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ギャートルズの仮装で選手宣誓をした話し😁

選手宣誓。
普通は、『正々堂々」とか『全力で闘う事を』とか...
そんな感じだと思うんだけど...

ボクの場合は違った。




体育祭の2日前、突然、職員室に呼び出された。

ラグビー部顧問の体育教師に。


「おぃ、バシよぉ。お前、いったいどういうつもりなんだ?」

(???)

「ったく、聖火ランナーは毎年ラグビー部がやるって決まってんだよ」

「はぃ?」

「だから、
 なんで、お前が聖火ランナーをやるんだって言ってんだよ」

「…いや、なんでって…実行委員から言われた…から…」


よく状況が飲み込めない…


「あぁ?
 じゃ、実行委員会が『聖火ランナーはラグビー部にします』と言えば、
 いいんだな?」

「…はぁ.まぁ…」

「よーし、分かった。おぃっ、ちょっと、大坂呼んでこいっ!」

(…)

「だいたい、
 そんな細い腕でよく『聖火ランナーやります』とか、言えたなぁ」

(いや、オレ、言ってないし…)


そもそも、
ラグビー部顧問の三沢センセイは、典型的な昭和の熱血体育教師で、
「オレの言った事が絶対なんだよ!」的な感じだった。




それは、体育祭の2週間前…

実行委員長の大坂君から、突然、

「あっ、バシ、お前、聖火ランナーに決まったから。ヨロシクぅ」

「な、なんで???オレぇ?」

「体育祭の選手宣誓と聖火ランナーは、運動部で特に優秀な成績を収めた人がやるって決まってるんだよ。で、バシと、今年も関東大会に出場したラグビー部から、金沢かやるって決まってさ」

「へぇ…」

「大丈夫だよ。松明持って、走るだけだから」

「ゲっ、火、ついてんの?」

「聖火なんだから当たり前でしょ。もう、決まってるからネ。ヨロシクぅ」

「そぅ…まぁまぁ…いいけど…」


そう、

ボクはこう見えて、意外と運動神経がいい。

ではなく…

運動はあまり得意ではないボクは、
インドア的で、そんなに身体を動かす必要のない部に所属していた。

狙いを定めて打つコトに憧れて入った弓道部。
その弓道で、まぁまぁの成績を出しているノダ。

そして、
去年、関東大会で準優勝したノダ。
(優勝でないのが…なんともボクらしい。弥生時代とかに生まれてたらヒーローだったんだろうか?)


(こんな事なら、最初から引き受けなければよかったかな。
 聖火ランナーなんて…)


ボクの高校は、比較的、自由な校風の男子校で、
髪型も自由だし、
文化祭や体育祭運営なんかも学生に任せて、好きにやらせてくれている。


そんなワケで、体育祭の入場行進は、

自由に仮装してヨシ!(いや、仮装すべし!)

となっていた。


むしろ、親や近所の人だけでなく、
近くの、いや、遠くからも女子高生が見に来てくれるので、
入場は、ある意味、ボク達の見せ場なのだ。


見せ場なんだけど…


ボクが聖火ランナーをやる事を知った羽生・宮・浜野の11組 ビッグ3が、面白がって、

「じゃ,よぉ。仮装は、“はじめニンゲン ギャートルズ”にしようぜ」

「なんだそりゃ」

「真っ裸に、肌色に塗ったパンツ穿いて、チン〇に緑色の葉っぱ貼って」

「おっ、面白いじゃん」

「イイねぇ」

(イヤイヤ、ヨクナイッテ…)

「いやぁ、コレで、バシの聖火ランナーもだいぶ目立つだろ」

(イヤ、ソウイウコトガ、シタイワケデハ…)


もう、クラスは“ギャートルズ”で一致団結している。

きっと、「えぇ〜…」って思ってる同級生も少なからずいたろうけど、
反対できる雰囲気は全くない。


で、
ボクは、マッパで聖火ランナーをやるはずだったんだけど…

(まぁ…どっちをやるにしろ、“裸”だってコトだよな…)




「えっ、なに、バシ、聖火ランナーじゃなくなったの?」

「そう。
 三沢から、“聖火ランナーはラグビー部がやるって決まってんだ!”って言われて、ね」

「なんだよ、あのヤロー。
 せっかくバシが裸でグランド一周するってのに!」

(ダカラ、ヤリタイワケジャナインタヨネ…)

