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月の夜、本を読む 「源氏物語」を読む

光源氏の孤独な宇宙

「源氏物語」は平安時代に、かの紫式部が書いた長編小説で、その主人公、光源氏は(作中、様々な呼び方をされるが、ここでは光源氏と呼んでおく)、国の中枢で政治家として活躍しながら、様々な女性と関係していく。

その中で、紫の上という女性は、幼少の頃、光源氏に引き取られ、成長してからは、光源氏の、ほぼ正妻的な地位を保ち続ける。

しかし、紫の上が30歳前後の頃、光源氏は、紫の上より身分が上で、まだ十代前半の三の宮という姫君を、正式の正妻として迎えることになる。
身分も立場も上の三の宮(しかも紫の上より全然若い!)を、紫の上はおだやかに迎え、三の宮と仲良くやっていこうとすら努める。
光源氏もそんな紫の上に、変わらぬ愛情を持ち続ける。

だが、今までの立場を奪われた紫の上の心は傷ついている。
やがて紫の上は、出家したいと光源氏に申し出る。
光源氏は紫の上を愛しているので、自分より先に出家することは許さないと、紫の上に出家を禁じる。

紫の上は、多分、自分の生きている現実に対処していくのが、もう、イヤになってしまったんだろうな。
自分より若く、美しい(作中、紫の上はそれ以上に美しいとされているのだが)、身分も高い女性と、今後も張り合うように生きていかなければならないことに、つくづく疲れを感じてたんだろうな。
その紫の上の現実は、光源氏が作り出したものだけど、その光源氏の宇宙から、出家することで逃げ出したかったんだろうなー。(ちなみに紫の上には出戻り出来るような実家は無い)

紫の上は、この後、病気になって死んでしまう。
この死は、物の怪によるものともされているけど、紫の上は、出家出来ないのならこの世からいなくなることで、光源氏の作り出した宇宙から逃げ出したのかもしれない。

そうして、あとに残されたのは、光源氏の孤独な宇宙だ。
最愛の女性、紫の上が永遠に去った後、光源氏は、その孤独な宇宙に、一人呆然と佇んでいる。

あの夜空に輝く月のように。


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