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SFショート

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黄瀬が書いた、空想科学のショートストーリー
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2020年10月の記事一覧

変身

「随分痩せたね」  そう云われるまで、気がつかなかった。  体重が、ない。  体重計は、針を揺らさない。  いや、デジタルなので、針も何もないディスプレイだけれど、  表示される数字は、揺らぐこともなく微動だにしない。  困った。  不思議と苦しさはない、それが当然のように。  軽いわけでもない。自分の体重の感覚なんて感じたこともなかったから、わからない。  はたと思いついて、実験してみた。  500mlのペットボトルに水を入れて、再び体重計に舞い戻る。

ヴィンテージ

 先祖代々受け継がれてきたギターは、  今はなき、フェンダー社の製品だ。  テレキャスターと呼ばれたボディ。  ヘッド部のロゴは掠れて消えている。  百年の間に、幾度とない改造が施され、  もう、原型を留めていない。  でも、木製のボディ材は、一切変わっていない。  その当時の音質を保存して、受け継ぐために、  引き継いできた誰もが、ボディとネック、指板、そしてヘッドには、  手をつけなかった。  今日も、わたしは、その古臭い音を、奏で続けている。  バ

記憶媒体

 電話が鳴ったので、反射的に受話器をとった。  そこには男の声があった。 「おまえの、PCを預かった。ハードディスクを返して欲しくば、二丁目の橋の上まで来い」 「え、ハードディスクしか返してくれないんですか」 「それで十分ではないか」 「まあ……なくなるよりは返ってきたほうがいいですけど……」 「よし、では半時間後に集合だ」  そう云って電話は一方的に切られた。  そういえば――身代金とか、そう云った類のものを一切要求されなかったが、さてはて、どういう了見なの