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山を下る

この物語を、木々を愛する友に捧ぐ。



タッタッタッタッタ…
私はうすぐらい山道を駆け下りている。
右手はハイマツと、背の高い針葉樹の根で覆われた斜面だ。
シャクナゲはもう枯れている。
左手は急な斜面。足は踏み外せない。
さっきまでは雲の上にいた、私の足で、日常に帰る。

タッタッタッタッタ…ぴたっ
眠気で足を止める。
「はあっはあっはあっ」
左手を見ると、森の向こうに山がある。

森はきれいだ。限りなく、向こうの山まで広がっている。
「あんなに斜めなところに、まっすぐ生えている」
暗い足元とは対照的に、斜面の向こうの木々は日の光に照らされてまぶしい。
チカチカチカッ…

下から風が吹き上げる。
ウウウウウ、ドウ。私にぶつかって
戻っていく風に揺られてサワサワと、数数の葉が、手を招くように
「こっちは暖かいよ」「明るいよ」と言っている。

私はそれをっと眺めている。
やがて葉は一つの大きな手になって、いよいよ私を歓迎しようとする。
そのあまりの魅力と美しさに、見入ってしまって
がけ下から私の足を引こうとする人の影にきがつかなかった。
「わっ!!!!」
危ないっ!!!と思ったその瞬間、私の前に一人の女が立ちはだかった。

「われらはまだ森には還らぬ!聞こえたか!」

『どうしてだ?さきまでこちらに来たそうにしていたではないか』

「いつかは、われらもあなたのもとへ還ろう。しかしそれは今ではない!」

『答えになっていないな、ほらおいで』

「逃げよう!走って!」

風に運ばれる木々に追われながら、山を駆け下った。
私はもう一人だ。

次に山に行くときには、意味を見つけてから登ろう。そして下ろう。
最後に山に行くときは、意味を見つけてから登ろう。


2024年5月13日 農園寮の椅子にて
PS:絵にしたいんだけどね~、頭の中にはあるんだけどね~

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