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SFショート

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黄瀬が書いた、空想科学のショートストーリー
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#月

クロワッサン

「やっぱ月がないと、しまんないよねー」  窓のサンに身を乗り出して夜空を見上げていた君が云った。 「ほら、みかづき。見てよ」  君は頭をもたげて、わたしにうながす。  晴天の夜八時すぎの空には、鈍重な青が重なりあっていて平坦としていたが、  西の山あい、もう沈みそうにかたむく三日月が見えた。 「あそこだけ幕が破れたみたい」  たしかに空に切れ込んだ金色の弧線は、  幕の裏の光が漏れ出るようだった。  風がふきすさんだ、一瞬。  となりの君の髪がまとわりつい