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アルバイト

 2週間程前にアルバイトを始めた。塾での事務と派遣の仕事だ。私が初めてアルバイトをしたのは大学に入ってからで、入学から今まではほとんど塾講師しかやってこなかった。そのほかはふた月ほどの個人経営のカフェ店員と1日だけのオープンキャンパスのスタッフである。

 夏休み明けからほとんどバイトをしなかったにもかかわらずなぜ新しいバイトを始めたかというと、卒業旅行の手続きが進むにつれお金に余裕が全然ないということに実感がわいてきたからである。実はスイス・ドイツの他にもうひとつ海外旅行をすることになったのだ。

 もう何か月かを主にお世話になりそうなのは派遣のバイトだ。社員さんと接客のような仕事をするのだが、やはりプロはすごいなあと思う。私は「声量だいじょぶかな……、怖い顔になってないかな」というようなことを考えがちだ。社員さんが何を考えながら働いているかはわからないが、とにかく私とは接客態度が全く違う。第一に社員さんはおしゃべりが多い。そして何と表現したらよいかいまひとつ自信がないが、まるで社員さんは家に声の大きさと笑顔(気が向いたときにバリバリ作っている)がストックしてあって、出勤前にそれをどっさり背中に抱えてさらに両手に持って、現場でお客さんに向かってそれーと投げつけているかのようだ。私ときたら「本日最終日となっておりまーす! 」とか「この機会にぜひご利用くださーい! 」とかを20回に一度くらい噛んでしまう。自信や元気は家から持ってくるものなのだということを学んだ。

 それにしても世界は優しさに溢れている。仕事を教えるとき社員さんは誰一人例外なくあくまでさりげない雰囲気のなかで指導してくれる。そういうところにも敬服している。一方めったにいないが嫌味を言ったり捨て台詞を吐いたりするようなお客さんに出会ったときには想像以上に疲弊したり動揺したりした。世界は年に3日くらいを除いて優しさに溢れている。

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