考察 「冥婚ゲシュタルト」の舞台地について

『冥婚ゲシュタルト』の舞台地は何処であろうか。
「ザムザ阿佐谷」でしょ?と言う人の為に一応言っておくがそう言うこっちゃない。
 舞台を見た時私の頭に浮かんだのはハルミ博士の研究所が富士の裾野の森林の中で、指輪教寺院は同じく富士山周辺の山梨側のイメージだった。これは私がおっさん故の連想なのだが、私の世代で研究所と言ったら富士の裾野なのだ。そこにある研究所と言えば「マジンガーZ」の光子力研究所だ。今でもちょっとワクワクする。富士山のイメージに引っ張られたせいもあるかもしれないが怪しげな宗教施設で連想したのがオー〇真理教。山梨の上九〇色村のサティアンだった。
 勿論これは本編と照らし合わせれば距離的に無理がある。では秘密クラブ・アークは本当は何処にあるのか。ハルミ博士の研究所は、指輪教寺院は何処にあるのか。
 『冥婚ゲシュタルト』の聖地を真面目に考察したい。

 考察したいと言ってみたものの何度本編を見返しても所在に関する検証材料がほぼ見当たらない。そもそも舞台が日本なのかと言う問題もあるが、そこを言っちゃうともう考察のしようがないので現在の日本の東京ですと言い切って考える事にする。
 経験上では検証材料が少ない時は思考の起点を一つ作りそこから考えを連鎖させていくのが有効だ。
 そこでアマヤスの足取りに注目してみる。何故アマヤスかと言えば全登場人物の中で彼が最も居場所を確定できる人物だからだ。

 まず冒頭の秘密クラブ・アークからハルミ博士の研究所に移動し次に指輪教寺院、バー、自宅、会社とその足取りを追跡できる。ここで注目すべきは「バー」だ。このバーは会社の近くにある筈だ。何故なら翌日、彼の人形遊びが会社で噂になっているからだ。会社の同僚が偶々アークや指輪教寺院に居たとは考え辛い。ならばアマヤスの「人形遊び」とはバーでのミチコとのやり取りとその後一緒に店を出た事からの推測を指しているのだろう。
 私は「ハルミ、ミチコ、アマヤス 三人記」の中でこのバーを「馴染みのバー」と表現した。何なら会社の同僚と一緒に飲みに来た事もあったかもしれない。それ故に偶々同僚達に目撃された事は自然であり、またその店が会社の近くにある事が想像できる。
 ではそのバーは、そして近くにある会社は何処にあるのだろうか。前述の三人記の中で私はアマヤスを資産家の息子で大手企業勤務とした。東京のオフィス街で近くに資産家の息子や大手企業の会社員が行きつけるバーがある場所と言ったらやはり丸の内と銀座がしっくりくる気がする。

 ついでに言えばアマヤスの自宅マンションもそう遠くない場所にあるだろう。坊ちゃん育ちの彼が満員電車に乗っている姿は想像できない。ヒラサカは毎朝満員電車で揉みくちゃにされているイメージだが。やはりアマヤスの通勤は徒歩かハイヤーだろう。徒歩なら東銀座辺りかもしれないが高層マンションに住んでそうなイメージがあるので晴海辺りが妥当だろうか。

 バーを銀座とすると指輪教寺院の場所もそこから遠くない場所だと思われる。何故ならアマヤスは指輪教寺院を後にしてバーに向かっているのだ。そしてそのバーは邏卒隊から逃げて来たミチコと出会う場所でもある。おそらくミチコは街を彷徨うように歩きバーに辿り着いた筈だ。彷徨うと言うからには1時間程は歩いて欲しい。
 移動距離にすれば5km位だろうが道に迷いながら歩いた事だろうから実際には4km弱位の距離だろうか。もう一つ大事な条件がある。バーから4km弱の距離と言う事は会社からも同じ位の距離と言う事だ。しかし本編ではアマヤスは寺院の存在を知らない様子だった。それは人形差別者のアマヤスにとって(この辺りも三人記で書いているのでそちらを参照して頂ければ)人形と人間の懸け橋になる寺院は不要な情報だった事もあるだろうが、寺院の所在地が心理的に目に入らない場所、つまり普段彼が寄り付かない土地だった可能性もあるのではないだろうか。
 銀座から4km弱の距離でアマヤスが普段行かなさそうな場所。秋葉原とかどうだろう。多分彼は電気街で家電やパソコンを買ったりとらのあなで同人誌を探したりはしないだろう。勿論AKBもガンダムカフェも興味は無い。
 私が指輪教寺院の所在地に秋葉原を選んだのはもう一つ理由がある。「秋葉原」の「秋葉」とは秋葉権現の事である。秋葉権現は静岡の秋葉山で信仰されている火防の神で全国に分社がある。明治の初め頃東京で大火事が続いた時に鎮火社が建てられたのだが民衆は社に祀られていた神ではなく秋葉権現を信仰し、結果「秋葉原」と言う地名が誕生した。つまり秋葉原は元々何の所縁もない神を祀った土地と言う事だ。こうした土地は霊的に外来の神が入り易くなると言う。事実このような土地では何故か新興宗教の施設や勧誘、自称霊能力者の事務所が集まったりする。そういう意味でも新興である指輪教寺院が存在し易い場所と言えるだろう。さらに言えば神田川を挟んだ岩本町駅の辺りではないだろうか。末広町駅方面には神田明神がある。宗教とは陣地争いのようなものだ。新興のショップが老舗ブランドとバチバチやり合うのは中々厳しい。そこで川を挟む。「川」は土地、ひいては世界の境を意味する。彼岸と此岸では別世界なので神田明神の威光も届かない。

