「人類最初の殺人」著:上田未来

久しぶりに本でも読もうかと思って、本棚の一番下に並べた小説の中から社会人前最後の春休みに買ってそのままだった「人類最初の殺人」という本を買った。長いこと本棚で眠らせてしまった。

これがなかなか面白かった。この本は「人類最初の殺人」「人類最初の詐欺」「人類最初の盗聴」「人類最初の誘拐」「人類最初の密室殺人」の5つの内容で構成されていた。

ミステリーの原点が詰まったようなラインナップだが、私は「人類最初の殺人」「人類最初の誘拐」「人類最初の密室殺人」の3つが特に気に入った。

この本はラジオの台本のような書き方をされていて、犯罪学者の鵜飼という人物が私達を「人類の最初」に連れて行ってくれる。

「人類最初の殺人」は、旧石器時代にまで時代が遡った。言葉を発する能力がすでにある時代だったが、複雑な感情や物事を相手に伝えられるほど発達しておらず、発した言葉の意味が間違った意味で仲間に伝わってしまい、仲間に殺されてしまう、というような話だった。

「人類最初の誘拐」は、身寄りのないエジプトの子供たちが、地位の高い男を誘拐して財宝と引き換えにするという話だった。子供たちに親がいないのには、すでに戦いによって亡くなったり、捨てられたり、それぞれ様々な理由があった。無事誘拐に成功するが、男は「赤ちゃん返り」の症状を発症してしまう。子供たちは時間がたつにつれ男に対し仲間意識を持っていくが、そんな中突然、誘拐してきた男と、その息子が再会を果たす。
正気に戻った男は、「砂漠の神が守ってくれた」と、息子が持っていた財宝をすべてその場に置かせ、息子とともに街へ帰っていった。両親との再会を切に願い、そして男へ情を抱いた子供たちは声をあげて泣いた。帰路についた男も、その泣き声が風に乗って聞こえてきたとき、涙を流していた。
この子供たちは、エジプトに伝わる神の名前を名乗っていた。男は息子に聞かれても子供たちの名(神の名)は教えなかった。エジプトにある「神のいない神殿」は、この話がきっかけで建設されたものと考えられているらしい。

「人類最初の密室殺人」は、邪馬台国前の日本で起こっていた。ヒミコが王になるきっかけの話だ。「罪人には山の神が裁きを下してくれる」と言い伝えられていたが、それは当時の王の横暴な策略によるものだった。当時化粧師として働いていたヒミコは、幼い頃、この「山の神」による裁きで父親を亡くし、家族だからと母と妹も殺された。ヒミコはすでに化粧師として名を挙げていたから、当時の王はヒミコを容姿として引き取り、命だけは助かった。その過去を抱え、ヒミコは「山のお裁き」の真実をつかむために立ち上がる。「山のお裁き」は洞窟で行われる。罪人ひとり取り残して、人間は洞窟を出る。ある程度時間がたった後、洞窟では罪人が必ず亡くなっていた。ヒミコは自らその洞窟の中に入ってトリックを暴こうとするが、あと少しのところで当時の王に見つかり、罪人とともに洞窟に閉じ込められてしまう。
なんとか洞窟の中から抜け、仕掛けがあることを皆に伝えた。洞窟には水がたまるようになっており、浮いた先には何本もの鉄針がある。死因は溺死だが、鉄針で体に派手な傷がつくため、皆は「山の神」を信じたのだ。その水は普段田畑に流すための滝の水だが、切り替えれば洞窟に流すことも可能。「山のお裁き」をする時は、村中の民を集めることが決まりだった。
その身をもってして王の陰謀を暴いたヒミコは、この事件がきっかけで王に君臨することとなる。この後、ヒミコの国は「邪馬台国」と呼ばれるようになる。

なかなかショッキングな内容だったが、読みごたえがあり、それぞれの話を読んだあとは興奮が収まらなかった。小説によるホラーは、巧みな言葉選びと、読者の想像力があわさって完成するものだと思う。「不気味な笑み」と言われて、各々想像する笑顔が全然違うであろうことがわかるように、この話を基盤として、自分の中で自分だけの情景が完成していくのが気持ちよかった。

また、ナレーターの話の進め方も素晴らしいのだが、コメンテーター(ラジオのMC)のコメントもなかなか光っていた。毎回ラジオとしての登場人物は変わらないのだが、毎回楽しそうに、その回に合わせたコメントを残してくれている。話が始まる前は、鵜飼の小話を挟んでくれたりと、リラックスした空気を作るための気遣いが感じられた。鵜飼個人の情報に対して雑なコメントを残して本題に入るので、若干ツッコミどころはあった。

最初は表紙のインパクトにつられて購入したが、読み進めるのが楽しくて、2日もかからず完読した。もう一度読み直そうと思う。

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