「全く、アイツはいつだって強引だなぁ!」



三沢センセイとボクたちは、ちょっとした確執があった。


なんてったって、ボクらのアイドルだった国語のユウコ先生と、突然、結婚したのだ。

「あのヤロー、絶対、力任せに押し倒したに違いない!」

「バっカやろー…っ…」

と、夏休みの合宿の最中、夜中にプールに忍び込んで、叫んだりもしてた。



それに

修学旅行では、ボクたちの部屋から何故か麻雀牌が出てきた時には…

「バカやろー、オレだって、杯握んの、我慢していたのに、なんでお前らが、こんないい牌、使ってんだ!」

「いやいや…ホントに知りませんって」

「コレは、没収たからな!」

「…いや、ホントにオレらのじゃないんで、イイですけど…」

「おーしっ、それから、罰として、ロビーで腕立て伏せ100回やってこい!」

「いゃ、だから、本当にオレらの・・・」

「ウルサイ!いいからやってこい!それとも200回にするか?どうせ紙麻雀やってたんだろ。牌使ってなくても同罪だ!行けっ!」


こうして、ボクらは、出発間際の慌ただしいロビーで、腕立て伏せをやるハメになった。

そして、牌は三沢センセイの元へ…


「バシさぁ、選手宣誓って、列からチョコっと出るだけ?」

「まぁ、そんな感じだよね、きっと」

「なんだヨォ、つまんねえなぁ…」

「だから、アレだよ。三沢は、悠々とグランド1周して、ラグビー部、アピールしたいんだよ」

「かぁ…きったねえ!」

「コッチだって、11組、アピールしたいよなぁ!」

(そっか…裸でグランド1周するよりは、宣誓の方が短いかもな…)




そして、体育祭当日…


3年11組のボクたちは、最後尾での入場だった。

各クラス、嗜好を凝らしているが、
やっぱり、葉っぱ1枚がウケたのか
(遠くから見ると本当に真っ裸に見えた様だ)
ボクたちの入場が1番盛り上がっていた。


コレには「恥ずかしい」と言っていた、普段、大人しめの友達も、
何かが吹っ切れた様に飛び跳ねながら行進していた。


で、
校長先生の言葉とか、
ラグビー部の聖火ランナーとか、滞りなく進み…

とうとう、

選手宣誓…


(好きにやって、いいんだよな)

と言うか、
チン○に、葉っぱ1枚の時点で、普通の選手宣誓じゃない!

列から一歩でた段階で、
すでに、生徒も、見学者も(モチロン、女子高生も!)
そして、センセイも、みんな大爆笑してる。


(ふぅ…)

みんなが笑ってるけど、なんだか吹っ切れた自分がいる。



『センセェ〜っ!」


こんなフザケたカッコでも、一応、皆、シーンとしてくれていた。

(ニヤリ)

「優勝はぁ、ワレワレ、ギャートルズが、もらったぁっっっ!!!」


(???)


「生徒代表 3年11組ぃ バシ・・・」


一瞬、?でいっぱいの人達で沈黙する校庭…

直後…

他のクラスからの怒号と11組の歓喜が入り混じり、カオスとなった。


そのカオスの中、一人、ニヤッとしたボク、

そして、クラスの列に戻ろうとした時、
苦い顔をした三沢センセイと目が合う。


(やってやったゼ!)


三沢センセイと睨み合い、少し優越感に浸っていると、
飛んできた羽生から頭をバシバシ叩かれる。

「バシっ、よく言った!オッシ、今日はやってやろうぜ!」

「だな!」

「しっかし、こういうコトは、最初に教えといてくれよー」

「それじゃ、面白くないでしょ」

「いやぁ、イイ感じになってきた!」

「だな!」


体育祭は、いつも以上に盛り上がった(と思う)


ボク達は、最後のクラス対抗リレーを残し、
3点差の総合2位につけていた。


「オッシャ!このまま勝って、ギャートルズ、優勝だ!」

「おぉっ!!!」

羽生の檄が飛ぶ。


そして…

最後のリレーは1位ではなかったけど、
2位でフィニッシュし、
結果、
ボク達、ギャートルズは大逆転優勝を果たしたノダ!



