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2 STEP SOUL 19:AOR編

 以前ボビー・コールドウェルやバーブラ・ストライサンドのアルバムを紹介しましたが、ツー・ステップの曲を調べていると意外なほど目に入るのが日本では「AOR」にカテゴライズされている曲。アメリカのソウル・ミュージックをベースにしている点、ソフト&メロウな感触が重視されている点などはラヴァーズ・ロックに相通ずるものがあるのかもしれません。
 実際には、AORばかりかかるツー・ステップのパーティがあったわけではなく、ソウル系の曲が中心の中にサラリと織り交ぜられる程度だったのだろうと思いますが、日本での「クリスタルな」消費のされ方と比べるとだいぶイメージが違って面白いです。


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ルパート・ホームズ"Partners In Crime"(1979)
2ステップの曲:"Escape (The Pina Colada Song)"

'60年代からカフ・リンクス他でライターとして活躍、'70年代半ばにバーブラ・ストライサンドに認められて以降はメジャー畑での仕事も増え、本作で本格的にブレイクしたシンガー=ソングライター。ユニークな歌詞でも知られる"Escape"は循環するリズム・トラックがステッパーの嗜好にもピッタリで、当時のイギリスではブートの12インチまでリリースされる人気だった。


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プレイヤー"Player"(1977)
2ステップの曲:"Baby Come Back"

 リバプール出身のピーター・ベケットがスティーヴ・キプナーやマイケル・ロイド等との活動を経て、テキサス出身のJ.C.クロウリーらと結成したグループ。"Baby Come Back"は今聴くとほとんど歌謡曲的にも思えるブルー・アイド・ソウルだが、このベタな感触こそがステッパーにもウケたのであろうことは想像に難くない。


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ボズ・スキャッグス"Down Two Then Left"(1977)
2ステップの曲:"A Clue"

 「シルク・ディグリーズ」と「ミドル・マン」というヒット作に挟まれたアルバムだが、マイケル・オマーティアンがアレンジ、TOTOの面々にレイ・パーカーやジェイ・グレイドン等も加わった演奏陣という今作もクオリティ高い。"A Clue"はイントロから繰り返されるリズム・ギターのリフが印象的な、リラックスしたナンバー。


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ジミー・メッシーナ"Oasis"(1979)
2ステップの曲:"Love Is Here"

 バッファロー・スプリングフィールド~ポコ~ロギンス&メッシーナとアメリカン・ロックの王道を歩んできたギタリスト/シンガー。本作はロギンス&メッシーナ解散後3年を経て発表された初のソロ・アルバム。ラテン風味を効果的に取り入れ、ジャケ写のイメージ通りの夏全開なアルバムに仕上がっている。"Love Is Here"はオムニバス"Soul Souvenir"にも収録されていました。


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ビル・ラバウンティ"Bill LaBounty"(1982)
2ステップの曲:"Look Who's Lonely Now"

ファット・チャンスというグループでの活動を経て、'70年代半ばからソロで活動するシンガー=ソングライター。4枚めになる今作では、名匠ラス・タイトルマンのプロデュースを得て参加ミュージシャンも豪華に、本人の曲作りも冴えて文句なしの名作になっている。日本では冒頭の"Livin' It Up"の人気が高いが、ステッパーに好まれたのは"Look Who's Lonely Now"。ランディ・クロフォードも取りあげた。


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ヴァレリー・カーター"Wild Child"(1979)
2ステップの曲:"Trying To Get To You"

 元ハウディ・ムーン、ウェスト・コースト・ロック界のアイドル的存在だった女性シンガー。ジェフ・ポーカロが全曲でドラムを叩いているのをはじめ、AOR的には文句ないメンツがバックを固めているのだが、音はやや地味に感じるのはプロデュースのジェイムズ・ニュートン・ハワードがブレーキをかけているのか… "Trying To Get To You"はシャイ・ライツのユージン・レコードのソロ・アルバムの曲を取り上げたもの。


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ケニー・ランキン"The Kenny Rankin Album"(1977)
2ステップの曲:"Groovin'"

