パスタ鎮魂歌

大学三年の秋。就活。ゼミ。バイト。頭の中はとっちらかっている。ひとつひとつ取り出して、考えればいいのに、そいつらは一個引っ張り出すと伸びきって絡まったパスタみたいに全部出てくる。口の中にはいりきらないから、かみちぎるしかなくて、結局中途半端。「だったら、パスタが伸びきって絡まってしまう前に、ひとつひとつ解決すれないいじゃない。」、ともう一人のワタシが言う。それができたら苦労しないってば。

「趣味は何ですか」と聞かないでほしい。
「趣味……漫画も好きだし、映画も観ます。音楽も聴きますね、あ、あと小説もよみます。」
つまらない。つまらないよね。
「コマというルールがありながら、私たちを別世界に連れていってくれる漫画家の表現力には魅了され続けています。逆に映画は、カメラワーク・音楽・演技、それらすべてを使って、私の五感を全力で震わせにくる。日常にスパイスをくれるような気がします。小説は漫画・映画とは対照的に、世界に画がないから私の想像で補う部分が多くて好き。自由で苦しくて、豊かな気持ちになれます。あと、音楽は、私の生活を彩ってくれるから好き。電車に揺られながら、窓の外を眺めて、好きな音楽を聴くだけでまるでMVの主人公になったような気がして、気持ちいいんです。」
全部本当、だけどつまらない。
「漫画家や、映画監督、脚本家、小説家、音楽家が、だれかの作品に影響をうけて、自分の中で「好き」を育てて作品に表現して、それがまた誰かの心に「好き」の種を、撒いていることがコンテンツ事業の大きな魅力だと思うんです、そういう「好き」の連鎖が永遠に止まらないでほしいし、私はその連鎖がどんどんねずみ講のように増えていけるように少しでもお力添えをしたい。」
本心、だけどつまらない。惹かれない。私は、「違う」。

この気持ちにそろそろ踏ん切りをつけたい。
パスタをかみちぎりたい。
口につめこみすぎて、のどに詰まらせてしまう前に。

「でも結局またほったらかしにするでしょ」
よくわかってる、さすがワタシ。
「どうするつもり?」
「ねえ、どうしてとろサーモンって、サーモンとろじゃなくて、とろサーモンっていうんだろう。普通逆だよね。」
「私、そんなんじゃいつまでたってもなにも解決しないよ。」
「そうだね。」
よし。今日の夜ご飯は、サーモンクリームスパゲッティにしよう。

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