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「随分痩せたね」 そう云われるまで、気がつかなかった。 体重が、ない。 体重計は、針を揺らさない。 いや、デジタルなので、針も何もないディスプレイだけれど、 表示される数字は、揺らぐこともなく微動だにしない。 困った。 不思議と苦しさはない、それが当然のように。 軽いわけでもない。自分の体重の感覚なんて感じたこともなかったから、わからない。 はたと思いついて、実験してみた。 500mlのペットボトルに水を入れて、再び体重計に舞い戻る。
先祖代々受け継がれてきたギターは、 今はなき、フェンダー社の製品だ。 テレキャスターと呼ばれたボディ。 ヘッド部のロゴは掠れて消えている。 百年の間に、幾度とない改造が施され、 もう、原型を留めていない。 でも、木製のボディ材は、一切変わっていない。 その当時の音質を保存して、受け継ぐために、 引き継いできた誰もが、ボディとネック、指板、そしてヘッドには、 手をつけなかった。 今日も、わたしは、その古臭い音を、奏で続けている。 バ
電話が鳴ったので、反射的に受話器をとった。 そこには男の声があった。 「おまえの、PCを預かった。ハードディスクを返して欲しくば、二丁目の橋の上まで来い」 「え、ハードディスクしか返してくれないんですか」 「それで十分ではないか」 「まあ……なくなるよりは返ってきたほうがいいですけど……」 「よし、では半時間後に集合だ」 そう云って電話は一方的に切られた。 そういえば――身代金とか、そう云った類のものを一切要求されなかったが、さてはて、どういう了見なの