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Real-Chatは、理由を教えてくれない。

『。。。今日の夕飯は食べない方がいいでしょ。。。』


(な、なんだ?突然…)


ボクのReal-Chat ”ピロリン”が変なメッセージを送ってきた。


「なんで?」
『。。。』

(そうだった…コイツ、理由は教えてくれないんだった…)

「で、ヒロちゃんへの言い訳は?」

『。。。“今日、急な飲み会が入った。後輩の坪井が悩んでるらしくて、ね”、で、どうでしょう?。。。』
「分かった」
(全く分からないけど…)


Real-Chatは、AIがありとあらゆる判断をしてくれる便利なツールだ。
その判断は”ほぼ”正確で早く、ボクは結構、頼りにしている。

たたね…難点が3つ。


1つは、それはそれは莫大な量の、ありとあらゆる身近なデータを入力しなくてはならない事。

コレが結構厄介で、せっかくChat-Realを試そうとしても、この段階で諦めてしまう人も多い。
(だって、「上司の口癖」、ぐらいならまだしも、「好きなパンツの柄」って、そんなの知らないし、だいたい、どうやって確認すんだ?)

ココがキモだから、ね。
コレを適当にやって、とんでもないアドバイスに従った結果、浅井は会社、やめちゃったモンなぁ…
いや、もしかしたら、ソレが正解だった日かるかもしれないけど。

ボクは、この入力を完璧にするために、去年の夏休みを全部潰した。
ヒロちゃんにはものすごく文句を言われたが、仕方ない。
ここで、妥協する訳にはいかないのだ。


2つ目は日々のデータ更新。

まぁ、コレはだいぶ慣れたから、朝4時に起きて、2時間もあれは、できる様になった。


そして、3つ目…
ほぼ間違わないんだけど、たまに、よく分からない指示が飛んでくる。

そして、その理由は教えてくれない。

ただ、”そんなコトあるわけないでしょ”ってコトが実際に起こると…
イヤでも朝4時に起きざるを得ない。

(そして、外れた事を突っ込むと『データ入力が足りません』とノタまう)


厄介なヤツだ。


でも、最近、ようやく使いこなせる様になったピロリン。

なんだけど…


先々週に続き、2度目だ。

『。。。今日の夕飯は食べない方がいいでしょ。。。』
「なんで?」
『。。。』
「そんなに美味しくないの?」
『。。。あくまで予想です。ワタシは食べられませんが、もしその様な行為ができたら倒れるかもしれません。。。』
「どういうコト?」
『。。。あくまで予想です。決めるのはアナタです。。。』


(分かった、分かった。だから、理由を教えてくれって...
 だいたい、こうなるんだよなぁ…)


「で、なんで言い訳するの?」
『。。。“仕事が終わりそうもないから、何か食べてから、残業だヨ”でどうでしょう?
 。。。ハマヤ向けの資料を完成させて、明日の朝、部長に提出するといいでしょう。。。』
「えっ?ハマヤの締切は来週だよ。いくらなんでも、明日の朝は無理だよ」
『。。。明日の部長会で、ハマヤの話題がでるはずです。お昼の田島産業のニュースは、ハマヤになんらかの影響があると思われます。。。』

「りょーかい」
(いゃぁ。。。でも、コレを仕上げるのか…)

「で、どう仕上げる?」
『。。。まずは、・・・』


そして…
ピロリンが正しかった。


その日の夕方、部長から、
「足立君、いつもながら、さすがだねー。昨日のハマヤの資料、よくできてたヨ。あのタイミングで出してくるなんて、他の部長も関心してたよ」
「いやぁ、ちょうど手をかけてた所だったので。若干、情報不足の面があるとは思いましたが、早くお知らせすべきと思いまして」
「だいたい知りたいポイントは押さえてあったよ。ありがとう。また、一杯、行こうヤ」
「はいっ」(ふぅ…なんとかなったか…)


いや…何ともなっていない事がある…

そう、ヒロちゃんが、最近、夕食をたべないボクをアヤしんでいる。

(なんで、夕飯、食べない方がいいんだろう?)
(でも、コレぐらいは、自分でなんとかしたいよなぁ)


さて、困った…
早速の部長からの誘いを断って、今日は自宅で夕飯。

昨日、ほぼ徹夜だったので、疲れて、
「さっぱりしたものが食べたい」というボクの願いを
具沢山!冷や奴で叶えてくれるヒロちゃん。

ありがたい!んだけど…
ちょっと、なんだか、ぎこちない…

ふと、台所の端の方に見慣れない調味料が目につく。
(なんだろう?辛いの…か?)

「なんか、美味しそうな調味料、あるじゃん。さっぱりヤッコにかけたら、美味しんじゃない?」
「あぁ、アレ?かける?
 だいぶ前に、あなたが出張に行った中国で、得意先からもらってきたヤツだよ」
「あぁ、そんなのあったっけ?でも、メッチャ辛かったかなぁ…
 まぁ、今日はいい、かな」
(確かに、辛いものは無理矢理食べさせられたけど、お土産なんて、もらったっけ?)

「麻婆豆腐とかにあいそうだよね。今度、作ってよ。」
「…その、つもり、なんだけど、ね…」

(ん?なんか、いけない事、言った?)


(そう言えば、最近、なんかギクシャクしてるよなぁ...)

(いや、でも、結婚5年目で、まぁまぁ上手くいってるんじゃないの?
 まぁ…確かに、去年の夏休みは全部潰したし、
 朝も早いから、夜もサッと寝ちゃうし…)

(そう言えば、オレ、最近、何、話してる?
 いゃ、そもそも、何、言われてる?)

