが、嘘であることは見抜いていたと思う。店長は呆れたような声で「じゃあ辞めていいけど、制服と靴返して」と言って電話を切った。突如辞めた理由は二つ。一つは、

人間関係がなかったから

大学に入ってバイトする気はなかったものの、いざするとなるとそれなりの憧れを抱く。バイト仲間とバイト終わりに安い牛丼を食べたり、憧れの先輩に淡すぎる恋心を抱いたり。なんかそういうのを想像してたが、実際は違った。

僕が任された軍艦担当は基本的に定位置から動かず、他の人との会話もない。ただ画面に表示される通りに軍艦を製造するのみだった。上がり時間も人と被らないし、被ったとしても特に会話はない。たまに話しかけてくれるおっさんがいたが、フリーターを極めたキツめのノリに終始引いていた。妄想していたような楽しい人間関係はなかった。

もう一つは、

人間的・文化的な仕事じゃなかったから

さっきも少し書いたが、業務内容は画面通りに軍艦を製造することと皿を洗うこと在庫を補充することだった。軍艦製造も皿洗いもずっと中腰で身体的にもキツかったし、薄暗い厨房の中で何時間も同じ作業の繰り返しで何の楽しさも感じなかった。在庫補充は数秒ではあるが自由に歩行できるので楽しかった。

人間がやる仕事ではないと思ったし、やりがいや誇らしさも微塵も感じなかった。もっと自由度のある物を作ったりする仕事や接客業務なら楽しかったかもしれないが、メニュー通りに軍艦を製造するだけの業務は自分はやりたくなかった。


—-

以上の理由からバイトを辞めた。辞め方はひどかったが、後悔は全くしてない。辞めてよかったと思っているし、その後もっと楽しいバイトを始めることができた。ただ今、当時の自分を振り返ってみると思うところがある。

お金を稼ぐ大変さが分かっていない

時給800円とかだったと思うが、辛い労働の末、お金を得ることができていてそれなりに嬉しかった。あんだけ辛い時間が800円にしかならないのか?と当時からひっかかっていた。厳密には、給与の低さに不満があるわけではなく、さっきから書いてるとおりもっと生産的で人間的な時間の使い方をしたかった。もしかしたら何もできない学生を拘束するのは800円くらいでも高いくらいなのかもしれないが、僕はそんな辛い時間を1秒でも作りたくなかった。2〜3倍のお金をもらえたとしても嫌だった。

きっと、お金の大切さが分かってないのだと思うのだ。

他のことでもそうなのだ。同級生がなんで「お金が欲しい」とか「お金が足りない」とか言ってるか分からなかった。遊ぶためとかなら分かるが、 バイトしないと生活していけない、みたいな人のことを事情は理解できても実感として理解できなかった。

社会人になってからもみんながなんのために「成長したい」と言っているのか分からないし、「仕事はつらいが辞めたら生活できない。生きるために働かないといけない」というのを理解できない。もちろん冷静に考えるとそれはそうなのだが、心のどこかで「なんとかなるんじゃね?」と思っている自分がいて、なんか社会を舐めてしまってるなーと思う。

まずいと思ってはいるものの、頭で考えたり人から言われてもそういう価値観はなかなか変わらない。お金を稼ぐことの大変さとか、働くことの尊さとか、分かってない人って多いんじゃないかな。

働き、お金を稼ぐ者としては、その価値を実感として知りたいと思うのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?