 ジャズやボサ・ノヴァを無理なく取り入れた洒脱な音作り、柔らかなヴォーカルでマイゲル・フランクスと並び称されるシンガー。今作はフランク・シナトラ等の仕事で知られるドン・コスタをアレンジャーに迎え、60人編成のストリングスとのスタジオ・ライヴ形式で録音されたもの。AORの枠にとらわれない気品と洗練を感じさせる内容で、ラスカルズの"Groovin'"もひと味違う小粋な仕上がりに。


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スティーリー・ダン"Aja"(1977)
2ステップの曲:"Black Cow"

 AOR云々を抜きにしても緻密で完成度の高い音作りが今も高く評価される名作。個人的にも十代の頃からの愛聴盤なので今さら2ステップと言われてもピンと来ないのですが、"Black Cow"が該当曲とのこと。たしかにミディアム・テンポ、ベース・ライン先行の曲ではある…


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ヒート"Heat"(1980)
2ステップの曲:"Whatever It Is"

 '70年代半ばにメリサ・マンチェスターのアルバムを手掛けて注目されたLAのサックス奏者/アレンジャーのトム・サヴィアーノを中心にしたグループ。アレンジャーらしく、ブラスのアンサンブルがキマったAOR寄りのE,W&Fとでも言えそうなファンキーかつメロウな音。"Whatever It Is"は夕暮れ時のドライブに似合いそうなゆったり盛り上がるナンバー。


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レスリー・スミス"Heartache"(1982)
2ステップの曲:"It's Something"

 '70年代に白黒混成バンド、クラッキンのメンバーとして活動していたシンガー。プロデュースもクラッキン時代からの盟友ピーター・バネッタ&リック・チューダコフで、(黒人なのに)ブルー・アイド・ソウル的な柔らかな音作りが心地よい。様々なライターの作品から選ばれた曲のチョイスの良さも魅力的。


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ブレンダ・ラッセル"Brenda Russell"(1979)
2ステップの曲:"In The Thick Of It"

 夫婦デュオのブライアン&ブレンダ・ラッセルとして活動した後ソロに転向したNY出身のシンガー=ソングライター。日本ではAOR純度を増した次作"Love Life"の人気が高いようだが、ピアノ弾き語りの女性シンガーに黒っぽさをにじませたような今作の奥ゆかしい感触も捨てがたい。


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デイヴ・ヴァレンティン"In Love's Time"(1982)
2ステップの曲:"In Love's Time"

 デイヴ・グルーシン&ラリー・ローゼンのお気に入りだったラテン・ジャズ系フルート奏者。アルバムA面の曲は全てヴォーカル入りで、完全にアーバン/R&B系の市場を意識した作り。"In Love's Time"はパート17で取り上げたデレゲイションのカヴァー(ケン・ゴールド&ミッキー・デン作)だが、マーカス・ミラーやジェフ・ミロノフ等の名人を揃えた演奏の高度さ、アーバン感はオリジナルを上回る。



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ジョン・ギブソン"Standing On The One"(1983)
2ステップの曲:"t`s True"

 サンフランシスコ出身で現在も活動するCCM系シンガー。ソーラー・レーベル周辺で活躍したプロデューサーのビル・ウルファーのお気に入りでもあり、ビルのアルバムでもスティーヴィ・ワンダーそっくりのヴォーカルを披露している。ファースト・ソロになる今作は、打ち込みリズムに典型的エイティーズ・ポップ・ロック的なアレンジを乗せた「フットルース」的な世界で正直ダサいが、例外的に"It's True"だけはビルの色が出た?スティーヴィ+カリビアンなアレンジにウキウキする。



 この他にポップス/ロック系でツー・ステップの曲としてプレイされていた?とされるのがソウル・サヴァイヴァースの"City Of Brotherly Love"、スタイル・カウンシルの"Long Hot Summer"、シェリル・ラッド(!)の"Skinnydippin'"など。

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ギャンブル=ハフがプロデュースしているフィリー・ソウル・マナーのソウル・サヴァイヴァースはわかるけど、日本でもポビュラーすぎるスタカンや女優さんの余技の印象しかないシェリル・ラッド(曲はラモナ・ブルックスのカヴァーらしいですが)はキビしいですね…どちらもミディアム・テンポのソウルっぽい曲ではありますが…シェリルさんのアルバムは持ってもいないけど「見かけたら買う」リストにはには入れておきます。

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