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鳴海寿莉亜×福島裕二 写真展(再訪)

まだ何かあるような気がして再訪。

何かを見落としたような焦燥感ではなく、行けばまだ何か見つかるような期待感に衝き動かされる。

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1988年に建った物件らしく、30年物ではあるが、造りはしっかりしている。
前に入っていたテナントの調度や内装を取り払い、最低限の改装で済ませているのが面白い。
内装を剥がしてコンクリート打ちっぱなしになっていても、写真を展示するのに支障は無い。
天井が無ければ、照明の高さや当てる角度の自由度も大きくなる。
そもそも施工費の初期投資も、引き払う時の撤去費用も減らせる。

居抜きだったと思われる恵比寿、ビンテージマンションを改装した神宮前と比べると、青山は一から作ったことが伺える。

照明の高さや角度を見ていたら、作品ではなく、明後日の方向を向いているライトが幾つかある。
何の為なのか観察してみると、一旦床に当てて反射させて、下からの光を回していた。
実に良く考えられていて、どの作品も眩しくて見づらい角度が無い。

展示は壁面に限り、場内中央に図録や関連出版物を置いたテーブル。
端の方に来場者の荷物置き用の長机と、外套用のハンガーラック、打ち合わせにも使えるソファが一組。
被写体在廊日で混みあったとしても、動線が確保しやすい配置。

展示している写真そのものは良くても、配置や照明について考え抜かれていない写真展もまだまだ多いが、写真展で写真をどう見せるかについても参考になると思う。


写真そのものを見る。

印象的に手を切り取ったカットがあったので、もっと多いと思っていたが、手を写したものは意外に少ない。
袖口の中に隠れていたり、そもそも肘から先が写っていなかったり、アウトフォーカスだったり。
写っているカットをつぶさに見ると、握り込む方向にも伸ばす方向にも力を入れていないが、その自然な状態での力の抜き方が一定で、ニュアンスが付かない。
「粗」と言う程でもなく、限られた時間の中で表情や佇まいで見せた方が良いと判断したのかもしれない。

SNSに自分で撮った写真をアップロードすることで付く悪癖として、決め顔への固執やカメラに対して正面を切れなくなることがあるが、SNSに上げた写真を浚って見たところ、右手前でも左手前でも正面でも撮っており、鳴海寿莉亜に関してはさほど変な癖は付いていないように見受けられる。

ただ、福島が取ると、撮られる時の癖のようなものは出ていて、顔の右を引いて左を前に出すような傾向がある。
光が強く当たった時に下瞼が上がるのだけれど、右眼に於いてそれが顕著になるから、バランスを取ろうとする心理が働くのかもしれない。


都内と思しきスタジオで撮影された部分。
表情や仕草の硬さからカメラテストを兼ねての撮影だと思われ、そこで何を撮っているか観察してみた。

光を強く、また弱く当て、時に背負わせる。
口角を上げたり、下げたり、表情そのものを緩めたり。
手で何かを掴ませたり、添えさせたり、身体を支えさせたり。

光に対しては敏感で、強く当てると下瞼が上がり、右眼に於いてそれが顕著。
見開いた時と少し細めた時で、与える印象や見た目の年齢が異なる。

表情を緩めると、唇が閉じ切らず、少し開いている。
笑顔になって口角が上がると、上唇が上がって上の歯が覗く。
引き結ぶと薄くなり、緩めると厚く肉感が出る。

力を抜いた手は、軽く握り込んだ状態ですべての指が等しく内側に。
何かを持ったり支えたりすると、そちらに意識が行く。
爪は整えられているが過度の装飾は無く、どんな衣装にも合わせられる。

被写体にどんな癖、どんな美点(また欠点)があって、どうすればそれを生かせるかを計っている。
そこで収集した情報は、本番の撮影でのロケーション、構図、ポーズ指示などに生かされる。


福島の技術を、写真から読み取って盗むのはプロでも至難であるが、カメラテストで何をしているかについては、アマチュアでも参考に出来ると思う。

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(2021.01.11 記)

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