何を話したのかはもう覚えていないけれど【カオサントーキョーとパラドクソン】

彼の名前は、Lukasといった。

ドイツの人で、詩人を目指して学校に通っていると言った。

別れ際に書いてもらった一言には、わたしと同じく、虫食いの修正がたくさんあった。単語を綴っていると、次のスペリングから頭が飛んで、二つか三つ先のスペリングを書いてしまうことが、良くあるのだ。

彼は彼の方法で、世界を写し取ろうとしていた。
私も私の方法で、世界を写し取れるのではないかと模索していた。
同志の匂いがした。

花曇りの空を磨りガラスから望むカオサントーキョーのリビングで、お互い第二言語の英語を通して、それが共有された感じがして心が踊った。

別れ際にパチンコ屋さんで撮ったセルフィのポラロイド写真をくれたのだけれど、それが後ろのパチンコの台にフォーカスをしていて、中央に映っているのは確かに彼なのに、そのパチンコのカラフルさに焦点が行っていて、しかし彼はしっかりとこちら側を見つめている様が、いかにも彼らしくて好きだ。

この世界を、彼は彼の手応えで楽しんでいる。

この世界を、私も、楽しもうとするのだが、いつも半信半疑だから、写真もvulnerable な感じに映るから、のびのびとしている彼が羨ましくもあり、尊敬の念と、安心感(こういう風に、生きうるのか、という)を抱いた。


ポラロイドの裏に、e-mail アドレスを手書きしてくれたのだけれど、くだんのスペルミス天国を生きている私と同じ彼だから、アドレスが合っていないのだろう。いくら送ってもエラーになってしまって、それから連絡は取れていない。

彼はパラドクソンという名前を付けて、トカゲかカエルを飼っていた。いや、カメだったかな。そう、カメのパラドクソン。爬虫類は松果体でこの世を見るのだ。


彼は詩人になれただろうか。


わたしは旅に出る必要がある。みたいだな。


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