「バンザーイっ!バンザーイっ!」


校庭のど真ん中で、歓喜の万歳三唱。

それに、水を差す様に、宮がボソッと言う。

「っつうか、バシ、活躍した?」

「…知ってて、言う?」

「メンゴ、メンゴ。
 いやぁ、あの宣誓がなかったら、こう、劇的にはならなかっただろうね」

「でしょ?やっぱMVPはオレだね」




「って、コトがあってね」

「ふ〜ん…でも、トウチャンは活躍しなかったんでしょ」

「…まぁ、そうなんだけど、ソコが大事じゃない」

「???」

「キャプテンには、どんな状況でも、チームを盛り上げてく必要があるってコト」

「まぁ、そうだけど、さぁ…」

「今度の日曜日、最終戦が三浦FCだろ。
 一番最後に1番強いチームじゃぁ、なぁ…
 厳しいけど、でも、キャプテンとして、チームを鼓舞する事はできるでしょ」

「まぁ、ね…でも、裸にはならないよ」

(ダカラ、ソウジャナイ(笑))


今年の春の少年サッカー大会、

コウタのチームは、最終戦を残して、暫定2位となっていた。

そして、
最後の相手が、いつも決勝トーナメントに進んでいる三浦FCだった。

そう、決勝トーナメントに行くには、この強豪を倒すしかなかった。


相手の方が実力は上で、厳しい事は分かっている。

でも、ね…

ひょっとすると、ひょっとするコトもある。


何かのキッカケがあれば。


(まぁ、とにかく、全力でやってこい!)


そして、
試合の当日…


キャプテン コウタの口からは、優勝宣言は出ず、
モチロン、マッ裸になるコトもなく。


「今日は、みんなでやり切ろう!
 終わった後、『全力でやって良かった!』と言おう!
 さぁ、いくぞぉっ!!!」

「おぉぉぉぉっっっ!!!」


(うん、まぁ、いい感じじゃないか)


白熱した試合は、押され気味ではあったものの、
みんなで守り、前線から激しくブレスをかけ…

ベンチの選手達も、声を振り絞り、味方に力を与えている。

全員が普段以上にアグレッシブに行き、なんとか失点を防いでいた。

(この春の大会だけで、ものすごく成長したなぁ)


そして、
後半5分過ぎ、

一瞬のスキを付いたジュンゴのミドルシュートが決まった。


「ま、マジか!」

『ヤッター!!!』


それからの残り10分…

こんなに長い10分はなかった。


三浦FCの選手にも、焦りとイライラが出てきていた。
さらに、相手監督の怒りは、頂点に達していた。


(ガンバレ。あんなの気にするな!
 最後まで自分たちのサッカーをしろ!)


ロスタイムも永遠に感じられる。


そして、おそらく、これが、ラストプレー、

三浦FCのコーナーキックだった。


(頼むゾ)


パシュッ!


沈黙の中で蹴られたボールは…

目が離せない…けど、見てられない。


ドンっ!


三浦FCのヘッディングが炸裂する。


一瞬、誰もがやられた…と思ったボールに、かろうじてキーパーのサクが触る。


バーン!

ボーンっ!


バーに当たって跳ね返ってきたボールをコウタが大きくクリアした。


そして...ようやく...

「ビッビッピー」


「や、ヤッター!!!」

「ウォー!!!」


勝った!


「どうですか、今の気分は?」

笑顔で戻ってきたコウタに、ヒーローインタビューの様に、マイクを持った風のコブシを突き出す。

「メッチャ、やり切った感で…気持ちいい!」

「活躍しましたか?」

「ちょー活躍してたでしょ!トウチャンと違って!」

(アタタタタ(笑))


いやぁ、全力で何かするって、素晴らしい。
見てるだけでも元気がもらえる。


「よぉしっ、今日は焼肉だぁっ!」

(イヤイヤ、ソレを決めるのはオマエじゃない(笑)
 まぁ、でも・・・たまにはいいか)



きっと、選手宣誓って、こんな感じなんだよね....

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 これからも、よろしくお願いしますっ!