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季節料理 ふくや

趣味道楽方面の知己が料理人をやっている事迄は知っていたが、やっているお店が意外に近かったのと、丁度食べたい種類のものを出すお店だったので足を運んでみた。
ランチも評判のようだったが、腰を据えて飲みたい気分だったので夕方からゆるゆると。

「季節料理 ふくや」は、西日暮里の駅前、道灌山の切通しを西に行って不忍通りに突き当たったところにある。
最寄り駅は西日暮里か千駄木、バス停としては道灌山下(上58系統 早稲田 - 上野松坂屋、草63系統 池袋駅東口 - 浅草寿町)。

通りから中が見えるので入りやすい。入り口と奥にテーブル席、その間にカウンター。

カウンターの中に板場がある。
刺身などはこちらで、天ぷらなどは奥にある別の調理場で。

飲み慣れた上喜元と、刺身盛り合わせ、天ぷらもりあわせを。
すぐ出る系を聞いたら水茄子を勧められたのでそちらも。

こうした店では、きちんとしたお通しが出て来るのを忘れていた。
熱々の茶わん蒸しと、冷菜二た品。

先ずは温かいものから。 奇を衒わないオーソドックスな茶わん蒸し。 これが良い。
冷菜は鱧の皮と夏野菜の寒天寄せ、小指ほどの胡瓜を斜めに切ったものに味噌を添えたもの。

寒天寄せは歯を立てるとほろりと崩れ、オクラの香りが口の中に拡がり、次いで鱧の皮のむっちりした食感。 頬が緩む。
胡瓜は耳にも伝わるパリッとした歯ごたえから、弾けるように爽やかな味と香りが口中に広がり、鼻の奥に抜けて行く。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、五感で堪能する「夏」
お通しだけでお銚子の半分ほどを消費。

水茄子の浅漬けは縦に半裁した茗荷が添えてある。
「水」茄子と言うだけの事はあり、茄子の旨味がとめどなく染み出して来る。
茗荷はピリリと辛く、香りも鮮烈。

刺身盛り合わせは、それぞれ一と手間二た手間掛けたものが並ぶ。
赤身、白身、青魚、鱧の落とし。 目にも福が来る。
箸をつけたところで天ぷらがやって来たので、こちらを優先。

鎮座まします二本の海老天の手前には、南瓜、茄子、ピーマン、舞茸、薩摩芋。
薄く切られた薩摩芋に歯を立てて驚く(この日は何度驚いたか分からない)。
天ぷらは揚げ料理ではなく蒸し料理だと言った人が居たが、衣の内側で蒸された薩摩芋の香りが、蒸気となって口の中から鼻の奥へ駆け抜けて行く。
茄子でもピーマンでも舞茸でも、同様に「夏」と言う季節が香りとなって立ち上る。
魚介の添え物ではなく、野菜が前面に出された盛り方を食べて納得。

お通し然り、水茄子然り、天ぷら然り、野菜を通して季節が重層的多面的に五感を喜ばせる。
まさに「季節料理」。

さて、刺身盛り合わせ。
本日のお勧めに載っていた鮪の脳天、鰹、〆鯖。
「好みに合ったものを、どれかひとつ、単品でも頼もう」と思っていたのだけれど、〆鯖の締め加減が好みだったので、こちらを単品で追加。

塩強め、酢弱め、適度に水分が抜けて旨味が凝縮されている。
醤油無し、山葵だけでウマい。
ザマみやがれ、という気分でお酒も追加。 千葉の物だったと思うが、舞い上がっていて銘柄は失念。

これくらいあれば足は出ないだろうと思いつつ、興が乗って散財したい気分になった時を考えて軍資金を補給してから出向いたが、予感が当たって想定していた額は少し超えた。
それでもきちんとしたお通しと料理4品、良いお酒二合で六千円少々。
対価としては寧ろ安い。

良い店だった。
ひとにも勧められるし、一人でもぶらりとまた来たい。

(2023.08.16 記)

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