(今年の夏休みも、何も計画してないしなぁ…)


(ん…?
 そういえば...あの調味料の隣に、毒のマークついたもの、なかった?
 えぇっ?どういう事?まさか、いやいやいや...)

なんか色々考えてしまって、寝れず...
次の日の早朝。

「辛い調味料ってどんな時に使う?」
『。。。辛い調味料は、料理の味や風味を引き立てたり、食欲を増進させたりする効果があります。
 様々な種類や使い方がありますが、一般的には・・・』
「他に、そういうものは?」
『。。。たとえば。。。
 柚子胡椒:柚子とすり潰した唐辛子を合わせて作られる、香りが豊富な辛味調味料です。鍋や焼き魚、冷奴などに使います。
 タバスコ:ピリッとした刺激的な辛さが特徴のホットソースです。トマトやチーズなどと相性が良く、ピザやパスタなどに使います。。。
 。。。他にも出しますか?。。。』
(ふ〜ん)


「検出されない毒ってあるの?」
「。。。検出されない毒というのは、存在しないとは言い切れませんが、非常に稀であると思います。 毒物は、その化学的性質や生物学的作用によって、様々な方法で検出することができます。 例えば、・・・』
(なんだ、大丈夫じゃん)
「。。。しかし、毒ではありませんが、体調等により身体との相性の悪い物質はあります。場合によっては死に至る事もあります。。。」
(マジか…)


あれから、なんだか色々考えてしまって...
夜も寝れない。食欲もない。
仕事にも精細を欠いている。
なぜなら、早朝の入力ルーティーンの時間に、余計な事を調べてしまい、
いつもの時間を取れないから、出てくる”指南”の精度も良くないのだ。

そして・・・
皮肉にも、
ボクは前よりも、ヒロちゃんの一挙手一投足を見るようになった。

お互いが、腫れ物にでも触る様に、行動している。

(一体どうしちゃったんだ...ボク達は...)


そんな日が続き、
もう限界だ...今日は...思い切って聞いてみよう、
と思ったその朝、
それはやってきた。


『。。。今日の夕飯は食べない方がいいでしょ。。。』

「だから、なんでだよ!なんなんだよ!一体!」
『。。。』


もういい。
悩んでたってしょうがない。

ボクは、ピロリンの指示を無視して、仕事の後、家に帰った。


「ただいま」

もぅ、この時点で、心臓はバクバクしている。
いつもと変わらない様にすればするほど、上ずる声。
もう、涙が出そうだ。

夕食は、麻婆豆腐だった。
いかにも辛そうな真っ赤な色をしている。

(ここに、何か入ってても気付かない…か…)

まだ、一口も食べてないのに、汗ダクのボク。

「ダイジョウブ?」

「大丈夫。今日は暑いね。この辛そうな感じだけで、汗かいちゃうよ」
「そうね…食べようか?」
「あぁ、うん。いただきます」
「いただきます…」

「この、辛いの、かける?」

(ソレがアレなのか???)

「いゃぁ、最初は大丈夫。そのまま食べまでみるよ」
(ソレともコッチか…???)

(どうしたらいいんだ…???)

「本当に、ダイジョウブ?」

「う、うん…
 (えぇぃっ)いただきます!」

「うっ!
(辛いよりも…ナンダ、コノ、シビレル カンカク…コッチ…ダッタノカ…)」


そのまま、ボクは倒れた…


白い天井…
気がつくと、ソコは病院だった。

(あぁ、毒を盛られて、倒れた…んだっけ…)

「気が…付いた…?」
「あ、あぁ…うん…」
「お、気付かれましたか?」
「はい、先生、ありがとうございます」

「…ボクはいったい…」

「まぁ、過労ですね。最近、ちゃんと食べてました?それに、あんまり寝てなかったんじゃないです?」
「…へっ?」
「今日、1日寝れば、大丈夫でしょう」
「…えっ?」
「どうかしました?」
「ど…ドク…は?」
「はぃっ?」
「いゃ…だって…毒を飲んで、倒れた…んじゃ…」

「ちょっと、何言ってんの?」

「いゃ…」


ココントコの状況を話すボク…


「ちょっと、アタシのコト、そんな風に思ってたワケ?」

「いや、そうじゃなくて…」
「だって、もう、信じられないくらい痺れる感覚があったし...」

「そりゃ、そうでしょ。世界で一番”痺れる”ラー油使ったんだから」

「へっ?」

「だって、アナタがもらってきたんじゃない。それ。
 その時にも、”麻婆豆腐に入れようヨ”っていってたじゃない」

「へっ?」

「まぁ、その後、すぐには使わなくて、忘れちゃったけど」

「でも、見つけた時に、言ってくれれば」

「そうかもしれないけど…見つけた時、すでに賞味期限を5年過ぎてたし」

「じゃぁ、あのドクロマークは何?」

「えぇ、その時に、”辛味はコレで”って一緒に買いに行ったじゃない!」

「へぇっ?」


「じゃぁ…」

「そもそも、何で、毒を盛るのよ、ワタシが...」

「いゃ、その理由が分からなかったから、ねぇ…ここんとこ、どうしていいか分からなくて...」

「それは、コッチのセリフ。もう1年ぐらい、夜も、朝も、まともに会話してないじゃない」

「ゴメン…」

「最近、避ける様に、夕飯、食べないこと、あったし...」

「そ、それは...」


ボクが、Real-Chatをやってる事を言うと...

「そんなのに頼って...自分の考え、ないの?
 ちょっと…ちゃんとしてよ。
 もぅ…そんなんだったら、AI通しで会話すればいいじゃない。
 ワタシはなんなの?」


これ以降、ボクはピロリンは”参考”程度に使う事にした。
そう、”使わない”という選択肢はなく...

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