 残すは秘密クラブ・アークとハルミ博士の研究所だがこれが難物だ。何しろ材料が少ないどころではない。皆無なのだから考察のしようがない。前述したバーや会社や寺院も仮定を土台にしたこじ付けに近い物だがそれでも一応の筋は通っていると思っている。しかしこの二つに関してはこじ付ける物すら見当たらない。
 完全に個人的なイメージのみで語るならアークは歓楽街にはないだろう。秘密クラブと言う位だから大広げで看板を掲げてるとは思えない。そして私の持つ秘密クラブのイメージは仮面をした客達が黒塗りの高級車で乗りつけるイメージだ。更に残酷ショーはふ頭の倉庫がよく似合う。とは言え周辺に人が少なすぎても悪目立ちし過ぎて宜しく無い。ついでにギンバイカの移動の利便性を考えて指輪教寺院がある秋葉原へのアクセスも考慮したい。
 以上を踏まえると竹芝ふ頭か芝浦ふ頭、もう少し足を延ばしてお台場も良い物件が揃ってそうだ。だがやはりここはショー繋がりで劇団四季公演本部と劇場のある竹芝ふ頭が相応しいか。首都高のジャンクションもあるから車でも来やすいしね。

 ハルミ博士の研究所は貴方の心の中にあります。おしまい。
 これで本当に終われたらどんなに楽かとも思う。だって本当に見当もつかないんだもん。研究施設なんて東京に幾らでもあるしその所在地にも特徴がある訳じゃないから何処にあってもおかしくない。しかしそれでは身も蓋もないので想像力を最大限発揮して考えてみる。
 まずアークから逃げ出した三人。逃げる手段は車だろう。一刻も早くアークからと言うか邏卒隊から離れたいなら徒歩はあり得ない。鉄道もヤエコが目立ちすぎる。通報されれば袋のネズミだ。焦ってもいるだろうしやはり来る時に使い待たせておいたハイヤーに飛び乗ったのではないだろうか。何方にと問う運転手にとにかく出せ早くしろと答え車を出させる。何度も振り返り邏卒隊が追ってこない事を確認した時首都高の高架が目に入る。あそこなら信号で止まって追いつかれる事もないと思ったかもしれない。浜崎橋JCTから都心環状線に入る。
 さてここからどうしたものか。心理的言えば人間は無意識に左回りを選択する。麻布方面に向かいそのまま目黒線に入っただろうか。反対の霞が関には警視庁も検察庁もある。特高から逃げている人間としてはやはり近付きたくはないだろう。そのまま目黒線を下り続けると何処に着くか。中原街道で降りその先の大きな交差点を右折し進むと右手に武蔵小山駅が見えてくる。何て事だ。月光密造舎に着いてしまう。いや、流石にこれは悪乗りしすぎだ。
 首都高に乗った辺りまで戻ってやり直す。本来はここでヤエコが何かしら行き先を告げた筈だ。ヒラサカとアマヤスがハルミ博士の研究所の場所を知っている筈がない。しかしだとするとこれ以上の考察は不可能だ。もとより住所を知らなければ想像すら無理だ。麗華さんばりに「お手上げだ」と言わざるを得ない。
 やはりTARUHOビルを解体した跡地にハルミ博士が将来的に研究所を建てると言う事でお茶を濁したい。

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